ソシャゲで人気投票1位にならないと帰れない!

夢泉 創字

プロローグ

第1話 人気投票1位にならないと帰れない!

「君にはこれからソーシャルゲームの世界に行ってもらう」

「は?」


 え?待って、俺一話目読み飛ばした?なんか展開唐突過ぎてついていけないんだけど。

 ソシャゲの?世界に?転生?何故?どうやって?俺が???

 てかここどこ?いつの間にか俺、白い空間にいるんやけど??

 残念ながら夢…ではなさそうだな。何か妙な現実感があるというか…不思議な確信があるというか…。


「流石に説明が足りないよね。…ボク今すごく暇でさ。なんか面白いこと無いかな~って思って。そしたら、最近は「異世界転生」ってのが人気らしいじゃん?ボクも真似してみようかな~って。それで、数多いる人間の中から君が選ばれたんだ!おめでと~!」

「は?」


 それで説明したつもりか?よくわからんけど、コイツ殴って良いよな?いや、声が聞こえるだけで喋ってる実体っぽいものはないから無理か…。

 いや、声自体は空間そのものから響いてくるような感じだ。ということは空間そのものを殴ればいける…?


「なにを水に溺れた虫みたいにジタバタしてんの?馬鹿なの?死ぬの?」


 無駄だったようだ。いちいちムカつく奴だな、コイツ。


「あ~、あれか。空間そのものを殴ればボクに攻撃できるとか思っちゃった?思っちゃったわけ?よく頑張りましたね~」


 俺のこれからの人生含めて、生涯最大に嫌な奴だわ、コイツ。確信できるわ。

 だがこのままだと、ソシャゲ世界とやらに強制送還されてしまう。こんな奴に頭下げるのは嫌すぎるが、駄目もとで頼み込んでみるか。


「お願いします。家に帰してください。何でもしますから」

「ん?今、何でもするって言ったよね?」

「言いましたが?何か?」


 おう。何でも言いやがれ。帰るためなら何だってしてやらぁ。


「そんなに家に帰りたい?異世界行けるんだよ?」

「そのことに胸躍るのは否定できない。それでも、俺は家族のいる家に帰って、友達のいる学校に行きたいんだよ」


 そうだ。そりゃ剣と魔法のファンタジー世界に本当に行けるんなら楽しいだろう。並々ならぬ苦労もあるだろうが、それも含めて普通に過ごしていては経験できない非日常を経験できるってことだ。興味は尽きないさ。

 それでも、俺は家族や友人のいる世界を選びたい。俺はそこで生まれ、十数年の時を積み重ねてきたのだから。


「うんうん。まぁ、そんな君だからこそ選んだんだけどねー」

「は?」

「どんな世界に送られようと何が何でも元の世界に帰ろうとする人間ってのを選んだのさ」

「それは、何故?」


 わざわざ帰りたがる人間を選ぶとは何故だ?異世界満喫するぜ~みたいな奴の方が良いと思うが。


「だって、そんな人間なら元の世界に帰るためにどんな無茶ぶりだろうとやり遂げて見せるでしょ?その足掻きを見るのって凄く面白そうじゃん?」


 なるほど、ただの外道か。


「お前あれだろ、友達いないだろ」

「君が友達第一号~」

「絶対に断る」

「残念、強制なんだな、コレ。元の世界に帰りたければボクを友達認定したまえ」

「強制の友人関係とは」


 いちいち腹立つ奴である。


「まぁまぁ。君にメリットがないわけじゃないんだぜ?」

「…例えば?」

「先ず異世界生活を楽しめるってのが1つ。そしてもう1つが…そうだな、よし。君の妹さんの抱える病を直してあげよう」

「な!?」


 妹のあの病気を治してくれる、だと!?


