とある雑誌の漫画より

「要件を聞こうか」


「こちらの写真を見ていただきたい」


「ゆっくりと出せ」


「……チェチェン共和国のスナイパーです。

 もう一枚の写真も見ていただきたい」


「……この少女はロシアにとっては邪魔になる可能性が高いだろう?

 特に、この少女は対外情報庁の警戒対象と思っていたが?」


「ええ。

 我が国は日本と領土問題を抱えているのは事実です。

 ですが、それを燃え上がらせるつもりは無いのです。

 少し長くなりますが、背景を説明しても?」


「いいだろう」


「元々樺太は日露戦争の結果南が日本、北がロシアとなりました。

 その後第二次世界大戦で、連合国に降伏した日本は枢軸国に宣戦布告し、敗戦国のはずが多くの権益を保持したまま第二次大戦を乗り切りました。

 それをスターリン書記長は良くは思わなったのでしょう。

 満州戦争に日本が参戦した時、我が国は一気に樺太に侵攻し樺太を占領。

 北日本民主主義人民共和国を強引に樹立したのです。

 満州戦争そのものは西側諸国の勝利、そのまま国共内戦と対立に進みましたが、満州が手に入った事で米国はソ連の核による脅迫と日本に対するペナルティーとして黙認しました。

 これが樺太問題の始まりです。

 南樺太が北日本民主主義人民共和国で、北樺太は北樺太自治区となるのですが、陸続きでかつ北日本へのテコ入れから、その管理を北日本政府に任せてしまい、ベルリンの壁崩壊前には北日本政府の一部と化していました」


「その北日本政府はベルリンの壁崩壊と共に政変が起きて日本に帰属する事になったが、北樺太についてはロシアは領有権を主張している。

 それと、今回の狙撃がどう絡んでくるのだ?」


「チェチェン紛争、第一次チェチェン紛争は94年から2年間続き、一応は我々の勝利となりましたが甚大な被害とイスラムネットワークのゲリラ戦に翻弄されました。

 その後99年に勃発した第二次チェチェン紛争も現在は我がロシアが優勢に作戦を進めています。

 ですが、チェチェンの武装勢力はゲリラ戦を展開し、またイスラムテロ組織が介入しており、彼らはこの状況の打開を考えているとみられています」


「それが極東で火をつける事か?」


「はい。

 日本とロシアの関係が摩擦状態になれば、沿海州の対岸にある満州国も必然的に緊張する。

 それに合わせて共産中国が動けば、必然的に米国が動かざるを得ない。

 そうなると、NATOが動いて欧州も緊張という三方向に軍を展開することになり、我々はチェチェンに全力を注ぐことができなくなります」


「チェチェンの武装勢力の考えにしてはかなり壮大な仕掛けだな」


「湾岸戦争以後イスラム原理主義の勢力が拡大しており、おそらくは彼らの策にチェチェンの武装勢力がスナイパーを貸したと見るべきでしょう。

 我々は彼らにアフガニスタンで散々痛い目にあい、その脅威を米国に警告していたのです」


「……アフガンに侵攻したソ連軍に対するゲリラ組織の育成をしてきた米国が、その成れの果てであるゲリラ組織にやられる。

 あげくにその脅威をかつての敵国であるロシアに告げられるなんて認められんか」


「それが国際政治であり、往々にしてあるものです」


「一つ聞きたい。

 彼女を守る理由は?

 イスラムのテロとして無関係を装う事もできるだろう?」


「もちろん、ですがロマノフ家の高位継承者である彼女の帰還と即位を望んでいる勢力が多くいるという事実があるのです。

 しかも、その勢力は大きすぎるのです。

 彼女が死んだ場合、今の大統領と激しく対立しているオリガルヒ達と保守派がどう動くか分からないのです。

 そして……」


「そして?」


「……そして、彼女はロシア金融危機発生後に発行したロシア国債を大量保有しています。

 彼女と彼女のファンドが買ったという保証が、今のロシア国債の信用を支えているのです。

 ですから、この狙撃には、我々が彼女を守ったというサインを残して欲しいのです」


「それも、依頼の一つか」


「お願いします。

 どうかこの依頼、彼女を狙うスナイパーの排除を受けていただきたい。

 報酬は200万ドル。

 スイス銀行に振り込んでおります」


「……わかった。

 やってみよう」



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「……?

 橘。

 これ、フィクションですよね?」


「……ええ。

 フィクションですとも」




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漫画

 『ゴルゴ13』。

 そろそろ銭形警部と並んで年齢不詳……おや、宅配便かな?


チェチェン紛争

 アフガン介入に次ぐソ連とロシアの悪夢。

 特にチェチェンではアフガン帰りのイスラム戦士等が聖戦として参加したりとテロネットワークの萌芽がちらついている。

 ここをなんとかしたからこそ、プーチンの権力は確立したと言ってもいいだろう。

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