テキサス州ダラス共和党大統領候補者献金パーティー

史上最年少キングメイカーJS「大統領の話をしよう」


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 米国テキサス州ダラス。

 そこの高級ホテルのパーティー会場にて、私と橘はのんびりと壁の花になっていた。

 なんというか、アメリカの上流階級は欧州の上流階級や日本の華族とも違う雰囲気が漂っている。

 そのあたりうまいことを言っている人がいて、


「あの国の上流階級はまだ武士なんだよ」


だそうで妙に納得した覚えがある。

 開拓者精神と己の農地の死守はたしかに武士に近いとは言えなくもない。

 武士じゃなかった、カウボーイたちは刀を銃に持ち替えてはいるが。

 さしあたって、今のカウボーイたちは金でこの世界をぶん殴っている。


「あら。

 お久しぶりね」


 流暢な英語で私が挨拶をするとアンジェラ情報分析官は業務用スマイルで日本語で挨拶をし返す。

 なお、おしゃれな会場に高級料理ではあるのだが、肉肉肉のオンパレード。

 テキサス州は畜産も盛んな州なのでそういうアピールなのだろう。

 私のグレープジュースに合わせているのか、彼女のグラスは赤ワインらしい。


「今度はドレスが無駄にならずに済みそうです。

 それにしても、珍しいですね。

 シリコンバレーは民主党支持が多いのですが、どうして共和党に?」


「逆張りは総取りできるでしょう?」


「……勝てればですが」


 淡々と語るアンジェラを見て、なんとなく悟る。

 多分この人民主党支持だ。

 考えてみると、まだ民主党政権だから、そういう意味合いからも目を付けられていたのかもしれん。

 今の大統領対日政策厳しかったからなぁ。

 それが仕事とはいえ、私の付き添いみたいな感じで出向いているのだからかわいそうに。


「で、キングメイカーになった気分はいかがですか?」


 日本の政変はちゃんとチェックしているらしく、私が泉川政権の生みの親であるとちゃんと見抜いているらしい。

 このあたり、米国というのは侮れない。

 日本では未だマスコットガール扱いが多くの人間の感想である。

 感付いているやつは感付いてはいるが。


「いい気分だから、こっちでもキングメイカーになろうと思ってね♪」


 露骨に嫌な顔をするアンジェラの顔を見て私が笑う。

 現在の大統領選は史上最も激しい選挙戦を繰り広げていたからだ。


「再度繰り返しになりますが、なぜ共和党に?」


 真顔で尋ねてきたので私も真顔で答える。

 なお互いに日本語だから、周りを気にしなくていいというのも素敵だ。


「ムーンライトファンドがITから資源ビジネスに軸を移しているのは知っているでしょう?

 環境保護主義者が多い民主党系よりもこっちに付きたいという訳。

 ここに来たのも、目の前がメキシコ湾だから」


 メキシコ湾の海底油田は米国経済を支える一大産業であり、テキサス州というのはその石油産業の拠点でもあった。

 そして、現在の共和党大統領候補者は石油会社出身でもあった。

 ロシア経済危機以後どん底に落ちた原油価格は上昇に転じており、その恩恵を私はちゃっかりと受け取っていた。


「おや?

 こんな所にレディがいらっしゃるな」


 噂をすればその候補者が日本政府ヒューストン総領事を連れて私に声を掛けてくれる。

 泉川総理の命令が外務省に届いたらしく、こうしてヒューストン総領事の紹介でコネを繋げられるのが良い。

 私はちょこんと可愛いお人形よろしく挨拶をする。


「日本からやってまいりました。

 私、かの国では勝利の女神と呼ばれておりますのよ♪」


 もちろん自称である。

 女王陛下の次は女神であるから、この次は何になろうか。

 そんなお子様ジョークに候補者はウインクしてくれた。


「これは嬉しいな。

 こんな小さな勝利の女神に微笑まれたら、我々の勝利は間違いないじゃないか」


 場が盛り上がったのを確認して、私は橘に目配せしてJSでは無理な金額の書かれた小切手を候補者のスタッフに手渡す。

 その金額を確認したスタッフが候補者に耳打ちして、候補者が手を差し出した。


「我々は極東の同盟国を無下にはしないよ」

「こちらこそ、長く続く友情を信じておりますわ」




「橘。

 なんでもいいから、会社を買って大統領選挙に協力するわよ」


 帰りの車で私は橘に命じる。

 大接戦になるからこそ、この歴史のちょっとした狂いで壊れる可能性があった。

 橘への命令は、会社を買ってその土地の人間に選挙運動をさせる事で、票を押さえるという簡単な策である。

 なお、大統領選後にその会社を売り払う予定なので、そのあたりが気楽にできるアメリカというのはありがたいというかショービジネス化が進んでいるというか。


「それで、どこの会社を買うのですか?」


 私はダラスの夜景を眺めながら、はるか先の地名を告げた。


「フロリダ州」


 わずか数百票で世界が変わるのだ。

 だからこそ、この世界でも勝てる方に賭けさせてもらおう。

 で、民主党候補が勝ったら頭を抱えるのだが。




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 こまった事に味付けがまた単調だから困る。

 なお、立食パーティーでバイキング形式と席についての会食の両方がある。

 バイキングのほうが候補者に近寄りやすいので、高い寄付を払う必要があったり。


2000年大統領選

 法廷闘争にまでもつれ込んだ世紀の接戦。

 大統領就任のためには各州の選挙人270を集めないといけないのだが、この時のブッシュ候補の選挙人は271人だった。

 なお、投票そのものだとゴア候補の方がブッシュ候補より勝っていたり。


フロリダ州

 ここのブッシュVSゴアの票差はわずか327票。

 この327票が歴史を変えた。

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