第45話 警告
「アサ、リィズにいうことがあるんじゃないのか?」
カイトが浮かれる私に冷静に言った。
「そうだった」
そう、喜んでばかりもいられない。なにせ目的の品は今の私の手元にはないのだから。私はリィズさんの顔を見やったが、話を切り出すには相当な勇気が必要であった。
胸の鼓動を抑えようとすればする程、私の心拍数はさらに上がり、私の心にブレーキをかける。
さっきの会話の際、リィズさんが笑ってる内にそのまま言ってしまえばと私は今更ながら後悔した。
それでも覚悟を決め、私は勇気を振り絞りリィズさんに言った。
「あのリィズさん、伝えなければならないことが--」
私は震える声を抑えながらリィズさんに言った。でもリィズさんが私に目を合わせるなり、私は言葉を詰まらせてしまった。
リィズさんは私の調子をみて、おおよその検討はついていたのか、私の次の言葉を待たずして言った。
「その顔だとイヤリングは取り戻せなかったようだな」
リィズさんが察してくれたお陰で、私の肩の荷はおり、その穏やかな口調から私はここぞ言わんばかりにリィズさんに思いを伝えた。
「そうなんです、すみません。でもお城に戻る必要はありません。リィズさんがここに来る途中軍艦を見掛けませんでしたか?」
「見掛けたな」
「イヤリングはそこにあるんです」
ここまで言いかけた所でリィズさんが表情を曇らせた。
「やはりあの光は私の見間違いではなかったか。アサ、人の前であの力を使ったんだね」
「すみません脅されてしまって」
私は謝り状況を説明した。
「バルセルラにイヤリングの扱いを知る者がいるということか」
「白髪の女性です。名前をルヴィーといいます」
「ルヴィー……」
リィズさんはルヴィーさんに思い当たる節があるのか、考えを巡らしているようだった。ルヴィーさんも昔に龍に会った事があると言っていた。もしかするとその時に会った龍がリィズさんだったのかも。
私は考えにふけるリィズさんに直接聞いてみることにした。
「リィズさん、ルヴィーさんを知ってるんですか?」
しかし返ってきた言葉は私が思っていたものとは逆のものだった。
「いや知らんな……どうやらこちら側に精通してる者らしいな」
「こちらも道をしめす」
リィズさんがそう言うと耳に着けた左右のイヤリングが光をだし、その2つの光が交差すると1つの光の線を作り出した。
リィズさんが放った光は紫色で、私はこの時、光る色の違いのからくりを理解した。2つ光を交差させた際に、持ち主のイヤリングの色に応じて光が変わるようだ。
「リィズさんいいんですか?こちらの位置を教えて」
龍のアジトを目指すルヴィーさんの目にもこの光は見えていることだろう。
「これは私からの宣戦布告だ」
リィズさんは逃げも隠れもせずに正面から戦うつもりだ。
私は複雑な思いだった、それは誰にも傷付いて欲しくなかったからだ。でもそんな甘い気持ちでルヴィーさんを止められないことも分かっていた。こんな時だからこそ気をしっかり持たないといけないのに、私の心は揺れ動くばかりだ。
リンドセル号ではリィズさんの放った光が案の定艦内を騒がせていた。
「ルヴィーこの光は一体なんだ」
バルバロスさんがルヴィーさんに言った。しかしルヴィーさんの耳元には届いてないようで、ルヴィーさんは考えこみ、この光の持ち主が誰なのか必死に思いだそうとしていた。
「紫の光……リィズか」
ようやく思いだし呟いた所で「ルヴィーこの光、お前なら分かっているのだろう?」とバルバロスがもう1度聞いた。
皆が動揺するなかルヴィーさんは顔色1つ変えずにバルバロスさんに言った。
「どうやら後ろから龍が追ってきてるようだ」
その言葉に船内のオペレータ達がざわつきはじめる。
「なんだと」
バルバロスさんも動揺を隠せないようだ。
ルヴィーさんは机におかれた自身のイヤリングの光の先を見つめ、ミハエルさんに聞いた。
