第36話 聞き覚えのある声

 カイトがゲドロフさんと話し、どんどん階を下げていく。そんな中で、ある話題になった。


 「作戦は失敗だよ。みんなチリチリに逃げていった」

 先程の楽しげな雰囲気が一転して空気が重くなる。


 「そうか、やっぱり龍をかろうなんてはじめから無謀だったんだ」

 ゲドロフさんも心のどこかでこうなることが予想できていたようだ。


 「俺のだちのローグも作戦に参加してたんだが大丈夫だろうか?」


 「心配なのか?」


 「なかなか危なかっしい奴だからな」


 「だったら見張りは俺が変わってやるよ。逃げてから大分時間が経つ、マリクル山脈の入り口まで見に行ったらどうだ?」


 「いいのか?」

 カイトの提案に揺れ動くゲドロフさん。やっぱり、同僚のローグさんが気になるみたい。


 「陛下に報告したら、俺も見張り番だろうからな」

 その言葉が決定打になり、ゲドロフさんが重い腰を下ろした。


 「そうか、わかった。ことは重大だお前は今すぐ王に報告してこい」


 「分かった」

 別れ際にゲドロフさんが思い出したかのようにカイトに言った。

 

 「そうだ王からこんな命令が出てた。赤い服をきた少女がきたら城に通せって」

 時が止まったようにカイトの表情が固まる。


 「名前はなんていったかな?」

 ゲドロフさんが考えをめぐらしてるとカイトがあっさり答えをぽつりとこたえた。


 「アサか?」


 「そうそう、確かそんな名前だ」

 ゲドロフさんがそれだっとモヤついた気持ちがスッキリしたように手をぱちんと叩いた。


 叩いた手を開くとそこにカイトの姿はなく、カイトは道を引き返し、全速力で走っていた。


 「カイト、おい」

 ゲドロフさんがカイトを引き止めようと叫んだが、それでもカイトは止まらない。

 これにはゲドロフさんも目を点にさせ、呆然と立ちつくしかなかった。


 「アサが来ることが知られてる。悪い方にことが運んでなければいいが」

 不安が頭を駆け抜ける中、数ある階段をとにかく走り続け、カイトは息が苦しくなることもいとわず、アサの無事を願い天井階王室を目指した。



 10分前……


 私は王室の前で立ち止まり、深呼吸をして自分を落ち着けさせた。


 「私なら出来る」と自分を奮い立たせた。竜王様の迫力に比べたらバルセルラの王様なんて--

 私は自信のなさの現れかとても小さなノックをした。


 この時の私はこの初歩的なミスに気付かなかった。


 「留守かな?」 

 でも扉に手をかけると鍵がかかっておらず扉はそのまま開いた。


 王室は広く中に入ると勾配の緩い階段が続きその先に玉座がみえた。


 「ここは謁見の間なんだ」

 左右に扉があった。どちらかに王様がいるかもしれない。私が先に左の扉に手をかけるとこちらはロックがかかっていた。


 すると背後からかちゃりと扉が開く音がした。


 「そなた何者だ。ここが王室だと分かってのことか」

 振り返ると背の低い小太りの禿げたおじさんがいた。

 鎧はしてなく格好からしてこの人が王様なんだろう。分かりやすい王冠はつけてないけど、その代わり金のブレスレットにお高そうな宝石つきの指輪を沢山つけてる。


 「あのすみません、脅かすつもりじゃなくて。私はその……王様に大切なお話がありましてここにきました」


 「話だと?」


 「今問題になってる龍の件です」

 私は甲冑を開いた。


 「女か。お主アサであろう。変装などせずとも歓迎するつもりであった」


 「私をですか?」


 「待っていたのだ、ルヴィーの言った通りであった」

 奥の部屋からこつこつと音をたて彼女はにたび私の元に姿を現わした。


 「アサまた会ったね。陛下の早とちりのおかげで演説は聞き損ねてしたったが」

 相変わらずの皮肉っぷりのルヴィーさん。


 「ルヴィーさん」

 私は安心した。ルヴィーさんがいてくれたなら、こんなに心強いことはない。

