白き猛虎、純白の龍王
春を司る青龍の対に、秋を司る白虎あり。
龍と虎。方角的にも司る力からしても正反対の両者は因縁の仲。
強者同士が真正面から対峙すれば、龍と虎の印象が強く描かれるように、龍にとって虎は――虎にとって龍は、決して無視できない存在へと、いつしかなっていた。
無論、それだけが理由とは言わないけれど、十二天将白虎、
周囲には到底理解できないだろうけれど、虎徹の中の血は沸き立つように茹で上がり、踊っていたのである。
さも、仇敵と対峙したかの如く。
「機動力で以て撹乱する」
「了解しました」
“
周囲に描いた
人が羽虫を捕らえるのに四苦八苦するように、巨体の周囲を這うように駆け回る2人を、ペンドラゴンは捉えきれない。
最中で繰り出させる斬撃や刺突攻撃に反射的に反応するものの、更に速度を上げた2人は更に捉え難くなり、空を切る。
2刀の
斬り裂き、貫く事こそ出来ないものの、小さいながらに着実にダメージを蓄積させ、龍の頭を苛立ちでいっぱいにした。
幾ら力が強く、実力の伴った相手だろうと、冷静さを欠いていて実力を発揮など出来るはずがない。
「“
交差する
鎧の如く変形した鱗に傷こそ付かなかったものの、鈍重な一撃が2つ重なった事で巨体が揺らぎ、反対側から虎徹の斬撃が持ち上げる様にして倒さない。
敢えて倒さず抉る様に決めた事で、巨体にも響く大きなダメージへと繋がった。
が、ペンドラゴン――龍の王とされる魔性の覇気は、その程度で枯れはしない。
他の龍種ならば狼狽さえしそうな鈍重な一撃を受けてさえ、ペンドラゴンの装甲じみた硬い鱗と皮膚に亀裂すら生じず、物怖じ1つしない意識は明確に、攻撃された方向から2人の場所を見つけ出し、槍を振り回して対応し始めた。
体中を這う様に動き回る戦法にも、徐々に慣れ始めて来た。
まだまだ追い付いてはいないが、対応し始めるのが圧倒的に速い。攻撃力に防御力。そして相手の行動に即時対応出来る知性と、他の魔性との格の違いを思い知らされる。
アイアン・メイデンも無論強敵だったが、自分らを遥か超える巨体と風を切る槍の鋭さ。何より、自分達に向けられる殺意の質が違い過ぎて、アイアン・メイデンとは比べられなかった。
「どうされますか?!」
「今のままでは勝てない。戦略的撤退が妥当だな」
「悔しいけれど、虎徹君の言う通りだね。仕方ない」
「退路は私が確保します! 何とか、魔性の動きを止めて頂ければ!」
「だ、そうだ。5秒ならいけるか、シルヴィ」
「いえ、10秒!」
「良いだろう」
虚勢でも負けず嫌いでもどちらでもいい。
ペンドラゴンを前にして、大口が叩けるだけの心持があれば上出来。
後は実践に移せればいいだけの事。
「なら10秒だ。パスカル、援護しろ」
「はいはい」
手を組み、両膝を突く。
さながら神に祈りを捧げる修道女が如く天を仰いだパスカルが小さく紡ぐ言の葉は、虎徹とシルヴィを未だかつて突入させた事のない未知の領域へと踏み込ませる。
唸る
「行くぞシルヴィ。この一撃で決める。小細工は無しだ。今持てる最大を出し切れ」
「ふぅぅ……」
深く息を吐きながら、徐々に声量と共に力を上げる。
限界まで練り上げた力で錬成して握った物は、白き光輝を纏った剣――さながら、聖剣と呼ぶに相応しい業物であった。
「“死之型・
「万物一切切断術式……“
人間にとって蟻も同然の存在に、ペンドラゴンは渾身の槍を振り下ろす。
抗う2つの力はそれを受け止め、地中に膝まで埋まりながら持ち堪えると、体のあちこちに悲鳴を鳴かせながら、血反吐を吐く思いで力の全てを振り絞り、2人タイミングを揃えてペンドラゴンの槍を打ち砕き、遥か巨大な体をわずかに浮かせ、腰を地に突けた。
(パスカル様の援護を受けたとはいえ、ペンドラゴンの槍を真正面から弾き飛ばすなんて……! 凄い……!)
「ライラ、今のうちに2人を回収。撤退を」
「は、はい!」
舞い上がる土煙に紛れ、パスカルが虎徹を、ライラがシルヴィを回収して撤退。
槍を砕かれた事がショックだったのか、ペンドラゴンは暫く自身の掌に残った槍の残骸に見入り、それらを握り砕いてから、天に向かって咆哮した。
全力を賭した反動でわずかにだけ意識を残し、あとの機能を全て停止させていた虎徹は、その咆哮に凄まじい怒気を感じながらも、返す意味なしとそのまま眠る。
今回はペンドラゴンの方が見るからに油断し、軽視し、手加減していた結果だ。
互いに全力を賭した時、本当の勝敗が決するだろう。その時にこそ、この借りは返す。その時こそ、龍と虎の因縁に、決着を着ける時だ。
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