「現状では治療法が見つかっていない難病。進行を遅らせることしかできず、そのためには通院や投薬といった負担も大きい。女手一つで君と妹を育てる母親は毎日大変だろうね」

「…あれを治せるのか、お前は」

「当然。こんな空間を造り出せるくらいなんだぜ?ボクにしてみれば朝飯前だね。朝飯とか食べたことないけど。というか食事すらしたことないけど」

「…………分かった。お前の言うとおりにしてやる」

「いぇ~い!契約成立~!」


 仮にコイツの言うことが真っ赤な嘘だったとしても。それでも現状維持ってだけだ。けど、もしもコイツが本当に妹の病気を治せる存在で、俺がコイツの言うとおりにすれば治してくれるってのが本当なのだとすれば。

 試してみる価値はある。 

 そして、そうと決まれば。次は。


「ところで、何て名前のソシャゲなんだ?俺も知ってるやつか?」


 次にすべきは情報収集。コイツから少しでも情報を絞り出しておかなければならない。


「えっとね、『War Fairy』とかいうやつ。知ってる?」

「普通にプレイしてるわ、それ」

「それは良かったじゃないか」


 とりあえず、知らない作品じゃないってのは有難いかもしれない。原作知識が使えるか否かで難易度はガラリと変わるだろうからな。

 『War Fairy』。ファンからの愛称は「WF」。多分、他に略しようがなかったのだ。「ウォーフェ」も「ワハ」も語呂悪いし。製作陣ももう少し興味を持たれやすい名前を考えればよかったのに…というのは公式すらネタにし始めた鉄板ネタである。

 だが、そんなナンセンスな名前でこそあるが、このゲームの人気は非常に高い。理由は単純にして明快。ゲームとしての完成度が異様に高いのである。広大な世界と魅力あふれる数多のキャラクター達。それらを貫くは笑いあり涙ありの重厚なストーリー。そしてその壮大な物語を彩る美麗なグラフィックと胸躍る音楽。戦闘システムもユニークで、簡単にはクリアできない難易度調整も見事の一言。有名な辛口批評家にタイトル以外は完璧とまで言わしめた作品である。

 個人的に俺も好きな作品だったりする。


「それで?どんな立場に俺はなるんだ?どこぞのモブか?雑魚エネミーか?」

「そこに主人公って選択肢がない辺り、ボクのことを良く分かってるじゃないか。流石は親友だね!」


 まぁ、コイツが俺を主人公とかにして楽しませようとかするわけねえしな。…もっとも、結構ハードな世界観なので仮に主人公になったとしても苦労ばっかりだとは思うが。

 そしてサラッと友人から親友にグレードアップしてるのは聞かなかったことにする。ここで突っ込んで強制親友認定の流れに持ち込まれたら最悪だ。


「とりあえず、君には主人公陣営として戦うキャラクターの一人になってもらう」

「つまり、ガチャで出てくるキャラクターって事か?或いはストーリー加入キャラやイベント配布キャラ?」


 『War Fairy』はソシャゲであり、ガチャシステムがある。というかガチャ主軸のゲームと言っていい。ガチャでキャラクターやアイテムを入手し、それらでパーティを組んで戦闘を重ねていくのである。

 そんな感じで主人公が入手する(ゲームの世界観的には仲間に加わる)キャラクターの一人にするってことなのだろう。…こう言っては何だが、意外と普通だ。もっとも、この感想を口に出すことは決してしないが。口に出して、じゃあやっぱり変えようなんて流れにするわけにはいかない。


「うーん?ボク、そう言うの詳しくないんだよね。そこら辺の細かい設定は慣れ親しんでる君に任せるよ」

「…設定?」

「そう。見た目とか、バックストーリーとか、能力とか?そういうのを細かく決めてほしい。そうすれば、その通りの存在になれるからさ」


 意外と良心的である。

 俺の目の前にSFチックな透明ハイテクウィンドウが複数現れた。キーボードになっているのもあるな。これを使って設定を打ち込んでいけばいいのか。

 ふむ。マネキンみたいのが描かれているウィンドウがあるな。これが容姿に関するウィンドウなのだろうけど…どうすればいいんだ?絵でも描くのか?俺めちゃくちゃ下手ぞ?


「なぁ、これどうやって容姿造りこめばいいんだ?」

「該当する場所を指でタッチしながら、頭の中で想い描くだけでその通りになるよ」


 うっわ、すげえハイテクだな。

 とりあえず考えるの怠いし、見た目とか適当にフルフェイスで作って…


「そして、ここで発表!君が元の世界に帰るための条件だ!」


 …っと、あぶねえ。肝心なことを聞いていなかった。その条件とやらを一番達成しやすい容姿や設定、能力にすべきだよな。


「さてさて、その条件とは~?……じゃじゃん!『人気投票ランキングで一位になる』!」

「…な!?」


 は!?あの格好良いキャラクターや可愛いキャラクターが山程いる『War Fairy』の人気投票で一位!?俺がそれにならなければいけないってことか!?

 断言できる。不可能だ。人気のキャラクターにはそれなりの理由があるのだ。超絶人気なキャラクターのピックアップガチャの時には、何十万と課金する奴さえいるのである。


「あ、ちなみに条件の変更は受け付けないよ。精々足掻いてボクを楽しませてね!」


 くそったれ!なら性能をぶっ壊れにしてしまえば…!


「それとね。君の魂そのものはそのままなので、必要以上に強くし過ぎると自我が崩壊して永遠に戻らなくなるよ。廃人となって母親の負担を増やしたくなければ、分相応な能力にすることだね。ついでに、あまりに強すぎるとゲーム的に実装出来ないから、現実世界に反映されるときは弱体化もされるだろうしね」


 コイツ…!尽く俺の思考を先読みして地獄に叩き落としてきやがる…!

 だが、なるほどな。言ってることは理解できてしまう。英雄は俺のような凡庸な人間とは魂からして異なるってことか。それにこれはただの異世界転生ではなく、「ゲーム世界への転生」だ。理屈は分からんが、俺の(キャラクターの)存在が現実世界にも反映されるのであれば、そのあたりのバランス的なことも考えなければならないのか。

 は?無理ゲーでは??


「キャラの人気が出れば、運営側がファンサービスとか集金とか考えて性能強化してくれたりするだろうから、一番の近道は人気を出すことだよ!多分!」


 …なるほどな。人気さえ出れば運営が人気キャラってことで強化してくれる可能性も高まるって事か。クリスマスVerとか水着Verとか正月Verみたいに強い期間限定バージョンを実装して金を巻き上げることだってあるだろう。

 待て!その初めの人気を得るためにそこそこの性能が必要なんだろうが!それが魂の大きさ的に出来ないってんだろ!これじゃあ、堂々巡りだ!


 …こうなったら見た目と設定、そして性格で何とかするしかない、か。


 マネキンが中央に描かれたウィンドウを手元に引き寄せる。とりあえずマネキンの頭部に指を置いて、イメージイメージ…。

 まずは性別。これは勿論、男…待て。待て待て待て。

 

 ソシャゲ界隈において男キャラと女キャラ、どっちの方が人気になりやすいだろうか?『War Fairy』は決して単純な美少女ゲームってわけじゃないし、美少女アイドルゲームでもなければ、当たり前だが男性向けエロゲーや恋愛ゲーでもない。男も女もどちらも楽しむ冒険ファンタジーゲームだ。

 しかし。それでも。それでも、やっぱり美少女キャラの方が耳目を集めやすいのではないだろうか?第一、男キャラの場合、より一層の戦闘性能を要求される気がする。俺が男だからそう思うのかもしれないけど。でも、雑魚男キャラが人気ランキング1位になる過程を想像できない。あるとすれば、ネット民の悪ふざけとかか?コ〇ルショックみたいな。

 翻って、何かの理由で戦闘向きではない庇護欲を掻き立てられる弱虫美少女キャラだとどうだ?…それなりに設定がしっかりしていて、十分なストーリーがあるのであれば、そこそこの人気が出るような気がする。


 …ならば。


 いやいやいやいや。何を考えてるんだ、俺は。落ち着け冷静になれ。

 いくら何でも自分からTSの道を選ぶなんて…。

 男キャラやりようはあるはずだろう。


 ………。

 ……………。

 …………………。


 認めたようなもんだよなぁ、コレ。「男キャラでも」って。「でも」ってさ。

 ほぼ確実に、男性キャラより美少女キャラの方が同じことをしても人気になりやすいよな。厳然たる事実として。


 …じゃあ、やっぱり。


 うん。仕方ないんだ、これは。元の世界に帰ること。妹の病気を治すこと。これらの目的を遂行するためには仕方がない事なんだ。

 だから。だから。


「なぁ、これって元の世界に帰る時には元の姿に戻れるんだよな?」

「勿論だよ~」


 …ふぅ。

 ごめん母さん、俺、女の子になります…。



 ◇◇◇



 さて、性別を変えることを決心したわけであるが…これ、あれだな。容姿の前に設定考えた方が良いな。設定に合わせて容姿考えるべきだろうし。

 ふむ。やっぱり同情を集めるような境遇のキャラクターが良いだろうか。所謂、可哀そうは可愛いってやつだ。プレイヤーたちの庇護欲を全力で刺激していく、お涙頂戴の可愛そうな女の子。

 う~ん、とはいえ、そういうキャラクターがいないわけじゃないんだよな。世界観もハードだし、悲劇的境遇のキャラクターは結構多いんだよね。ストーリーでガチ泣きしたエピソードもあったし、アレらを超えられるとも思えないんだよな…。

 では、ヒロイン路線はどうだろうか?主人公大好きな女の子になって、「○○は俺の嫁」需要を狙っていくわけだ。主人公は男主人公と女主人公の両方を選べるわけだが…まぁ、女主人公でも百合路線で需要があるはずだ。男主人公の場合は…俺は男相手に全力で媚を売っていくことになるわけか。ゲームとしてはカットされて描かれないだろうが、現実に「ゲームの世界」で生きる以上、展開によっては男と肌を重ねなければならないかもしれない…おえっ。無理だわ。

 とはいえ、無理でも必要ならやるしかないんだが…。

 そもそもの話として不動のメインヒロインが既にいらっしゃるのよね。彼女、超ヒロイン力高いし、あのヒロインに元男の俺が付け焼刃で(しかも好きでもない相手に)アピールして勝てるとは思えない。さらにメインヒロインだけでなく個性的で魅力的なヒロインキャラが他にもいるわけで…。うん、無理だな。あれらを押しのけて正妻の座に収まるとか不可能ですわ。最悪、後ろから包丁で刺されかねん。

 さーて、困ったぞ。

 とりあえず、俺がプレイしていた段階までで実装されていたキャラクターを思い浮かべて。あとは異世界ハーレム系小説やラブコメアニメとかの内容を記憶から引っ張り出す。

 お、このウィンドウにメモ機能あるやん。使わせてもらおう。

 それで、前述の2つの情報を比較検討し、『War Fairy』に足りないヒロイン要素を見つけ出していく。

 ついでに、『War Fairy』の設定も思い出しとくか。何かの役に立つかもしれないし。


◆『War Fairy』◆

 その世界「カオス」は永遠の争乱が続く世界であった。永い時の中で、幾つもの世界が混ざり合って完成したカオスには、争うための理由があり過ぎたのだ。人種、宗教、言語、文化、国家、歴史、土地、食料…数え上げればキリがない。こうして、世界中のあらゆる場所で様々な戦争が繰り広げられる狂気の世界は完成してしまったのである。

 そんな世界に、今再び新たな世界が合流を果たそうとしていた。その世界はこれまでに数多の世界を飲み込み、喰らってきた世界。世界ごと喰らってしまう存在が巣くう世界であった。それを危惧したのは、カオスを愛し見守ってきた何者か。「ソレ」は、確かに戦乱止まぬ不完全な世界ではあっても、それでも、そこに息づく生命を、彼らによって生み出される物語を愛していたのだ。だから、カオスが彼の世界と衝突した際に、何が起こりうるかを計算した。何度も計算して、計算して、残酷な真実が明らかとなった。――そう、カオスの滅亡である。

幾多の世界が合わさってきたカオスは英雄豪傑が集う強い世界ではある。されど今のままの、争い続ける世界では次なる世界には決して勝てない。しかし、カオスの人々が手を取り合うのなら、まだ希望はある。

 故に、「ソレ」は、見守ることしかできない存在は、禁忌を犯し、はるか遠く離れた世界の、「地球」という惑星からある一人の少年(少女)を連れてくることに成功する。優しき心を持つ、平凡な少年(少女)を。既にカオスに息づく者では駄目だった。どんな者であれ、血縁や土地、信仰などカオスの何か――今まさに戦乱の理由となっている存在――に影響を受けてしまっているからだ。だから、カオスとは無縁の誰かが必要だった。

 少年(少女)は戦場を舞う。永遠の戦乱に終結をもたらす妖精として――。


 と、まぁ。こんなのが『War Fairy』の基本設定か。

 そんで、この連れて来られた少年(または少女)がプレイヤーであり、プレイヤーは戦乱渦巻く世界で、人と人の縁を繋げていくことになるわけだ。余計な足かせになるからと元の世界での記憶も大部分封印されて、知り合いもいない世界に放り出されて。そんななかで人を助け、人に助けられ、一歩一歩人の輪を広げていく。無論、上手くいくことばかりではなくて、争いに発展することもあるし、許容できない邪悪な存在がいたりもする。それでも諦めず主人公は進み続ける…みたいな感じだった。その旅の途中で縁を紡ぐ様々な英雄豪傑こそが、ガチャで入手できるキャラクターだったりするわけである。


 さて、ここまで整理したわけであるが…。

 いやー思いつく限りの女性キャラも羅列してみたけど、やっぱり色んな属性がいるなー。

 正妻、ツンデレ、ヤンデレ、ドジっ子、巨乳、貧乳、長身、ロリ、未亡人、先輩系、後輩系、獣っ娘、モン娘、エルフ、メイド、女帝、姫、お嬢様、ボーイッシュ、悲劇のヒロイン、闇堕ち、光堕ち、黒幕系、スパイ、巫女、シスター、ドクター、軍人、病弱、中二病系、男の娘……などなどなど。

 既にいるキャラクターと属性が被るのは避けたい。人気が割れる。


 とはいえ、こんな状況で新たな属性を発掘するとか無理では?


 思い出せ、アニメやゲームのヒロインの数々を。何か、何か、何か…。


 …ん?待てよ。


 主人公は突然異世界に召喚されて記憶すら奪われた存在。

 …ふむ?ならば、もしや、あの枠が空いている…?


 そう、ラブコメには必須のヒロイン属性!


 


 元カノ、親同士が決めた許嫁、離れ離れになっていた幼馴染!

 これは異世界の人間では用意できない!!


 ふははははははははっ!ヨシッ!この方向で考えていけば勝てる!勝てるぞ!


「人気投票1位、取ってやろうじゃねえか!」



 ◇◇◇



「…出来た」


■名前:ティエラ・アス

■種族:概念精霊

■性別:女性

■適正:癒 ■属性:無

■武器:夫婦剣 葬送・回帰

 武器詳細:輪廻転生、魂の円環を司る二本で1つの夫婦剣。朱色の剣「葬送」は服わぬ魂に終わりを与え、蒼色の剣「回帰」は果てしモノを総ての循環へと還す。蒼き星が創りし聖剣ならぬ「星剣」であり、人智を超えた超常の剣である。

■奥義:『蒼き星に貴方は還る』

 奥義解説:故郷にして、今は遠き蒼き星の加護。世界を隔てているため、大幅に弱体化している。広範囲に及ぶ回復効果を発揮するが、本質はただ一人をあらゆる脅威から護る力。母なる水の星は今も貴方の還りを待ち続けている。

■人物詳細

 若草色の長髪と蒼き瞳を持つ女性。正体は概念精霊であり、司る概念は「還る場所」「貴方を大切に思う誰か」、そして「正しき円環」。「救世を定められた誰かしゅじんこう」を大切に想っていた何者かの意思が概念となり、蒼き星の力を借りて顕現した存在。

 元となった想念は一人のものかもしれないし、複数のものかもしれない。父母のものかもしれないし、友人のものかもしれないし、恋人のものかもしれない。世界を渡り唯の概念と成り果てた想念に記憶は存在せず、今となっては詳細を知ることは不可能である。それでも、誰かが誰かを大切に想っていたことだけは確かだろう。

 ――世界を隔て、時を経ても、其の想いは変わらず在り続けた。



「どう?これって実現できそう?星の力云々ってのは調子乗り過ぎたかもしれないけど。俺の魂の大きさ的に無理なら削って弱体化させるんだが。そもそも、ニワカの俺では、別世界の人間の想念で概念精霊になれるのかも分からないし」


 概念精霊と言うのはストーリーにも関わってくる存在で、名前の通り、何らかの概念が意思を持って精霊となった存在である。「主人公の元カノ」みたいなストレートな設定にしてもよかったが、記憶の矛盾点を指摘されたりしても困る。ついでに、『War Fairy』の主人公は万人が感情移入しやすいように没個性のどこにでもいる少年(或いは少女)で始まっているのだから、前世に濃いキャラの元カノ(或いは元カレ)がいたという設定が受け入れられない可能性も高い。なら、「貴方を大切に想っている誰か」という形にしてプレイヤーに判断を委ねればいい。後は勝手に自分なりの解釈をしてくれることだろう。

 他にも細かな裏設定を始め、人気取りのために拘った点は多々あるのだが、それらは追々再確認していけばいい。


「驚いた。君には創作の才能が僅かながらあったようだね…もっとも、現実世界換算で5日間はかかってるから、そこまで優秀ってわけでも無いけど」

「5日!?まじで!?腹も減ってねぇし喉も…というか、ここやゲームの世界で過ごした時間って現実世界に戻った時にどうなるんだ?」

「全部ゼロになるから安心していいよ。ゲームの世界で百年過ごしても、戻った時には元の年齢ってわけだね」

「そうか…それなら安心だ」


 100年も過ごす気はさらさらないが、少なくとも俺が突然行方不明になって皆に心配をかけるって事態にはならなそうである。


「それで、君が創った設定だけど。凄いよ、コレ。この設定どおりの能力なら、君の魂のサイズを大幅に超えてしまう。けれど、「地球」の力を借りるって設定が良い感じに作用するんだよね。その世界の輪廻はその世界のモノ…当たり前すぎて盲点だった。実際のゲーム世界でも同じような輪廻の原理は働くだろうし、主人公君を大切に想う誰かだって当然いるだろう」

「つまり?」

「多少の調整は必要だけど、概ねこの設定通りの存在になれるってこと。良かったじゃないか」

「よっし!…そういや確認だけど、「精霊」は発生から時間が経てば自我が安定してある程度の常識や言語とかも自動的に習得できるんだよな?ゲームのシナリオにそんなのがあったはず」

「うん、精霊はだいたい発生から3年くらいで自我と知識を獲得する。あ、もしかしてそれも狙って種族を精霊にした?」

「当然だろ。言語習得とかキツイし。それとさ、原作開始の10年くらい前からスタートすることってできるか?」

「出来るけど…どうして?やるとしても4年前で十分なんじゃない?」

「いや、新しい体にも慣れておきたいし、戦闘訓練とかもしておかなきゃ戦力にならないだろ。平和な日本にいて狩りも碌にしたことがない俺じゃあ、敵の出血を見ただけで気分悪くなるかもしれないし。ついでに他にもしておきたいことは山ほどあるしな」

