アリスたちの女子会

「おっじゃましまーす♪」

「さすが天下の桂華グループ。

 ビルの内部も豪華だわ」

「いらっしゃいませ。

 お嬢様がた。

 ゆっくりとしていってくださいね」


 エレベーターが最上階にある私の家に着くと、明日香さんが最初に声を出し、鑑子さんがきょろきょろと周囲を見渡す。

 そんな二人の後に更に数人が付いて来る。

 時々忘れることがあるのだが、私はまだ小学生であり、女子でもある訳で。

 友好をと思って女子会なるものを開こうと思い付いたのだ。

 で、修学旅行で仲良くなった面子に招待状を送って今回の女子会の運びとなった。

 来てもらったのは以下の通りである。



 朝霧薫    五年  公家系華族 朝霧侯爵家次女  雲客会メンバー 母方が岩崎財閥関係者

 華月詩織   五年  明治元勲系華族  桂華院家分家筋

 待宵早苗   五年  公家系華族 待宵伯爵家息女  雲客会メンバー 薫の友人

 開法院蛍   五年  奈良華族 開法院男爵家息女  雲客会メンバー 薫の友人 瑠奈と幼稚園からの仲 座敷童  

 春日乃明日香 五年  四国の政治家 春日乃家息女     蛍の友人 瑠奈とは幼稚園からの仲 オレンジアスカ

 栗森志津香  五年  新潟の地方財閥 栗森家息女     桂華銀行がメインバンク

 高橋鑑子   五年  父親が県警本部長で橘と知り合い



「本日お嬢様がたを担当させていただきます。

 橘由香と申します。

 何かありましたら、遠慮なく申し付けてください」


 メイド達を代表して橘由香が挨拶する。

 他にも、一条絵梨花と長森香織以下10人ぐらいのメイド達がお茶とかお菓子とかを用意する運びとなっている。


「じゃあ、私の取っておきの場所に案内するわね♪」


 という訳でみんなを連れてきたのは私の秘密の空中庭園。

 皇居側を一望できる温室に花が咲いていた。

 薫さんが感嘆の声をあげた。


「凄いわね」

「凄いでしょ。

 もっとも、それを管理しているのは、メイドの一条絵梨花なんだけどね」

「もっと褒めていいですよ。

 お嬢様」


 基本、私と一条絵梨花はノリが似ている。

 そのせいか年が離れているのに友達感覚である。

 咲いているのはネモフィラとアリッサム、チューリップにヒヤシンス、水仙等。

 甘い花の香りが私の鼻をくすぐる。

 そんな中、花に見とれた彼女に私は声を掛けた。


「いかが?

 私の花園は?」


 華月詩織さんは驚いた顔をすぐに隠して、花園を愛しそうに眺める。

 その声には私ではない誰かに届けられていた。


「ええ。

 素敵ね」


 正直来るとは思っていなかったが、来てくれたのならば遠慮なく仲良くなってしまおう。

 こちらも彼女の動きと背景をいまいち掴みきれないから、これで距離が縮まればと思っていたり。


「ねぇ。

 そろそろお茶にしましょうよ。

 私、喉が渇きましたわ」


「そうね。

 じゃあ、中でお茶にしますか……って何?蛍さん?」


 笑顔で蛍さんは花を指さしてそのまま部屋の方に視線を向ける。

 何が言いたいか察した私は、一条絵梨花に咲いた花を生けて持ってくるように伝えた。


「じゃあ、お茶会を開催しまーす♪」


 私の挨拶とともに何故か拍手があって、それから始まる女子トーク。

 考えてみれば、これが普通の生活なんだよなぁと、ふと自分を見失っていた事を思い出す。


「美味しいわね。

 このお茶」

「ダージリンのホワイトティーでございます」

「えっ!?

 王室御用達で有名なあれ?」

「ご想像におまかせします」


 志津香さんと橘由香のやり取りになんとなく橘由香の性格がつかめてきた今日このごろ。

 来年には、彼女が従者枠として一緒に学校に来るのだから、これからは橘由香ともコミュニケーションを取っていかないとと私は心の中にメモをする。


「このミカンのパウンドケーキとムースってもしかして……」

「はい。

 お嬢様が春日乃様より頂いたみかんでございます」

「今度レシピ教えてくれない?」

「かしこまりました」


 なお、オレンジ明日香こと明日香さんのみかん攻撃は車通学なのをいい事に三箱に及んだ。

 食べきれないとばらまくことを決意したのは良いのだが、料理長の和辻さんが考案してくれて、一階喫茶店の季節メニューにしようかと話題になった一品に仕上がった。

 感謝したい所だが、下手に感謝して箱が増えるのも困るなぁと黙っていることにする。


「こういう生活を見ると、やっぱり瑠奈さんって私達と違うって思うなぁ」

「そんな事言っても私、エイリアンじゃないんですから」

「なんというか、華族の生活ってこんなのだってのが目の前にあるじゃない。

 少女漫画でもここまでお嬢様しているお嬢様って居ないと思う」


 鑑子さんの指摘にうんうんと頷く一同。

 実に失礼な。


「そう言えば、この間赤坂走っていたでしょ?」

「うわ。

 見られていましたか……」

「そりゃ見ますわよ」


 薫さんと明日香さんのツッコミに、ついつい調子に乗ってしまった黒歴史を思い出して頭を抱える私に、一同笑いが起こる。


「おかわりですね」

「……」


 長森香織が紅茶のおかわりを頼もうとした蛍さんへ先回りをして紅茶を出してあげる。

 コンシェルジュメイドは、座敷童子すらおもてなしをするらしい。

 到底言えることではないが。


「そうだ。

 瑠奈さん。

 せっかくだから、少し相談がありまして」


「何でしょうか?」


 薫さんが背筋を正して私の方を向いて切り出したので私も猫を被りなおして話を聞く姿勢を取る。

 彼女の口から出てきたのは、ある種の身内イベントの相談だった。


「今年6月吉日にうちの姉とそちらのお兄様が挙式をするじゃありませんか。

 何かサプライズでお二人を喜ばせたいのですが?」


「まぁ!

 結婚式なんて素敵ですわね!」


 多分この中で一番乙女なのだろう待宵早苗さんが嬉しそうな声をあげる。

 私はそんな彼女を見て、自分もそういう人間だったんだなと懐かしそうな顔をついつい出してしまう。


「……瑠奈さん?」

「ちゃんと聞いているわよ。

 一曲披露しようかと思ったけど」

「瑠奈さんの歌が聞けるなんて素敵ですわ!」


 早苗さん友人枠で招待。

 後で由香経由で橘に伝えておこう。




────────────────────────────────


なお作者の愛飲している紅茶はリプトンのミルクティー


ダージリンのホワイトティー

 HPで見た限りでは英国王室御用達とか。

 これに、満月の日に手摘みする『シルバーニードルズ』なんてのもあって、紅茶の道も奥が深い。

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