第17話境遇者の活動は続く

【境遇者の活動は続く】

GW3日目―豊洲の朝は早い



『最初はグ、ジャンケンポン』……

「かっくんよろしくー」

「いつも悪いな 」


////////////////////////

「あの~、またリュックがー」

「えー、もう一杯―?」

「何?」

最後の1頭を倒し終わって、コアを持って2人が俺の所にやってきて背中を見る

「だって、まだドロップも宝箱も見てないんだよ~、ずーっとミミックばかりだったじゃない」

「まあそうだけど」

「もう一杯なのか」

「はい」

「さゆりさん、なんか中途半端でもの足りないですよー」

「そうだね、やりきった感がないな」

そんなさゆりさん、今日も剣を2本つぶした。

「あの~、昨日、冒険者協会の素材買取所に行ったとき、この前の事を覚えていて、目を付けられた感じなんです」

「そうか、困ったな」

「はい」

「まあ、とりあえず今日はこれで終わりにして、素材買取所に行こうか」

「「はい」」

買取所に行って素材をリュクから出してテーブルに置くと、職員が

「今日もリュックいっぱいですね」

「はあ」

リュックを背負っているのは俺だから、俺が対応しているけど、

さゆりさんとゆうはちょっと離れたところにある椅子に座って、2人で何やら話をしている。

「いつも通り、査定した金額 をカードに振り込んでおきますね」

「よろしくお願いいたします」

「あの、明日も来られます?」

「はい、明日もよろしくお願いします」

いつもどおり査定金額をさゆりさんのカードに振り込んでもらう事で 今日1日が終わった。

「あの・・・今日でじゃんけん6連敗で・・・この前さゆりさんが考慮してくれるって、だから、俺、ボスと戦いたいです」

「え-、じゃんけんは?」

「1匹だけでいいです、どこかのフロアボス1匹、それが終わったら今まで通り、荷物持ちます」

「まあ、そうだな、確かにそう言った。じゃんけんなしで高谷にも戦わせてやるか」

「しょうがないわね、ずーっと負けっぱなしだものね」

「うん、今回だけだから、ありがとう」

やった明日はボス1匹やれる

でも、俺、じゃんけん強いはずなのに、いつからこんなに弱くなったんだろう?

豊島のダンジョンと中州のダンジョンの中層あたりだと、ボス以外は大したことがないから、荷物持ちをやる替わりに、じゃんけんで勝ってボスを1人で倒しまくるつもりでいたのに、5連敗。

あの2人とのじゃんけんの相性、めちゃくちゃ悪い・・・


まあ、明日は確実にボスモンスターと戦える。


今日1日わくわくしながら眠りについた。


うれしくて、1人でさっさと電車に乗っていつもより30分も前に駅に

ゆうは昨日と同じく10分前に

「おはよう、なんで1人で行っちゃうの?」

「ごめん、でも、今日はボス1匹やれるんだ」

「そうだったけ?」

「えっ、忘れたの?昨日約束したよね」

「えーっ、そんな約束したー?」

「ゆう~」

「うそだよ、そっかーそんなにうれしいんだ」

「うん、ボス1匹」

「うん、ボス1匹ね」

よく考えたら俺達上級ダンジョンの常連。

俺だって上級ダンジョンの10階層までなら、ソロでもやれるのに、なんで中級でこんなに喜んでいるんだ?

慣れって恐ろしい。

ダンジョンに入ると、2人は昨日の約束を忘れたかのように、俺を置いて淡々とモンスターを倒していく、

このままボスも倒してしまうんじゃないかって勢いで、俺が不安になっているのを一切気にしない。


俺はそれでも、2人の荒らしまわった跡を、ちゃんとコアや素材をリュックに詰めてついて行く。


それだけじゃなくて、さゆりさんの予備の剣を2本抱え、ゆうの予備の矢も、折れそうになったら、超俊足でさゆりさんに渡しに行くんだけど、今のこの装備で暴れるから,すぐにダメになる。


ゆうは魔法と弓をうまく使い分けているけれど、それでも矢がなくなりそうになったら急いで矢を補充する。


さゆりさんは、最初、『自分が持つ』と言って剣を3本腰に差した。何かのアニメでそういうキャラがいてそのマネをしたかったみたいだったけど、実際はかなり動きづらそうだったし、いくらレベル的に余裕と言ってもそこはダンジョンの中、何があるかわからない。


ゆうとさゆりさんに何かあったら大変だし、最初に俺が言い出したことで、じゃんけんに強い俺は勝ちまくってボスをやれると思って、2人が動きやすいようにサポートに回っていたけど・・・


