初等部生徒会選挙 その1
年も開けて2002年となった訳だが、3月になれば、私達も6年となる。
そうなると待っているイベントの一つに初等部生徒会選挙がある訳で、栄一くんを筆頭にカルテットの面々は出る気満々である。
「今の所俺達以外に出る奴って居るのか?」
いつもの図書館で宿題をやりながら栄一くんが話をふると、裕次郎くんが首をかしげる。
彼はそっち方面に進路がある意味固定されているから、このあたりの情報収集では手を抜かない。
「幾つか出たいと思っている連中が緑政会には居るみたい。
あとは様子見かな」
その言葉の後を受けて光也くんが苦笑する。
若干の悪意があるのは、その背後を察しているからだろう。
「そりゃ、俺達で組めば奇麗な連立になるからな」
学内派閥は華族系の雲客会、財閥系の競道会、政治家系の緑政会、官僚系の苗木会に大まかに分かれる。
雲客会は華族系生徒の派閥で、権威はあって数も多いけどお金は無い。
薫さんが居る派閥で、彼女経由で私を引っ張れないかと画策中。
競道会は財閥系生徒の派閥で、お金はあるけど初等部では生徒は少ない。
これは従者入学が中等部だからである。
栄一くんは当然こっちに来るものと彼らは思っている。
緑政会は政治家系生徒の派閥で競道会と同じく従者入学が無いので人間は少ないけど、コネなどの融通は一番力を持っている。
裕次郎くんは当然こっちに来ると思われている。
苗木会は官僚系生徒の派閥で優秀な生徒は多いけど、金もコネも無い。
良く言えば自主独立、悪く言えばバラバラ。
光也くん自身がアプローチを避けていることもあって、向こうからの誘いは無い。
それぞれの初等部における派閥のパワーバランスは雲客会:競道会:緑政会:苗木会=3:2:2:3という感じだが、中等部では従者生徒が入るのでこのバランスが激変する。
「何か言ってきた所はある?」
小さくても一つの学校の初等部のトップなのでそれ相応の権限がある。
予算もあるのだが、それ以上に予算を配れるのが大きい。
昔の財閥系の人間では、予算以上のものをばらまいて己の権勢を誇り、コネを盤石とした上でさらなる繁栄を極めたなんて人間も過去には居たとかなんとか。
「緑政会では僕を降ろして別の人間をここに押し込めたいと考える人も居るみたいだよ。
僕は兄さんが居る以上、常に二番手だからね。
一番手の人が、ここで顔を売りたいのさ」
華族系は当然親の爵位、財閥系は家の財閥の規模、官僚系は親の役職で序列が決まるのだが、議員系は国会議員を頂点に、その地盤を誰が継ぐかで序列が決まる。
本来のゲーム設定だと、裕次郎くんはお家騒動もあってこの派閥の中の最下位から這い上がる形になったので、柔和な顔して結構腹黒い設定があったり。
「栄一くんの方は?」
「俺の事は俺が決める。
会なんて知るか」
と言ったので、私は消しゴムを弾いた。
栄一くんの顔に当たったのはその一秒後である。
「何をする!瑠奈!?」
「挨拶は大事。
基本でしょ♪」
出て勝つからこそ、勝ったあとのことまで考える必要がある。
こんな所で恨みを買って、親が出てきてややこしいことになんて話はゴメンなのだ。
「という訳で、それぞれ挨拶をしてくる事。
選挙はね、出馬する前に勝負を決めるのが一番簡単なのよ♪」
そして、それがうまくいかないことも多々あるというのも選挙である。
後日、いつものように集まった面々は結果を持ち寄る。
「俺の所は問題がないらしい」
「私の所も筋は通したわ。
気に入らないでしょうけど、反対する理由もない」
「元々かかわらない連中だ。
まとまって反対する勇気もないさ」
栄一くん、私、光也くんの順に報告するけど、裕次郎くんはしばらく無言のまま意を決して報告する。
「予備選をしたいと言っている」
「予備選?」
栄一くんの疑問に裕次郎くんは、苦笑しながら続きを話す。
「今回の選挙は、実質的な大連立だ。
ならば、カルテットではなく、派閥連立で見るべきで、その代表という形で予備選をしたいと」
「無視すればいいじゃないか」
光也くんの言葉に裕次郎くんは首を横に振った。
親の対立がそのまま子供に降りかかるケースである。
「源貫太郎。
大物野党議員の子息で同学年。
ここで僕を凹ませて名前を売っておきたいらしい」
「真っ向から叩き潰すのは?」
栄一くんの言葉に裕次郎くんは数枚の写真を渡す。
学園近くでカメラを持っている事から、マスコミと見た。
「野党が与党攻撃の駒として僕たちに目を付けたみたい。
マスコミも僕たちの事を旧態依然のアンシャンレジームと叩く準備をしている。
潰せば外から叩かれる」
日本の政争は外についてはそれほど気に掛けなくていい。
問題は中で内ゲバをしている時に、その対立相手が外の勢力を引き入れる場合だ。
今の恋住政権は支持率は高いけど、幹事長VS外務省・枢密院で激しく対立し、与党内部では幹事長の失脚を密かに企んでいた。
おそらくは、その動きを感付かれたと見た。
「しかし予備選ねぇ……
勝てるの?」
「厳しいね。
将来が国会議員でない僕と国会議員の可能性がある彼だと、必然的に議員系の票は源君の方に行くだろう。
彼、『学内派閥の解消』と『生徒会改革』を訴えて多分派手に揉めてるけど、それに騙される人間も出る。
というか、マスコミがそれを作ろうとしている」
今やTVが首相を選ぶ時代。
それを一番理解していたのはそのTV局であり、彼らが彼らにとって都合のよい総理を作ろうと狙いだす時代に入っていた。
なお、主人公たる小鳥遊瑞穂の主人公補正を全面的にバックアップしたのも彼らマスコミである。
旧態依然の私が、市民の具現化である小鳥遊瑞穂に倒される。
なるほど。
私は断頭台の王女でもあった訳だ。
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瑠奈のモデルの一人は『蓬莱学園』の野々宮花江鉄道管理委員長。
革命……見たかったなぁ……
蓬莱学園は小説でしか追っかけてないから、最後どうなったのかが分からない……
予備選
選挙に立候補するために、仲間内で候補者を選挙で選出する。
米国議会とかで良く行われており、現職が予備選に負けて立候補を強行する何て事もしばしば。
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