第5話 キッタとモコ
んー、なんだか少し肌寒い。寝ぼけながら私は手探りで布団を探したが、手に残る感触は岩肌のようなゴツゴツしたもの。
私は自分でもどうかしてると思い、二度目の眠りにつこうとしたが。
「あーー」
私は昨日のことを思いだし飛び起きた。
「そうだ私あのまま寝ちゃったんだ。あれれ?」
隣に寝ていたはずの龍の子供が居なくなっていた。確かに昨日私と寝たはず。
あれは夢だったのかと一瞬自分を疑うも、そんなはずはないと顔を大きく横に振った。私は自分のほっぺを両の手でパチンと叩いた。
「私自分に自信を持て、あれは現実私は確かに龍を見たんだ。まだ近くにいるはず探さなきゃ」
穴蔵をくまなく探したが見つからず、外に出たのではと思いその場をあとにした。
外に出ると日は私の真上にあった。
「あちゃー寝過ぎた。お母さん心配してるだろうな。いや今は龍の心配しなきゃ」
声を出しながら龍を探したが全然その声に応答する気配はない。
そのまま森を突っ走っていると龍とは別の子供の声が聞こえた。
「こんな森奥に子供が来ることは珍しい何か知ってるかも」
子供の声が近くなり、急ぐ足を緩めた。子供が二人おり、手には木の枝の棒を持っている。
何をしてるのかと覗いてみると二人の間には小さな龍がいるではないか、どうやらこの二人は龍をいじめて遊んでいるようだ。
私はこの子達を知っている、同じエルモ村に住むキッタとモコだ。悪戯好きでよく二人でつるんでいる。私もよく悪戯されたものだ。
その度に私に説教されて反省したふりをしては、また懲りずに悪戯をする。
まぁそれがまた可愛い所でもあるのだが、今回ばかりは許せない。弱いものいじめをするなんて男として最低だ。ここは私がびしっと言ってやらねば。
私は少しも引くことなく二人に近づいた。
「あんた達こんなところで何してる訳?」
二人はこっちに気付き、ギクッとした様子で身を引いた。私が怒っている事を察したのだろう。はじめに口を開いたのはキッタだった。
「なんだ驚いた。誰かと思ったらアサ姉ちゃんじゃないか」
すると調子を取り戻したのかモコも喋りだした。
「今村を脅かす化け物を退治するところなんだ。アサ姉ちゃんだからって手柄は横取りさせないよ」
むむむ、怒りに拳が震えるのを感じ、それを言葉にして爆発させた。
「私がそんなことするわけないでしょ、このおばか達。何が化け物退治よ。そんなか弱い生き物が私たちの村に何の害を与えるっていうの。あんた達がやってるのは弱いものいじめよ。それも遊び半分で命を弄ぶ最低な行為なのよ。それがわかってるの?」
感情的になり少し熱くなってしまった。でも私はこの子達にわかって欲しかったのだ。他人の痛みが分かる人に。
そんな事もわからないまま大人になって欲しくなかった。
「うう」
二人が涙ぐむ。
私は二人の間に入りそっと龍を抱え上げた。
「ほら可愛いでしょ?優しくすれば、ちゃんと応えてくれる。もうこんなことしちゃダメよ」
「ううごめんなさい」
「ほらほらいつまでも泣かない泣かない、二人とも男の子でしょ」
「アサ姉ちゃんがおっかないからだろ、龍なんかよりずっと怖いやい」
「なんですって」
キッタの憎まれ口に少しイラッとしたが、反省したようなのでそれ以上は追求しなかった。
「ちなみにこのこと誰にも言っちゃダメだからね?私たち三人の秘密ね?約束できる?」
「秘密いいね。そのかわり俺達だけには龍みせろよな。俺達も可愛いがりたいんだから」
我ながら完璧な策だった。いくら口の軽い子供とはいえど、この魔法のフレーズには敵わない。
「秘密格好いいな。なんだが大人になったみたい。よし今からみんなに自慢しにいこうぜ」
私はその場でずっこけた。
「あんたね言ったそばから撤回しないでよ」
「撤回?なんだよそれ?」
キッタがいう。どうやら子供には難しかったみたいだ。
「冗談だよ、誰にも言わないよ。じゃないと秘密になんねーじゃんバーカ」
相変わらず憎まれ口が過ぎる小僧だ。怒りを抑えながら二人を先に村に帰し、私はその後を追った。
この龍は誰にも見つかる訳にはいかない。政府の耳に入れば、殺されてしまうだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます