第50話 できること

 桜羽(おとは)と花凛は、拠点と決めた場所よりも森の深い場所を進んでいた。先ほど歩いていた時に目立った獲物が見えなかったからきた北方向とは反対を探索することにしたのだ。


「おとは、右方向にとりがいる! 二羽!」


「ああ、まかせろ」


 桜羽は花凛が指さした方向に視線をやり、すぐに鳥を見つけた。高い部分にある枝に並んで止まっている。鳥が桜羽たちに気付いている気配はない。


 桜羽は膝を曲げて一気に伸ばし、鳥たちが止まっている枝までの半分の距離を一気に詰めた。そして、いったん途中の枝に飛び乗り、残りの半分の距離を木の幹を駆けたり、枝と掴んで腕の力跳んだりしながら、でまるで蛇が地を這うようにするすると鳥に近づいていった。


 あと枝数本分まで近付いたとき、鳥たちは自分らを捕まえようとしている存在に気付き、飛び立って逃げようとする。


 桜羽は枝を強く踏みつけ枝をしならせた。そしてそのしなりを利用して、一層速度を上げる。鳥たちは飛び立った瞬間に首根っこを捕まれ捕獲された。捕獲された鳥たちは掴まれてもなお羽をばたつかせて逃げようとするが、結局その行為は無駄に終わった。


 鳥を両手に一羽ずつ掴んだ桜羽はそのまま枝に足をつけることなく綺麗な放物線を描き、重力に従って木の根元まで落ちてきて綺麗に着地する。左手でつかんでいた鳥を花凛に渡し、右手に掴んでいた鳥を気絶させる。花凛に渡していたまだ意識のある鳥と交換して、同じことを繰り返した。


 選択肢としては、すぐに鳥の首を持っている刃物で落とすものもあった。だが、鳥は二羽では足りずまだ狩りに行く必要があり、落とした首から滴る血で汚れることを避けるためにやめたのだ。


「花凛は目がいいな。すぐに獲物を見つけてくれるから助かる」


 気絶させた鳥を両方とも花凛に持たせながら桜羽はそう言った。花凛は「そんなことないよ。目がいい人なんてもっといるし、おとはもそうでしょ」と照れくさそうにつぶやく。


「他に出来る人がいたからって、それは褒められてはいけないことではないぞ。さあ、先を急ごう。夕飯の争奪戦になってはいけないからな」


「うん」


 花凛にとって他にもできる人がいるものは、褒められる対象ではなかった。そのように言って聞かせられて育てられた。あなた以外も出来ることを誇ってはいけないと。それ以外の教えは知らない。周りに例となる者がいなかったからだ。森の奥で母と二人暮らしていた。今となってはもう過去の話だが、これが幸せだったのかは分からない。

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