第20話 ジョセの秘密
私達は宿屋に到着すると大慌てで扉を閉めた。
「ふー騒ぎが収まるまでここで待とう。警察沙汰にならなければいいが」
ジョセが扉に持たれ汗を拭いながら言った。そして視線を私に向けると。
「それでまずは、ことのいきさつを話してもおうかな。ポルン、奴の口の縄だけとってやれ」
「ぽぽん」
ジョゼに指示されポルンさんが、店主の口元に巻き付いた縄をほどいた。
口元が自由になるやいなや、店主は被害者の私がいながら、甚だしくも弁明をしはじめた。
「俺は無実だ。君達は誤解している。私はただ彼女に部屋を提供しただけだ」
「そうなのかアサ?」
「ジョセ、話がややこしくなるから私が全部話すね」
呆れた表情で私は言った。
「だそうだポルン」
「ぽぽー」
ポルンさんはジョセに敬礼して店主を元の状態に戻しはじめる。勿論店主は必死に抵抗試みるがーー
「何をするやめろー、私の話をきけーー」
あえなく口を塞がれてしまった。
そして私は今までのことをジョセに打ち明けた。
「成る程、こいつもなかなかの小悪党だな。話のいきさつは分かった」
「でだ、もうひとつ聞きたい事がある。その生き物についてだ」
ジョセがリップに指を差し私につめよる。聞かれることは覚悟してけど、ジョセに面と向かって言われ、私はビクッと体を震わせた。
ジョセの追及はまだ続く。
「アサはトカゲと一体が、トカゲは空を飛んだりましては火を吹くなんてありえない。それくらい世間知らずのあたしでも知ってる」
グーの音もでない。私は観念して全てジョセに話すことにした。
「うん、正直に言うわ。ジョセは今バルセルラでとある問題が起きてることは知ってる?」
「あータンパでも騒ぎになってたからな。人並みには聞いてる」
「その事件の龍の子供がリップなの」
「やっぱりか……」
ジョセは心のどこかで勘づいていたようだった。
「それでお前はその竜を連れてどうするつもりだ?」
「バルセルラいくわ、この子の親を探しに。そして自分達の故郷に帰ってもらう。それが私の旅の理由」
「なるほど話の大筋はわかった。竜の事件はその後進展があってな。情報提供者には懸賞金がもらえるそうだ」
「その額500万だ。そんだけあれば当分は遊んで暮らせる額だぜ。こんな上手い話はないと思わないか?」
「何がいいたいの?」
不穏な空気に私の心に不安がよぎった。
……
「そうだね。お前は今それだけ危険な綱渡りをしてるって訳だ」
「この話を聞いても気持ちはかわらないか?引き返すなら今だぞ」
なんだジョセは私を心配してくれているんだ。でも私の中には答えは1つしかない。腕の中でリップを抱きかかえ、リップと目を合わせてからジョセに返した。
「私はもうリップに出会っちゃったから、この子の親にリップを預けるまで、私はリップの保護者として責任を果たします」
「意志は固いようだな。せっかく心配してやってんのに。まったくようやく適任な奴が現れたと思ったんだぜ」
私が不思議そうな顔をしてるとカトリーヌさんが説明してくれた。
「実はね、私達協力者を探していたの。そこにアサちゃんがきて仲良くなったもんだから、一役協力してもらおうってジョセちゃんと話してたのよ」
「でも私何の芸もできないですよ」
「そんなこと知ってるよ。アサには私のナイフ無げの的になってもらいたくてね」
「なによそれ。それ私である必要ある?」
「ただ突っ立ってるだけでいいんだぜ?こんな楽な仕事ないだろ」
ジョセが嫌味たらしく言った。
「私は仕事にやりがいを求めるタイプなの。でも残念だったわね」
私は最後にジョセに舌出して言った。
「まぁその分はこいつに働いてもらおうと思ってるけどな」
そういいジョセは宿の店主の歩み寄った。
「あんたも丁度お金を稼ぎたいんだろ?ただ突っ立てるだけなんだお前には天職だろ」
店主は口をもごもごさせており、おそらく答えはノーだろう。
「お前に選択権はないんだよ。警察につき出されなかっただけ感謝しろ」
ちょっぴり店主さんが可哀想な気もしたけど、この人にはこれぐらいのことをしないと懲りないだろうから。
私はポルンさんにお願いし、店主さんに話ができるようにしてもらった。
「あの店主さんこれリップが拝借しちゃった分です。リップもこの通り反省しています」
私は2000ミラを店主さんの足元に置いた。リップも大人しく頭を下げる。
店主は私に見せる顔がないのか目線を合わせず口は一文字に閉じている。