「そっか~そこまで考えつかなかったな~。流石はボクの親友だね!」


 5日間もかかった設定考証の折に、『War Fairy』の世界の細かなことについてもコイツに結構質問していたため、そこそこ会話は交わしていた。性格的なのも大体理解できて、そんな相手を友達でも何でもないと断言するのは俺には難しい。誘拐犯かつ脅迫してきた相手ではあるんだけど、妹を救ってくれるなら恩が上回るしな。友達認定はとっくにしている。

 ちなみに、そこそこ仲良くなった段階で異世界転生なしで妹を救うのはしてくれないのかと聞いてみたのだが、。「やらない」のではなく「無理」。コイツに出来るのは等価交換に過ぎないらしいのだ。先ず、「俺の存在」と「ティエラ・アス」を等価交換で誕生させる。そして、「ティエラ・アス」が活躍し、人気投票で1位になる程度まで現実世界のゲームプレイヤーたちを楽しませる。すると「ティエラ・アス」の価値が増大し、その増大分を妹の治療の奇跡に使えるようになるとのことだった。


「じゃあ、10年前スタートでよろしく。あ、最後に。俺の自我っていうか、俺の記憶を目覚めさせるのは5年くらい経ってからにしてくれないか?」

「ん?それまたどうして?」

「俺って何かを演じた経験なんてほとんどないし、このままだと主人公やたくさんのキャラクターの前でロールプレイを続けられるとも思えないんだよね。でも、実際に「俺」の記憶無しで「精霊ティエラ・アス」として数年活動しておけば、実感が湧くだろ?ロールプレイだって不自然にはならないはずだしな」

「なるほど~。ただ、その場合、記憶がごっちゃになるかもよ?ついでに最低でも5年間の感覚が空くから、現実世界に帰った時に友達の顔とか学校で習った事とかも忘れてるだろうね」

「その時はまた思い出すさ。ここでそういうリスクを恐れて人気投票1位を逃す方が俺は怖い。そうしたら妹は助けられないんだしな。だったら、多少のリスクは覚悟で確実な道を行った方が良い」


 そうだ。ここはリスクがあろうとも、決断しなければいけない場面だ。完璧なロールプレイと優秀な戦闘性能。これらを身につけなければ話にならない。

 記憶の混濁や忘却は後でいくらでも挽回できるはずだ。それよりも、妹を救うことの方が大切に決まっている。


「そういうことね~。了解~。…よし、微調整も終わったし、いつでも行けるけど、どうする?」

「直ぐにやってくれ。決心が鈍るといけない」

「オッケ~。ボクが言うことじゃないけど頑張ってね~」


 そうだ。1つ忘れていたことがある。


「なぁ、最後に俺の最新の友達の名前が知りたいんだが?」

「…っ!はは、そっか~。でも、ボクに名前なんてないんだよね~」


 前に食事もしたことがないと言っていたし、やっぱりコイツ結構寂しい思いをしてたんじゃないだろうか。


「じゃあ、俺がつけても良いか?」

「お、それは良いね~。素晴らしい名前をつけてくれよ」

「……「テラ」なんてどうだ?」

「あれ?それって「ティエラ・アス」の名前を考えてた時のボツ案の1つじゃなかったっけ?地球を意味するラテン語の」

「そうだけど?良いだろ、「ティエラ」も「アース」も地球から取ったんだ。兄妹みたいで悪くないだろ」


 もっとも「地球」の外国語など「アース」以外は俺の知識には無かったので、コイツに尋ねて教えてもらったのだが。


「…そっか。うん、そうだね。「テラ」、「テラ」か。最高だね」

「じゃあ、行ってくるぜ!テラ!」

「うん、行ってらっしゃい。星地ほしじ 流斗りゅうとクン」


 最後に。何度も呼ばれた「君」でもなく、これから名乗る「ティエラ・アス」でもなく。これから長らく聞くことがないだろう俺の名前で呼んでくれたのは、テラなりの激励のような気がした。


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