――お昼休憩の時

「さゆりさん、ゆう、昨日の約束覚えてますよね」

「ああ、覚えているよ」

「うん、覚えてるよ」

「大丈夫ですよね?」

「大丈夫だよ」

「ああ、ちゃんと約束は守る」

「よろしくお願いします」

「大丈夫だ」「うん」

お昼休憩が終わって・・・・・・変わらず2人が大暴れ

もう一杯だよ・・・・・・

「あの~、リュックがもう一杯なんですけど」

2人が今戦っているモンスターを倒し、俺の方を振り返る

「もう一杯?」

「そうか」そう言ってコアを持ってやってきて

「そうか、じゃあ、次のフロアの残りのモンスター、全部高谷が倒して良いぞ」

「全部いいんですか?」

「ああ、ボスも含め、全部1人で倒していいぞ」

「ありがとうございます」

17階層の入り口で俺はリュックを降ろし、思いっきり伸びる。

「かっくん、がんばって」

「おお」

行くぞーっ

久しぶりの戦いだ。 

背中腰のナイフ2本、その外側に鉈、胸の投擲ナイフを確認して、自分にバフを掛け一機に走る。

レッドマンドラコアを切り倒しながら、レッドマンイータは鉈でえぐるように上半分を狩り取り、メープルトレントの前に立つ、フロアーボスだ。

さらにバフを掛ける。


武具が心持たないので変則ジグザグで攻撃をかわしながら後ろに回って、木登り、首と思われる部分のナイフを思いっきり刺して電撃を流す。

電撃がナイフを伝わって、まるで大木に雷が落ちて破壊されたように。

あれ?ふつうに倒しちゃった。


装備が不十分で、まともに能力を発揮できない戦いのはずが・・

そっかそうだよな 中級ダンジョンの中層だもんな

やっぱ慣れって怖い。


ボスを倒した後、灰の中からコア、素材なしドロップなし・・・ついてないな~

コアを持って2人の所に

「お疲れ~」

「ああ」

「どうしたの?」

「いや、なんかあっけなくて」

「うん、そうよ」

「そうだな」

「装備が揃うまではしょうがないね」

「ああ」

「じゃあ戻ろうか」

「「はい」」 地面に置いてたリュックを背負い

ダンジョンの入り口に、そのまま買取所に行った。


――買取所の素材買取の場所で、

リュックをテーブルに置いて 素材を出していると

昨日の職員さんが

「今日もリュックいっぱいですね」

「はい」

「今日、この後お時間ありますか」

「えっ?」

「ちょっとお話があるんですが」

俺はあわててさゆりさんの方を見ると、俺の顔色が変わったのを感じたのか、2人が俺の所に、さゆりさんが替わってくれた。

職員さんが

「この後、お時間ありますか?」

「何か?」

「奥の方でお話があるんです」

やばい? だから目を付けられたみたい 

って言ったのに。

そう思っていたら、さゆりさんが一度俺達を見て、何か上から重い物が降りてきたかのようにズンと一瞬沈んだ

それを見たゆうと俺の目があって頷く

あわててデバフをかける。

「お話ってなんでしょうか?」

「実は今、冒険者協会東京本部の副本部長がここにいらしているんです」

「はい?」

「御3人とお話がしたいそうなんです」

「私達とですか?」

「はい」

「何か?」

「あなた方がここにこられてから、必ずリュックいっぱいの素材を持ってこられますよね」

「すみません、これから気を付けます」

「いえ、そうじゃないんです。皆さんはまだお若いのにこの豊洲ダンジョンで毎日これだけの素材を持ってこられるという事は、各階層のモンスターを狩りまくっている。という事ですよね」

「すみません」

「いえ、あの、今何階層まで行かれているんですか?」

「・・・・・・」さゆりさんが頭をひねっている

 あ~自分が何階層まで行ったか気にしてないんだよな~

『17階層です』小声でゆうが 耳打ちすると

「たしか17階層だと思います」

「すごいですね」

「いえ、ふつうだと思います」

「学生ですか?」

「大学生です」

「探求大学?」

「いえ」

「それってすごいですよ」

「はあ」

まずいぞ、やばいそ、ばれるぞ・・・どうしよう

「とりあえず、来ていただけますか」


協会職員に言われたら逆らえない

渋々さゆりさんの後ろをついて、チラっとゆうを見るけど

ゆうは諦めた感じ、だよね、

俺が一番やばい、探求高校1年D組だもんな~

1年Aクラスの最高が16なのに、俺はデバフかけても29……そうだ、歩きながらデバフをもう1回掛ける。

レベル14、やった、間に合った。

ゆうを見たらゆうもしっかりデバフをかけていた。


職員に導かれ部屋に入ると、40歳半ばくらいのスーツを着た一見普通のおじさんが座っていた。

「はじめまして、須藤と言います」

そう言って立ち上がり、名刺を差し出してきた。

「斎藤さゆりです」

「司馬祐子です」

「高谷勝典です」

「まあどうぞ お座りください、

もしよろしければレベルを教えてもらえないかな」

「レベル41です」

「25です」

「14です」

(俺はこれでOK)

「そうかレベル41か、という事は君が先頭に立ってモンスターを狩っているのかな」

「はあ、彼女との連携がうまく行くので」

「そうか」

「はい」

「きみは?」

「はいサポーターです、荷物持ちやってます」

(よし!これで誤魔化せた。)

「どうしてかな?」

「彼は彼女の幼馴染で、足が速いんです」

「そうなんだね」

「はい」

「つまり2人でどんどんモンスターを狩って、素材を彼が素早く拾っているという事かね?」

「はい」

ふ~

「そうか、3人の連携がうまく行ってるという事か」

「はい」

「明日もダンジョンに入るのかな?」

「はい」

「そうか、ところで今日は17階層だったっけ」

「はい」

「どうして17階層?」

「荷物がいっぱいになったから・・・・・・」

「という事は明日はもっと下の階層にいく予定なのかな?」

しまった 誘導されてしまった

「・・・・・・・」

「そういう事なんだね」

「・・・・・・・」

「別に隠さなくてもいいんだよ、自分たちの実力にあった階層まで進むのは自由なんだから」

「・・・・・・・」

「君は本当に41なのかな?」

「はい41です」

「それじゃあ3人の連携が抜群という事?」

「はい そうです」

「そうか、明日も入るのかな?」

「はい、GW最終日なので」

「そうか、明日も会えるかな?」

「・・・・・・」

「明日も素材を持ち込むんだろ」

「はい・・・」

「じゃあ明日も、待ってるから」

「・・・・・・・」

「それじゃあ明日」

そう言って、別れた。

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