お嬢様パフューム

「瑠奈」


「なぁに?栄一くん?」


 二学期に入った後、栄一くんからこんな声を掛けられる。

 何という訳で首を振ったら、彼はこんな事をのたまいやがりました。


「なんかいい匂いがするなって思って」


 一歩間違えばセクハラだぞ。それ。

 とはいえ、この時期の男子なんてこんなものである。

 私は少し胸を逸らせておしゃれをアピールした。


「実はね。

 帝西百貨店の香水展の目玉として私の香水を作ってもらっているのよ」


「なるほどな」


 おしゃれで手を抜くなとメイド長の佳子さんが力説したのが実は匂いである。

 見た目は当然気を付けるとして、それ以外にも手を抜かないのがレディたるもの云々。

 もちろん、言われた事の半分も実は理解していない。


「まぁ、私をイメージしたものを調合してくれたらしいけど、いい匂いでしょ?」


「……」


 おい。

 何でそこで首を傾ける。栄一くんよぉ。

 私のじと目を気にせず栄一くんはぽんと手を叩いた。


「あ!

 嗅いだことあるなと思ったら、瑠奈がよく飲むグレープジュースの匂いだ」


「えーいちくんのばぁかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




「……って事があったのよ。

 裕次郎くん。

 栄一くんひどくない?」


「うん。

 それは僕もフォローできないな」


 ぷんぷん大激怒な私はもちろん栄一くんと顔すら合わせない訳で、そのフォローに来た裕次郎くんに愚痴る愚痴る愚痴る。

 大体愚痴り尽したあたりで裕次郎くんがフォローを入れだす。


「桂華院さん。

 これは確認なのだけど、その話昼休みだよね。

 昼食は、いつもの?」


「もちろんよ。

 それが何か?」


 金バッジ組の食堂でその日のメニューをパクパク。

 私ならば私の好みの料理をルーティンで頂いている。


「じゃあ、いつものようにグレープジュースは飲んだ訳だ」

「あ……」


 育ち盛りという事で結構食べるし飲む。

 500mlは飲んでいるだろうか?

 もちろん、産地直送100%グレープジュースだ。


「それで香水云々は僕たちには無理だよ」

「むー……」


 顔を下に向けると金髪が目の前にカーテンを作る。

 少しグレープと違う落ち着いた香りが私の怒りを落ち着かせた。


「仕方ないわねぇ。

 けど、今日一日は口を聞かないからね!」


「そのあたりが落としどころだろうね。

 栄一くんには何か詫びをするよう言い聞かせておくよ」


 そう言って、裕次郎くんが手を差し出したので、手打ちという事で私も裕次郎くんの手を握る。

 その時、裕次郎くんはこんな事を言った。


「ところで桂華院さん。

 ハーブ系の香りがしたけど、何かそういうのを香水にいれているのかい?」




「そりゃ、栄一くんには期待していなかったわよ。

 けど、裕次郎くんも分からなかったってひどくない?」


 怒り再噴火で図書室で自習中の光也くん相手にまた愚痴る私。

 光也くんはまったく相手にしていないようだが、話は聞いているらしい。

 所々の要所でシャープペンが止まる。


「桂華院よ。

 そのあたりの機微はもう少し年を取ってからにしてくれないか?

 正直、香りを覚えるより、公式を覚える方が俺には大事なんだ」


 そーいうと思ったよ。光也くんは。

 かといって私の愚痴は止まらない。


「そりゃそうだけど、分かってほしいのが乙女心ってものなのよ!」


「愚問だな。

 桂華院よ。

 泉川はともかく、帝亜がそのあたりの乙女心なんぞ理解できると思うか?」


「う……」


 そうなのだ。

 栄一くんの魅力の一つが、天上天下唯我独尊な俺様キャラであり、プレイヤーを強引に引っ張ってゆく所なのだ。

 そういう男子に乙女心を理解しろというのが間違っているという光也くんの指摘は実に正しい。


「むーーーーーーっ!!!!!

