第47話 緊張の薪拾い③

 立ち話で話題にあげる話ではないと、三手に分かれる前に大人たちが話し込んでいた場所まで戻った。集めてきた枝を一か所にまとめ、草花と時羽は向き合って地面に腰を下ろす。


「桜羽様が行方不明になったと私が知ったのは、桜羽様の旦那様から有翼便で手紙が届いたからでした」


 草花は静かに語りだした。それは数十年も前の話。人間一人分の人生が丸っと入ってしまうくらい前の話。


「行方不明になる直前、旦那様である翡翠は仕事で隣村に居たそうです。そして桜羽様はお子様と一緒に集落の近くの山奥に。私は長らく手紙でのやり取りしかしていなかったため、お子様を見たことはありません。けれど、手紙の内容から桜羽様と同じ髪色を持つ女の子であることは知っていました」


 時羽はこの話が自分に関係のある昔話だとは思えなかった。数十年なんて言ったら自分の年齢よりもはるか前の話だろう。時羽は今の自分の齢はおそらく今は十才前後だろうと桜羽に言われていた。その数字が数十年よりも少ないことは分かる。

 

「事が発覚したのは仕事から翡翠が夜遅くに戻られたときです。迎えてくれると思った妻子がいなかったのです。翡翠はすぐに集落の住民の家を片っ端から訪ね行方を聞いたそうですが誰も知りませんでした。その後も周囲の山中や村、集落を探し回りましたがついぞ見つかることはありませんでした。そして捜索範囲を広げる時に薬屋として世界各地を旅してまわっていた私に事を知らせる手紙とともに協力要請を送ったのです」


 分からない言葉は沢山あったが、話を遮って聞いてはいけない気がした時羽は黙って話を聞き続ける。草花も話を続けた。


「断る理由がなかった私は協力すると返事をし、そこから先は合流する暇も惜しいと手紙でのやり取りが続きました。しかし、有翼便とはいえ私が国の外にいる上に常に動き回っていたので、手紙を出してから届くまでにかなりの時間がかかります。一度調査したところをもう一方が調査することも多々ありました。そんな中、私はここから離れた外の国に居る時にある噂を聞きました。大和の国、北の地にある研究所に桜羽様がつかまっているかもしれないと」


「もしかして、わたしたちがいたところ」


「そうです。私はその研究施設があるであろう場所を突き止めました。残念ながら私には研究者としての才はなかったので、翡翠に手紙を出してからすぐに研究者たちの近くまでいける軍に入隊しました。そして、入隊してすぐにあの爆発事件が起こったのです。そこから先は宗次郎さんが話していた通り逃げていた人々の追跡をしました。そして、桜羽様と再会したのです。しかし、お子様の存在は確認できませんでした」


 草花はいまだにその事実が信じられないという表情を浮かべながら一呼吸おいて、また話を始めた。 


「私は、桜羽様がお子様を助けることなく自分だけ逃走を図るなどするとは思えないのです。同じ施設につかまったのか、別のところにいるのか、想像しかできませんが、逃走する桜羽様のそばにはあなた様がいました。お子様が持つ白髪と同じ色を持つあなた様が。私は、時羽様が桜羽様の娘ではないのかと思っているのです」


「おとははわたしのほごしゃだけど、ほんとうのむすめだとはいわれたことはない」


 時羽は実のところ自分と桜羽の関係性をはっきりと理解していなかった。道中桜羽は保護者を名乗っているが、時羽のことを娘と言ったことはない。きっと本物の親子ではないのだろう。親子ではないが、同じ一族であるとも言っていた気がする。では、その関係性は何なのだろうか。言及されたことはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る