「ミハエル、龍のアジトまでの距離は後いくらある?」
「500キロはあるものと思われます」
「ミハエル、エンジン出力を80%に上昇させろ」
「ルヴィー司令よろしいのですか?」
ミハエルさんが目を丸くして言った。
そしてバルバロスさんもルヴィーさんの無理な要求に反発した。
「ルヴィーそれではバルセルラに戻る前に燃料が尽きるぞ」
「その場合は乗り捨てればいい。作戦成功を優先する、私はそれでこの地位まで昇りつめた」
バルバロスさんは歯ぎしりをならし、ルヴィーさんを睨みつける。
「貴様はこの艦にどれだけの資産がつぎこまれた知らんからそんなことが言えるのだ」
「ならここで龍に落とされろとでも?」
ルヴィーさんにそう言われバルバロスさんは返す言葉がないことを悔やしく思った。
「ミハエル、スピードを上げろと言っている!!」
「はい、了解しました」
声荒げるルヴィーさんにミハエルさんはバルバロスさんの顔色伺いつつもルヴィーさんの指示に従った。
バルバロスさんは悔しそうに歯をぎりぎりと鳴らし、食い縛った。
「ミハエル、今の内にモニター画面を後方映像に切り替えておけ」
ルヴィーさんが口調を戻しミハエルさんに言った。
言われたミハエルさんは不思議そうに「このスピードでは龍も流石に追い付けないのでは?」とルヴィーさんに確認をとる。
「流石のジェットエンジンでも奴の身軽さには勝てんさ」
その言葉にミハエルさん、バルバロスさん、オペレータ達も凍りついた。
それから5分、10分と過ぎる中でルヴィーさんは龍が姿を見せるのが遅いと感じていた。
そしてミハエルさんがルヴィーさんに報せ、ようやくモニターに龍が写り込んだ。
曇り空と相まってリィズさんの紺色の体は殆どモニターで確認するのは困難だったため、すかさず船内にルヴィーさんの指示が飛び交った。
「ミハエル映像を拡大しろ」
「はい」
「人が乗ってるようですね?」
「アサか、まさかここまで追ってくるとはな」
そしてルヴィーさんはここまで到着が遅れたのがリィズさんが私達を乗せていたためだと理解した。
「またしてもあの女なのか? 龍を手懐けて一体何者なんだ」
バルバロスさんが私に得体の知れない何かを感じ恐怖を覚えた。
「私も是非聞きたいものだな、どうやって彼女に信用を得たのか?」
逆にルヴィーさんはこの状況を楽しんでいるようだった。彼女の好戦的な性格がそう思わせたのであろう。
「ルヴィー笑ってる場合か、このままでは奴らに追い付かれるぞ」
ルヴィーさんの今一緊張感に欠ける態度にバルバロスさんが言った。
「分かっている。私が考えなしに龍のアジトを目指していると思っていたのか」
「そうは言ってないが」
「なら任せておけ、ミハエル奴らに私から警告を送りたいできるか?」
「はい可能です。でも警告なら私に任せてもらえればやりますが」
「私がやるから意味があるのだ。奴らに私の声を聞かせ足止めさせる」
「分かりました。ではこのマイクにどうぞ」
ルヴィーさんがマイクを掴み、私達に警告を送った。
「私は今作戦を指揮するルヴィーアルトワ中尉である」
私は声をきき声の主がルヴィーさん本人であることをリィズさんに告げた。
「我々の軍艦に接近する龍共々に警告する。これ以上の接近を試みるのであれば、それは我々に対する攻撃の意志があるものと判断し、武装攻撃を行う。貴殿が正しい判断を下すことを願う。繰り返す--」
私達は速度を落とし話し合った。ようするにルヴィーさんの思う壺であったのだ。
「リィズさんどうしますか?あー言ってますが」
「俺たちに引く選択肢はないだろ」
私はカイトに聞いてないのにカイトがリィズさんが言うよりも早く答えた。
そして「小僧の言う通り、あの艦はここで落とさねばならん」リィズさんの考えもカイトと同じものだった。
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