 分っているけど、分かっているけどぉぉぉぉ!!!」


 ジタバタジタバタ。

 台バンは音が響くので手を宙に浮かせて駄々っ子である。

 そして、ふと我に返る。


「分かったわよ。

 こーなったら、光也くんに賭けるしかないわ!

 さぁ、私の香水の香りを当てるのよ!!」


 光也くんはシャープペンの手を止めてそのまま鼻をくんくん。

 私の方を見ずにその匂いを告げた。


「石鹸の匂いだな」





「みんなして!みんなして!!みんなしてぇぇ!!!

 いいもん!あの三人でも分かる匂いを付けてやろうじゃないのぉ!!!」


 その夜の夕食はやけ食いである。

 しかもメニューはニンニクたっぷりのステーキとスパゲティ。

 香水どころではないが、男子は大好きな匂いである事は間違いがない。

 美味いし。


「お嬢様。

 あの年ごろの男子にそのあたりの香りを判れというのは無理では?」


 控えていた一条絵梨花がつっこむが、実はこの香水を付けるにあたってこの手の匂いを避けていたのである。

 それで満を持して付けてみたらこのざまである。

 やけのニンニクステーキとスパゲティ食いを誰が止められようか?

 美味いし。


「ところでお嬢様。

 昨日も遅かったようですが、今朝の事は覚えていますか?」


「今朝?」


 メイド長である斉藤佳子さんの穏やかな声が私に届く。

 ナイフとフォークの手を止めて、回想シーンスタート。



(きゃぁぁぁぁ!!!遅刻しちゃう!!

 車じゃ渋滞が読めないのよぉ……)


(だからゲームはほどほどにしてくださいとあれほど……)


(わかりました!

 私が全面的に悪かったから、佳子さん行ってきまーす!!)


 ことん。

 佳子さんが封が開けられていない香水瓶をテーブルの上に置いた。

 私の手からナイフとフォークが落ち、金属音が私のやらかしを責める。


「お嬢様。

 お話があります。

 まずは……」


 佳子さんのお説教は二時間ほど続き、私は正座のままニンニクの香りをどう消そうかと頭を抱えたのであった。





「瑠奈。

 風邪を引いたって?

 マスクなんかしてそんなにひどいのか?」


「無理せずに体調が悪くなったら保健室に行くといいよ。

 無理して悪化したら大変だからね」


「桂華院ならいらないだろうが、保健室で休むならノートは俺たちで取ってやる。

 変に悪化する前に、体をちゃんと治してこい」



(違うの。

 体は元気なの。ニンニクのおかげで。

 ただちょっとニンニクの匂いが……)


 なんて言える訳もなく、私は申し訳なさそうな目で三人の好意に苦しむしかなかった。

 そんな私をとても冷ややかな目で側近団が眺めていたのは言うまでもない。




────────────────────────────────


この話は、


【雑談】にじさんじ香水届いたから"キメ"させて頂きます。【にじさんじ郡道】

https://www.youtube.com/watch?v=huyERa6d0Mg&list=LLkxIaqdrx_StZIwkj55RuTQ&index=2&t=115s


の妄想力を習得する目的で作られています。




今回のお嬢様の香り


トップノート 乳香……石鹸の香り

ミドルノート グレープ……グレープジュース

ラストノート カモミール……寝室の寝具や枕につけている。リラクゼーション効果あり


パヒューム

 perfumeではないが、当然知ったのはperfumeのアルバムからである。

 わかむらPアイマス『パーフェクトスター・パーフェクトスタイル』は本当に衝撃だったなぁ……


ニンニクステーキ&スパゲティ

 ドラマ孤独のグルメの2017年のステーキ回&シーズン3の裏メニュー『パタン』。

 正月にニコニコで上がっていたのを見て、あれのガーリックライスがすごくおいしそうで……その日天神まで出て別の店でステーキを食べに行ったぐらい。

 パタンはわざわざ横浜に行って、店がお休みだったんだよorz

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