第41話 襲撃②
三十分後、敵であるはずの軍服と桜羽おとはたちはそろって先ほどまでいた村のはずれにある森の中にいた。時羽と花凛は桜羽が抱えて移動したため、大人であり妖怪の血を持つ者たちの足ではかなりの距離を進んだ。だいぶ深く森の中に入り込んでいる。
森の中は大きく育った木々の枝たちが、もう冬になって葉を落としているというのに空中で絡み合い、陽の光を遮っていてどこか薄暗い。地面では、低木や木の根が、不規則で気を抜いたものの足をとるような配置で存在している。
こんな人々が暮らせるように開発のされていない場所に好んで寄ってくる者はおらず、人の気配はない。あるのは植物たちと、まだ冬であるが寒さが厳しというところまでいっていないこの地で、冬眠の準備をする動物と冬眠をしない鳥たちの気配だけだ。
「ここまでくれば、人に聞かれることもないだろう。で、何があった。まずは草花。お前はその軍服を着用している奴らの組織所属なのか? 私の敵か? 答えろ」
桜羽は草花と呼んだ軍服の男と知り合いだった。だが例え知り合いであろうと、今の所属や立場が割れていない草花に子どもたちを近づけようとしなかった。常に警戒を怠らずまずは敵なのか、そうでないのか確認をする。
口頭での確認に意味はあるのか。桜羽と草花が知り合いであることだけは会話から察していた宗次郎は疑問を抱いている。しかし、それを指摘できるような雰囲気ではない。警戒する桜羽の殺気ともいえる気配は、会話に割って入るにはあまりにも重すぎた。
「いいえ。貴方を探すためだけに利用していただけのこと。私が貴方の敵になり得ることは決してありません。同時に、貴方の味方でないこともあり得ません」
草花はきっぱりと言い切った。誰が聞いてもそれは嘘ではないと思ってしまいそうなくらいの言い切り方だ。
「そうか。ならばいい。お前が私に嘘をつくことはないからな。時羽、花凛。もう隠れなくていいぞ」
敵になり得ることはない。その一言を聞いて初めて桜羽は草花への警戒を解いた。それと同時に本物の重ささえ感じていた空気は霧散する。時羽と花凛は桜羽の背後からひょっこり顔を出し、少し怖がりながらも草花の方をじっと見上げた。宗次郎もやっと額の汗をぬぐい一息つくことが出来た。
「おや、可愛らしい。お子さんですか?」
「まあ道中そんなものだ。手出したらお前といえども殺すぞ」
草花は「そんなことするわけないじゃないですか」と殺気を滲ませた警告にも動じない。
「とりあえず草花の立場は分かった。でもこいつに話を聞くと物凄く偏る気しかしないから、何があったか話してくれるか、宗次郎。どうやら草花が追いかけ回したみたいだし、お前の話で全体像を掴んでから、草花の弁解を聞こうと思う」
「敵じゃないことは分かったが、こいつ一体何者なんだ? 桜花さんの知り合いだってことしか分からん。でも処刑とかは後味が悪いからちょっと……」
「こいつは私に無駄に懐いてるだけのただの変人だ。まあ純血の人間ではないがな。処刑とかそこまではしないから安心しろ。そこまではしないから」
「半殺しも同義なんで。桜羽さん割と容赦ないし。平和な感じでたのんます」
宗次郎は何があったかまだ少し混乱する脳みそを最大限に回転させ、順をおって自分の覚えている限りを話し始めた。
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