お嬢様商店街を救う?

 シャッター街。

 日本の地方の各地でよく見かける光景である。


「……という訳で、地方商店街と大規模スーパーや百貨店の立ち位置はこういう風に違っているんです。

 これがまた、帝西百貨店のリストラと絡んで火を吹きかねないんです」


 一条の説明に頭を抱える私。

 その背景には、モータリゼーションによる都市構造の変化がある。

 百貨店というのは都市にあり、流行と文化の発信地としての側面がある。

 スーパーマーケットはその地区の生活の拠点であり、衣食の購入はここでする事になる。

 では、商店街というのはどことかち合うかというと、このスーパーマーケットである。

 都市部の駅前に巨大な店舗を建てて集客するのが百貨店であり、そこから家路に向かう間に商店街が店を連ねて途中で買い物をというのが昭和時の光景だったのだ。

 それが自動車の普及によって変わってくる。

 地方では駅通勤ができる本数が少なくて自動車で通勤という流れになり、そうなると間の商店街が使われなくなる訳で。

 そして、車で買い物に行くのならば、駐車場の確保ができる都市部郊外に大規模スーパーマーケットを作った方がよくねという流れになり、綺麗にハブられた商店街がシャッター街化してゆく事になる。

 同時に、電車通勤が車通勤となって、デパートもハブられて閉店という流れが地方で起ころうとしていた。


「分かっては居たけど、きっついわねー。これ」

「そのまま街づくりが絡むから地元自治体と商工会議所に話を通さないと進みませんよ」


 一条の突っ込みに頭を抱える私。

 大量仕入による薄利多売戦略がとれるスーパー側に対して個人商売の集合体の商店街だと仕入単価で勝てない。


「それ以上に厄介な問題があるんですよ」

「まだあるの?」


 なければここまでひどくはならない。

 そんなことをぼんやりと思っていたのだが、出てきた言葉はちょっと意外だった。


「商店街はほとんどの場合、住人が住んでいる。

 これが問題なんです」


「?

 それの何が問題なの?」


 一条は説明を続ける。

 聞いてゆく私は、理解すると同時に顔を覆った。


「商店街の商店はその店の自宅を兼ねている事が多いです。

 つまり、その店が儲からないから店を閉めたとしても、住宅としてその店の住人は住み続けるんですよ。

 そんな状況で空き店舗を貸せると思いますか?」


 横で聞いていた橘がとどめの一言を。

 致命傷で、私は机に頭をぶつけて手で覆うしか無い。


「駅前商店街はバブルの時に強烈な地上げにあっていますから、残っている方々がこちらの話を聞くとは……」


 あ。

 これどうにもならんわ。

 とはいえ、手を打たないわけには行かない。


「帝西百貨店のコンビニ転換事業の進捗は?」

「拡大傾向ではありますが、配置転換形式で進めているので、他社より遅いのが問題です。

 コンビニの肝である物流網がトラック主体なので、ここの構築が遅れているのも痛いですね」

「数を確保することで、単価を下げる。

 まとまった数を押さえる必要がありますが……」


 一条と橘の言葉に考える私。

 帝西百貨店グループのスーパーとコンビニの物流網に乗せることで、単価については下げられる。

 そうなると問題は、駐車場と商店街という『住宅地』だけになる。


「商店街の入口近くに駐車場とコンビニを建設しましょう。

 この店舗は商店街共同オーナーという形で。

 それに合わせて近くに駐車場を確保すること」


「商店街の建て替えがあるのならば、マンションを建設することで住民の集約と駐車場の確保に努めること。

 これはその街の再開発が絡むから、自治体と商工会議所にはきっちり根回しするように」


「帝国貨物鉄道と業務提携して、貨物駅の拡大を進めます。

 トラックが便利すぎるのは分かるけど、地方のインフラと地元零細貨物会社と提携する事で地元に利益を落とします」


 ただ、ここまでするとなると、どうしても政治が必要になる。

 橘がその政治の結果を一つ口にした。


「大店法の改正で郊外店舗がこれからどんどん建っていきますが、勝てるのでしょうか?」


「無理ね。

 精緻な小技は、所詮分かりやすい大技には勝てないのよ」


 それでもこの方針を取るのは、これが帝西百貨店の撤退戦だからである。

 コンビニに主力を集めるためには百貨店やスーパーに注いでいる赤字リソースを処分しなければならないが、それで安易に切り捨てるようなことはしたくなかったからだ。

 それは、切り捨てられた前世の私が一番良く分かっている。


「いずれ、環境問題と通販の拡大で、トラックだけでは追いつかない状況になるわ。

 そうなった時、日本に張り巡らされた鉄道網はうまく使えば、色々と有利になるわ。

 20年。

 それだけ撤退戦を続けられるなら問題はないわよ」


 ただ、それを言った私自身、その20年後を知らないのだが。

 それは言わずに、凛々しく私ははったりを言い切った。




「……なるほどね。

 話については分かった」


 泉川総理は、私のレポート(書いたのは一条と橘だが)を机に置いて私を見る。

 陳情に来た私に対する彼の目は私を子供として見ていない。


「だが、分かっているのかい?

 地方都市の駅前再開発のモデルケース事業だ。

 巨額の金が動くぞ」


「こっちの取り分は少なくていいですよ。

 残りのパイについては、お好きにどうぞ」


「それを言ったお子様相手に『はいそうですか』と言えるほど、多くの人間は恥知らずではないよ」


「しかし、しなければ公共事業で食っている地方は死にますよ?」


 その通りだった。

 地方都市の公共事業は文字通りその都市の生命線である。

 そして、彼らもまたバブルに踊って致命傷を受けていたのである。

 放置できる訳もない。


「分かった。

 うまく党の部会に掛合って、なんとかしてみよう」


 持つべきものはコネである。

 それを使えるならば、こういう事もできるのだ。




────────────────────────────────


担当さん

 「お嬢様がちょっと商店街を救うようなものがみたいですね」


帰って書き出した私

 「まって。これ地方の病巣の中核部分なんですけど」(滝汗)



地方のモータリゼーションについて

 確認できる2000年(平成12年)で一家に一台普及している。

 地方の高速の開通がこのあと加速してゆくから、それに合わせて地方都市の百貨店閉店が進んでゆくんだよなぁ。

 ただ、この世界の日本は軍事費が現実のほぼ二倍あるので、その分どこか削らないと行けないわけで。

 地方の高速延伸を遅らせて、鉄道の優位をもう少し長くしても良いかもしれない。



 この話は次話と共に移動予定です。

 その為、コネとして使った泉川議員で表記。

 副総裁・総理・副総理といろいろ便利にやったので、どこに入れるかで役職が変わるんだよなぁ。


2019/12/29

 移動先で泉川総理が確定。

 こりゃ、泉川総理を使って大店法に介入したかもしれん……


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