第22話 疑心暗鬼
時は過ぎ、今日というお昼を過ぎようとしていた。私はというと旅の疲れからまだ眠ったままである。リップの姿がみえないがリップはバッグの中でスヤスヤと眠っている。リップなりに考えて人目につかないよう隠れて眠っているのだろう。偉いと誉めてやりたい所だが、隙間から花提灯を作っているところをみるとまだまだ詰めが甘いようだ。
そうしていると私達の前にガタゴトと一代の馬車が通りかかった。
「あらあの子?」
馬車の窓から顔をだし、金色の髪をなびかせるお姉さん。20代後半くらいだろうか。
「運転手さん少し止まってくださる」
馬車は1度は通り過ぎていったものの、お姉さんの言葉をききつけ動きをとめた。
お姉さんは私をおこさないようそーっと近づいて行く。
「野宿にしては大胆な寝方ね」
食べかけの食材にお皿が乱雑にちらばっており、リップはリュックの隅から未だ鼻ちょうちんをつくっている。
それをみてクスりと笑うとお姉さんは私の鼻先を数回つつき私を起こそうとした。
「あ、あー」
私は目を開くと目の前に人がいたものだから、驚き大きな声をあげてしまった。
「ごめんなさい、お休みの所を起こしてしまって」
「いえ、全然そんなこと」
私は動揺しながらも受け答えし、1番にリップを探した。カバンの鼻提灯をみつけ大急ぎで指で割った。どうやらお姉さんにリップの姿をみられてないようで少し安心した。
「山道で野宿なんて旅の方?」
「はい、そんな所です」
「睡眠が無用心の所をみるとあまり経験が浅いのかしら?」
私は返しに困ってしまった。
「ごめんなさい、こんな事を言ったら貴方に失礼ね、お詫びにお運びしましょうか」
「いえ、全然お構い無く」
「遠慮しないで元々そのつもりで声かけたのよ、目的地は?」
私はあまり言いたくなかったが、沈黙の空気感にたえられず渋々打ち明けた。
「バルセルラですが」
「私もバルセルラにかえるところなの、席も空いてるし乗ってって」
お姉さんが手招きして馬車を指差した。お姉さんがあれにのってきたのかと少し驚いた。馬車なんてあまり見掛ける機会もないし、こんなに間近に見たのははじめてかもしれない。
呆気にとられる私をみてお姉さんが言った。
「そんなに珍しいかしら?」
「ええ、まぁ」
私は言葉を詰まらせてしまった。どうやらお姉さんが返事の答えを待っているようだ。
「少し考えさせてもらっていいですか、荷物の整理もありますので」
私はお姉さんに背をむけ散らばった皿などの片付けのとりかかった。
私は助ける立場ではなく、助けられる立場だ。この発言はお姉さんに対して失礼かもしれない。
もちろん、あの人が親切心でいってくれてるんだと思うけど、カルーモもでの一件もあるから、甘い誘いには簡単にのるのは安直だと思う。大体行き先も同じなんて少し怪しい。
「私も手伝うわ、一人じゃ大変でしょ?」
「あー……」
私が言葉を発しようとしたときには、お姉さんはしゃがみこみ散らばった器を重ねはじめていた。
「ありがとうございます」
この状況ではそういうしかないだろう。私は少し様子をみて、それから答えを出すことにした。
片付けてる姿をみて私はお姉さんが盗みを働かないか、こまめに目線を挙げチラリとお姉さんの横顔をのぞかせた。
そのせいで気づけばお姉さんばかりが作業がはかどり、お姉さんの周りに対して私の周りは物が乱雑して全然片付いていかない。
もう一度私が視線をむけた時、お姉さんも私の視線に気付いたのか、お互い目があってしまった。
私はすぐさま視線を反らした。お姉さんはというと不思議そうに頭に?を浮かべ、手を口元にもっていきクスリとした。
私はなんだか妙に恥ずかしい気持ちになり顔を赤らめてしまった。私はお姉さんに視線を向けられずにいるがきっと笑っていることだろう。
私がそんな事を考えているとお姉さんが私にしゃべりかけた。
「あの荷物はこれにしまうのよね?」
お姉さんは私の目の前おり、リュックを指さし言った。
突然目の前にいたことでさえびくりとなったが、リュックを指され私は勢いよくリュックを抱き抱えた。
「ダメ!!」
反射的に強めに奪いとってしまった。
息をあらあげる私に流石のお姉さんも驚いた様子だ。
でも私はそれだけ必死だった。ジョセに忠告された通りだ。龍にはすでに懸賞金かけられ、その命を狙う人に溢れている。今度こそはリップを隠し通さなきゃ、これ以上私ごとに誰も巻き込みたくない。
「すみません、これには大事なものが入っているので、そこにおいて貰えれば私がいれますから」
「わかったわ」
お姉さんはそれ以上何もいわず、また作業に戻った、私の周りの片付けが済んでない場所を。まるでお母さんのようだ。うちのお母さんより一回りほど若いがこの世話焼きな所をみると恐らく既婚者だろう。
お姉さんの身なりをようく見てみると、きらびやかな装飾のついた白いセーターに黄色いロングスカート。そして金色の長くおろした髪が輝いてみえた。それはもうどこからどうみても彼女が貴族なような生活をしてるのは間違いないだろう。
そうだ、大体なんで気づかなかったんだろう。お姉さんは馬車に乗ってきたんだ。それだけでもお金持ちだってわかる。私は自分達のことで頭が一杯で全然相手のこと洞察できていないことに気付かされた。
「あの………お願いします」
私は溜めにため頭を下げてお願いした。
これまで散々失礼な真似をしたんだ断られたらそれでもう仕方ない。
「頭をあげていいわよ」
お姉さんが優しげな声でいい、私はお姉さんにまっすぐ向き合った。
「さっきも言ったけどはじめからそのつもりであなたに声をかけたの。だから乗って」
お姉さんが手招きし、今度は私は促しに応じ馬車へと案内された。
「さぁどうぞ。開口部が狭いから頭を気をつけてね」
「失礼します」
私をさきに馬車にのせ、お姉さんは運転手に話をふった。
「行き先はバルセルラでお願いします」
「え、お嬢様よろしいのですか?」
「もう用は済みましたから」
後からお姉さんが馬車に乗り込んでくる。
「お待たせしました」
「いえ全然そんなことないです」
「では出発してください」
「はいお嬢様」
運転手のかたが馬を鞭で叩き馬車はゆっくりと走り出した。
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