第3話2人の出会い―過去

【2人の出会い―過去】


そもそもの始まりは、小学校3年の時、栞とおばさんがうちのマンションに引っ越してきた。


父親はとうさんとかあさんと大学から一緒でインターンが終わるとそのまま3人とも同じ大学病院で医師をしていた。

それが系列の病院で夜間に大変な事が起こったとかで手伝いに行った帰り、酒気帯び運転の車に…交通事故でなくなった。


それがショックでおばさんの落ち込みがひどくて、住んでいたマンションは思い出が多すぎるから、売ってどこか田舎にでも引っ越そうかと思っていたらしく、そこでとうさんとかあさんが、いつか立ち直ったとき、思い出がなくなるのはつらいだろうから、今はそのまま誰かに貸して、うちのマンションにおいで、と言って、それで引っ越してきた。

そういう事だから引っ越してきたときは2人ともすっごく暗くて、栞なんか誰とも口をきかないくらい地味で暗かったんだ。


俺はとうさんとかあさんから、こういう事情だし同じ年だから仲良くするように言われ、学校でも家でもよく栞と一緒に遊んでいた。

当然2人いつも一緒だったから、からかう奴もいたけど、そんなのは無視して、ずーっと一緒にいた。


小学校4年になったとき、栞が父親と同じ医師になるって言って中学受験の勉強を始めた、中高一貫の超難関進学校に行きたいから。

俺は将来の夢なんてなかったけれど、栞に誘われて一緒に塾に通う事にした。

今までのように一緒に遊ぶ機会は減ったけど、塾の行き帰りは一緒、毎月のテストの結果でクラスが変わるんだけど、一緒のクラスになったのは2回だけ、いつも栞は俺よりはるか上のクラスだった。

でも栞はそんな事気にしないで行き帰りは一緒で、日曜なんか2人で遊ぶことも多かった。


小学校4年の時、あの公園で栞が医師になりたいから塾に通うって言った時、俺は

「すごいね、でも栞ならなれると思う、がんばれ、俺にできることがあればなんでもするから」っていうと

「かっくんも一緒に塾に行かない?」

俺は何も考えず「うん」

「じゃあ、ずーっと一緒だね」

「うん、ずーっと一緒だよ」

「ずーっと一緒って大人になっても一緒って事?」

「うん」

「それって、私をお嫁さんにするって事だよ?」

「うん、栞をお嫁さんにする」

「そっか、じゃあ私、かっくんのお嫁さんになる」

「うん」

そうしてずーっと2人一緒だと思っていたが、それが崩れた。


小学校6年11月、受験に向け本格的な勉強が、塾も今までよりコマ数が増え、休みは希望中学向け対策の特別講習。


半年前にとうさんが、災害地に救援活動として派遣され、かあさんは俺の受験もあることから、日本国内でその活動のサポートメンバーとして、そして11月に俺の受験も近づいてきたからとうさんが帰ってくることに、その際、かあさんが引き継ぎの医師を連れて現地に入り、とうさんと一緒に帰ってくるはずが……3次災害が起きて2人とも……まさか3次災害なんて誰もが思った。

それを聞いた時、俺は……頭の中が真っ白に、何も手につかず……当然中学受験の勉強なんて……


そんな時、栞は自分の勉強が一番大切な時なのに、俺のところに通ってくれた。

別に何をするわけでもなく、ただ隣にいてくれて、飲み物やお菓子やいろいろ買っては持ってきてくれ、ただ食べて、飲んでぼーっとしている俺の横に座って、時々俺の頭を撫でてくれたり……うれしかった、救われた。

ただ隣にいてくれるだけで平静が保たれていた。

自分の受験勉強が大変な時に、こんな俺のために。


結局、俺は中学受験をあきらめ地元に中学に。


栞は本来行きたかった全国トップの桜女子をやめて2番目の女子学園に受験を変更、みごと受かった。

その時、一緒に俺を慰めてくれた栞と従姉と3人で合格祝いをしたけど、逆に俺が慰められたのを覚えている。


中学はバラバラでも、時々栞は俺に声をかけてくれ、誕生日には栞の家でおばさんと一緒に祝ったり、2人でおでかけしたり、クリスマスは俺のところはじいちゃんと2人で、じいちゃんはケーキでも買えばいいんだ、ってくらいの人だし、協会や道場の人達との付き合いがあるから家にいたことはなかった。


栞の家でおばさんと3人でクリスマスを祝ったり、初詣も花火大会も、よく栞と一緒に過ごしていた。

中学2年の時、俺もとうさん達みたいな医師になるって栞に宣言して、高校受験のために塾に通うことに、それでも頻繁に栞の家族と一緒の時が多かったが、3年生になり、本格的に受験勉強が始まると、今までのように栞のところには行かなくなった。

自分の行きたい高校には成績が足りない、希望は都立東、実際には都立新縮が頑張ってぎりぎりなんとかなるかも、ってところだったんだけど、夢をかなえるには、やっぱり第1志望に行きたい、きついけど、栞の応援もあって、すっごく勉強した。


そのおかげで補欠だけどなんとか都立東に合格したものの、入学した時点でおそらく最下位、だから人よりたくさん勉強しなければついて行けない、それでも夢はかなえたい、その結果、こんな格好でこんな雰囲気だから……ぼっちに。


高校受験の時、栞はよく料理を作って持ってきてくれた。

勉強のじゃましちゃ悪いからと言って、すぐに帰るけれど、俺は来てくれるだけでとてもうれしかったんだ。

そっか、栞は俺の受験を考えて1年間、誘ってこなかったんだ

俺はずーっと栞に見守られてたんだな~。

栞は中学生になってからますます綺麗になっていった。

もともとかわいいと言うか、ちょっと大人びて憧れに近い存在だったけど、それが中学生になってから顕著に表れて、女子高じゃく共学だったら大変な事になってたんじゃないかってくらい綺麗になっていった。


じいちゃんと2人暮らしの俺は、おばさんもとうさんとかあさんと昔から仲が良かった事もあり、親のいない俺を誕生日やクリスマスに誘ってくれ、よく栞と一緒にいたけど、高校生になったら、きっと栞にはかっこ良いカレシがいるんだろうな、って思っていたのに、あんなこと言われて……うれしい、でも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


両親のいない、こんなぼっちの俺を、そんな昔の約束を口実に俺の相手をしてくれて、すまない気持ちで、本当は栞を開放しなければいけないんだろうけれど、でも俺は栞を離したくないという我儘な気持ちでいっぱいで、栞のあの言葉に、否定もせず、そのまま飲み込んでしまった。

栞、ゴメン、俺なんかと……


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