映画とカフェとお気に入りの本

 帝亜栄一・泉川裕次郎・後藤光也に私桂華院瑠奈の四人を誰が呼んだか知らないが、『帝都学習館カルテット』と呼んでいるらしい。

 で、その最後の人である後藤光也くんとの出会いはこんな感じだった。


 都内の閑静な住宅街のある場所にその喫茶店はある。

 隠れ家のような喫茶店の名前は『アヴァンティー』。

 何もグレープジュースだけを飲む私ではなく、それ相応のスイーツを堪能する小学生女子なのである。

 で、この年代は色気より食い気であり、図書館で勉強をしている栄一くんと裕次郎くんがその話に乗ってきたのはある意味当然と言えよう。


「ここよ。

 ここのスイーツがお気に入りなのよ♪」

「つーか、お前映画館でもポップコーン食べていただろうに」

「栄一くん。

 女の子のお腹は、甘いものは別腹なのよ♪」

「で、体重計に乗って悲鳴を上げると」

「裕次郎くん。

 それ言ったら戦争」

「はいはい。この話はやめやめ!」


 それぞれ保護者である執事を連れての入店なのだが、実は映画を見に行っていたのである。

 大画面で見る映画は迫力が違うと力説する私に、『え?貸し切らないの?』とのたまった男子二人に普通に映画を見るという事を教えてあげたのである。

 見てきた映画は後の国民的アニメで、当時の日本の興行記録を塗り替えたあのアニメである。

 何度もTVで見たけど、大画面でみんなと見るのが良いのだ。映画は。


「見て思ったけど、私なんてあの首を取ってこいって言った方の末裔だから、あっちの気持ち分かっちゃうのよねー。

 注文はティラミスとクリームソーダね」


「お前がグレープジュース以外の物を頼むのを初めてみた……

 あの終わり方はいいのか?

 環境は大事なのは分かるけど、あれだとたたら場を失った村人達が生活できないだろうに。

 俺は、ザッハトルテにコーラ」


「栄一はぶれないなぁ。

 僕の所はあの侍達の末裔だからね。

 主人公たちや村人たちの生き方は侍としては見逃せないよ。

 考えてみると、ここに居る三人みんな主人公たちの敵じゃないか。

 僕は、ロイヤルミルクティーにパンナコッタ」


 年相応の服を来て日当たりの良いテーブルの下で、わいわいと映画の感想を言う。

 そしてやって来たスイーツに舌鼓をうつ。

 あれ?

 これもしかして、伝説のリア充ライフというやつではないだろうか?


「ごほん!」


「あ。

 ごめんなさい。

 少しうるさかったかしら?」


 隣の席からの実にわざとらしい咳に私は即座に謝罪の言葉を告げる。

 その時振り向いた彼こそが、後藤光也くんである。

 メガネをかけていた彼は一人で本を読んでいた。

 テーブルの上で湯気を立てていたのはカフェラテ。

 

「ん?

 後ろのやつ学習館の奴じゃないか?」


「あ。確か名前は後藤光也だったと思う」


「何で名前覚えているのよ」


 彼の名前を言った裕次郎くんに私がツッコミ、栄一くんがあっさりと私のツッコミを受け返す。

 考えてみれば当たり前のことだった。


「成績の順位表。

 お前の上にいつもいるだろうが」


「ああ」


 納得。

 後ろの光也くんを含めた男子三人は常に満点だが、私はイージーミスなどで一・二問ミスを出すので大体四位になるのだ。

 そうなると必然的にライバル心が出るのもこの時期の男子心というやつで。


「僕は何度か父の宴席で会った事があるよ。

 彼の父は主計官をやっているからね」


 大蔵省主計局主計官。

 キングオブ官僚である大蔵省の本流主計局の課長級にあたるのだが、同時に次期次官候補と既に確定してるとも言う。

 上流階級とは基本インナー・サークルだからこそ、何処かで誰かが繋がっているのだ。

 ならば、ここで繋がるのも悪くないだろう。

 どうせ未来では繋がることになるのだから。


「ねぇ。

 よかったらこっちに来てお話しない?」


 こういう時は女の子である私から切り出す。

 とはいえ、読書系唯我独尊キャラである光也くんはちらりとこっちを見たのみ。

 ここから切り崩すのが、ゲーム的には面白いのだ。

 その手札は既に私の手の中にあった。


「その本、私も読んでいるのよ。

 せっかくだから感想を言い合わない?」


 光也くんの目に興味の光が灯る。

 一方で置いてきぼりをくらった二人が情報を得ようと彼が持つ本のタイトルを見る。

 私は笑顔を作って、感想を告げた。


「ちょっと不思議な能力を持つ人達のお話で、それを使って凄いことをする訳でもないけど、何だか読んでてほっとするのよね。

 ネタバレになったらごめんなさいだけど、私は中盤のタイムスリップと巻末の耳の良い音楽家の話が好きだったな」


「……安心しろ。

 今、読んでいるのは二回目だ。

 ちゃんと読んでいるんだな。

 俺も音楽家の話は気に入ってたりする」


 意外そうな目をする光也くんに私は笑顔を作る。

 忘れそうになるが、私達は小学生である。


「おい。

 あの本注文しておいてくれ」

「僕もお願い」


 さらっと付いてきた執事に光也くんが読んでいる本を注文する二人。

 せっかくだから、私のおすすめの本を布教しておこう。


「それならば、私のおすすめの本を紹介するわ。

 つい最近出たのだけど、多分光也くんは気にいると思うわ」




 

「なぁ。瑠奈。

 あの終わり方なのか?

 すげえ納得が行かないんだが」


「僕は好きだったな。

 お婆さんが切符を使う所とか」


「一番最初の話のインパクトが強すぎ。

 けど、桂華院がはまったのはここだろう?」


 後日、学校の図書館で感想を言い合う四人の姿があった。

 こんな感じでつるみながら未来では三人から断罪されるのだからゲームってのはわからない。




────────────────────────────────


アヴァンティー

 元々はFMのラジオ番組から。

 多分彼らの会話に聞き耳を立てている常連さんがいるかもしれない。


見に行ってきた映画

 『もののけ姫』スタジオジブリ

 今ではTVでやっているけど、大画面で見た時の森の美しさは忘れられない。


光也くんが読んでいる本

 『光の帝国―常野物語』恩田陸 集英社

 超能力系のラノベと思いきや、それでアットホームストーリーを作り出すという展開に最初読んだ時目からウロコだった。


瑠奈のおすすめの本

 『天夢航海』谷山由紀 朝日ソノラマ

 このころの朝日ソノラマは神がかっていた作品がゴロゴロしていた。

 朝日ソノラマから一冊本を推すならば私はこの本を推す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る