「人は過ちをおかすものです。どうかこれに懲りて、次からは胸張って出来る稼ぎ方をしてください。じゃないと折角の夢が汚れてしまいますよ。もし宿を開業できるその日がきたら、カルーモ村に寄ったときに行きますよ」
「本当にすまなかった。こんな俺より年の低い子にさとされるとは恥ずかしい」
それは悔し涙なのか店主が目に涙をにじませた。
「さてと今日はここで寝泊まりしても良さそうだな。ここなら宿泊費も浮きそうだし」
ジョセがラッキーと言わんばかりに嬉しそうにしている。
私も時間に余裕さえあれば泊まっていきたがったそうもいかない。
「私はこのまま旅をつづけるわ」
「アサちゃん寝ないで大丈夫なの?」
カトリーヌさんが言った。
「睡眠は早めにとったので」
「そうか、でもバルセルラまでずっと歩いていくつもりかよ?」
「勿論そうよ」
「そんな大きな荷物もってたら無理だ無理。ここにいくらかおいていけ」
ジョセが顔の前で手を横に振り言った。
「いやよ、全部必要なものだもん」
「よく考えてみろ、カルーモまでその荷物背負って辛くなかったか」
「まぁ重たかったけど無事ここまでこれたじゃない」
「その荷物で山を超えられるとは思えないな」
確かに少し厳しいかもしれない。
「おいていくのが嫌なら売りにだせ。あたしの知り合いにルドワンで質屋をやってるアレクって奴がいる。私の名前をだせば高値で買い取ってくれるはずだ。明日あたしから連絡してやるよ」
「ありがとジョセ」
私は玄関先に移動してみんなに挨拶をする。
「みんな短い間だったけど、本当にありがとう」
「アサ、事件が片付いたらカルーモにまた来てくれよな。あたし達必ずビッグになってるから」
ジョセが何時も通り自信げに言った。
「うん、必ず行く。その時はちゃんとお金用意するね」
3人が私に歩み寄り代表してジョセが手を差出し握手した。
私はなんでか目がうるうるしてきた。
「泣くな、お前の旅はまだこれからだろ。お前心ぼそいからコレ持ってけ」
ジョセが私に折り畳みの弓を手渡した。
「コレなら腕がなくても真っ直ぐには飛ばせる。威嚇射撃くらいにはなるだろ」
「ありがとう。でも私弓なんて使ったことない」
「ったく世話の焼ける野郎だな。じゃー1回だけだぞ。まず構えてみろ」
私が矢を引いてジョセが正しい姿勢を手取り足取り教えてくれた。
「アサあそこの掛け時計を射ぬくぞ」
ジョセも一緒に矢を引いてくれている。
「あんまり緊張するな、感覚だけつかめばいい」
ジョセに体を預け掛け時計に狙いを定める。
「よし撃て」
ジョセの掛け声と共に矢は放たれ見事に時計の中心に矢が当たった。
「この感覚忘れるなよ」
「うん」
「元気でやれよ」
そういいジョセは一歩引き、カトリーヌさん私の元にきた。
「私の助言でこんなことになってごめんなさい」
「いえ全然そんなことありません」
「お詫びって言ったらあれだけど、ジョセちゃんの秘密教えてあげる」
カトリーヌさんが私の耳元で小さな声で言った。
「ジョセちゃんの本名はね。ジョセフィーヌっていうのよ。本人の前でいうと怒られるから心のなかに閉まっておいて」
えーー
ジョセに向きかえり、ジョセと目があった。「クスっ」っと吹き出してしまった。
「おい姉貴今アサになに吹き込んだんだよ」
「元気でねってただそれだけよ」
しらを切ろうとするカトリーヌさんだったが「ならなんで耳打ちする必要があるんだよ」とジョセに詰められていた。
「ぽぽぽー」
ポルンさんがジョセをなだめようと仲裁に入った。だがその行動がジョセの矛先をポルンさんに向けてしまった。
「ポルンお前の耳なら聞こえてたよな、さぁ言え」
困り果てるポルンさん。やっぱりこの三人といるとなんだか可笑しくて笑っちゃうな。
そうして私は彼女たちと別れて旅を続けた。
カルーモの北口から出て道なりに進むのが本来一番の近道なのたが、ジョセの助言もありそれより西側にある山道を進むことになった。
ジョセによれば北口ルートは山賊被害が続出してるので避けた方がいいとのことだ。
宿に残った三人は私が去ったあともまだ眠りついていない様子だ。
「所でジョセちゃんなんで山道なんて勧めたのよ。あの通りに山賊なんかきいたことないし、かえって遠回りじゃないの?」
「どっち道あの荷物じゃルドワンまで持たねーよ。だからあえてあっちの道を通らせた。ひとけのないあの道をね」
「ジョセちゃん何か考えがあるのね?」
「アサ私に出来るのはここまでだ。あとは上手くやれよ」
ジョセが天井をみながらぶつぶつと呟いた。
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