 私はルヴィーさんの元へ駆け寄ろうとしたがルヴィーが私の名を呼び制止した。


 「アサっ‼」

 いつもの調子のルヴィーさんとは違く驚いた。でも次に出たルヴィーさんの言葉は優しげなものだった。


 「あのときは私が君を助けた、今度は君が私を救う番だ」


 「?」

 私にはルヴィーさんが何をいってるのか分からなかった。しばしするとルヴィーさんが右腕を前にだし、後ろに連れて兵隊に声を上げた。


 「捕らえろ」

 その合図ともに入り口から兵隊が二人入ってきて私を地面に叩き伏せた。


 「ルヴィーさんなんのつもりですか?」

兵隊に身動きを制限された中で必死に叫んだ。


 「お前が龍共のさしがねなのは分かってる」

 その声は私が知ってるルヴィーさんじゃなく、私を冷たくあしらった。


 「……」

 ショックから言葉が出なかった。


 「こんなに早く下山できたということは近くに龍がいるな」


 「私を捕まえたところで龍は姿をあらわしませんよ」


 「はは、そんなつもりはないよ。お前の目的はわかってる。これだろ」

 ルヴィーさんの手に赤く光るイヤリングが。それは私の右耳のイヤリングだ。


 「どうしてそれを?」


 「言っただろ?昔龍に会ったことがあると。だから奴らの考えることなど手に取るように分かるのさ」


 「く」

 歯を食い縛りルヴィーさんをにらみつけた。


 「怖い顔だ。私が憎いかね。でも今の君に必要な感情はそれじゃない?」


 「ルヴィーさんさっきから何を--」

 ルヴィーさんは最後まで私の話を聞かずに兵隊に指示を出す。


 「膝をつけさせ起こせ」


 「はっ」

 兵隊はそういうと私を乱暴に無理矢理膝をつかせ腕をつかみ、顔を前に出させた。


 目を開くとルヴィーさんが眼前におり狂気を含む笑みを私にみせた。

首もとに長く伸びた青い爪を突き立て、私の顎のあたりを食い込ませた。

私は恐怖のあまり、一粒の涙をこぼした。

 そしてルヴィーさんが耳元でささやく。

 「死ぬのは怖いだろ。ならば従うんだ」


 私はこの言葉をきいた時、ハっとなって過去の記憶が脳裏に駆け巡った。その言葉は前にどこかで聞いた覚えがある。

 答えをだすにはもう少し時間を要したがルヴィーさんは時間は与えず、すぐに次の要求を求めた。


 「さぁ助けを求めろ」 

 ルヴィーさんの首もとにやる手に力が入り私の首を締めた。


 首を閉められ呼吸ができなくなり、何も考えられずとにかく助けを誰かに叫んだ。

 「助けて」


 その時ルヴィーさんが私の左の耳のイヤリングに、手に持つイヤリングを叩き弾いた。


 すると私の左のイヤリングから光が伸び、ルヴィーさんの手元のイヤリングに光があたり、さらにそのイヤリングから城の外に向け光がさした。


 ルヴィーさんが腕を解き、私はその場で咳き込んだ。


 その光がどこを示しているのかも気になったが、それよりも光は以前の黄色い光ではなくイヤリングの配色の血のような赤い光を放っており、禍々しく少し恐怖を感じた。


 「陛下この光の先の先が龍のアジトです」

ルヴィーさんが光の方角を指さし王様に言った。


 「でかしたぞルヴィー。お前の話を信用して良かったわ。それでこの小娘はどうする?」


 「もうこの娘に用はありません。が、龍の遣いを任せられた者です。我々の目的を阻害せぬよう拘束するべきです」


 「よし、その者を牢につれていけ」

 王様が二人の兵隊に指示し、私は無理に体を起こされた。私は喉の傷みから何度か咳こみ、か細い声でルヴィーさんに言った。


「見損ないましたよルヴィーさん」

 するとルヴィーさんがゆっくり私の元へ近づき、耳元に手をあて耳打ちした。

 「すまないね。このお詫びは必ずする」


 「え?」


 「仮拘束所につれていけ」

 ルヴィーさんが言った。


 「はっ」

 私は有無を言わずに王室をだせれた。

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