第75話:蠢く者
スーパーコボルトが突然、自分を殺せと叫び出し、様子もかなりおかしくなっていた。
「な、何じゃ彼奴突然・・・」
アリシエーゼはスーパーコボルトを見て未だに身体を震わせていた。
見るとスーパーコボルトの大穴が開いていた腹の部分が体内から伸びた触手の様な木の根の様な何かが蠢き、そしてまるで欠損した部位を修復する様にどんどんと体組織を形成して行く様に見えた。
事実、致命傷と思われた腹の穴はもう殆ど塞がっており、時折激しく震えるその身体は怪我を感じさせ無い。
「き、傷が・・・」
俺はその後の言葉を発する事が出来なかった。
只々、その異様な光景をアリシエーゼと二人見つめていた。
傷が塞がると、触手の様な木の根の様な何かは、一旦なりを潜めた様に思われたが突然―――
「ゴガボォアッ!!」
スーパーコボルトは何かを吐き出す様に嘔吐した。
「ッ!?」
口の中からあの触手の様な物が吐き出され、それは途切れずスーパーコボルトの口からウネウネと這い出て来た。
「きゃああッ!?」
「な、何だあれは!?」
「ひ、ヒィィィィッ!?」
後ろに居た者達も、イヴァン達の復活と言う奇跡に歓喜していたが、その異様な光景に気付き、そして目にして皆一様に震え、悲鳴を上げ、驚愕した。
「な、何なんだよこれは!?」
俺は悲痛な叫びを誰にとも無く発した。
訳が分からなかった。
その触手も異様であったが、何よりも先程から感じる吐き気を催しそうな程の嫌悪感。
今は自身の脳をイジり恐怖心等を抑えているが、それでも込み上げてくる物に恐ろしくなった。
近くに居る俺達はその影響を諸に受けているが、少し離れた所に居る仲間達にも徐々にその恐怖は伝播していく。
「・・・ハァ、ハァ、ユーリーィィ!!手を貸せ!!」
突然アリシエーゼは後ろのユーリーに向けて叫ぶ。
そして叫ぶや否や、少し涙ぐみながらキッとスーパーコボルトであった
「お主は下がっておれ!」
俺に向けて言ったアリシエーゼは両掌をスーパーコボルトに向け、中腰になりながら魔法詠唱を始める。
俺はヤバそうな雰囲気を感じ取り、少し後ろに下がる。
「我願う、次元を超越せし原初なる炎」
そう言ってアリシエーゼはスーパーコボルトに向けていた両掌の内、左手だけをスッと自身の顔付近まで上げる。
「我命ず、盟約の時来たれり」
次に右手を今度は下腹部辺りまで下ろす。
「我命ず、反逆の児滅せよ」
その次は縦に広げた両手を横に開く様に移動する。
「我願う、願う炎は灰燼に帰す炎なり」
横いっぱい広げた両手を今度は右手が顔面に来る様に動かす。
「我願う、喰らえ」
横に残した左手を右手に重ねる様に持って来て続ける。
「我願う、喰らえ」
この言葉では動きを加えずに言う。
「我願う、喰らい尽くせ!!」
そしてアリシエーゼは詠唱の最後になるであろう部分を叫び、スーパーコボルトに向けていた掌をそのままに上げていた両手を胸の前までサッと下ろす。
パトリックやアルアレが唱えていた神聖魔法の詠唱は言うなれば詠だった。
それは、神聖で透き通り、無垢で穢れない。
だが、初めて聞いたこの精霊魔法の詠唱は、神聖魔法の其れとは違い、詠と言うよりも
「
魔法名を力の限り叫んだアリシエーゼの姿を見て俺は咄嗟に腕で顔をガードして、腕の合間から覗き見る。
手から何か光線的なものが発射される想像をした為、覗き見ていた目も細めてはみたものの、特に何も起きなかった。
あれ、何も起きない?
そう思ってスーパーコボルトの方を見ると、何か違和感を感じた。
スーパーコボルトの周りだけ空間が歪んでいる様な、見えない何かで周りを囲っている様な、そんな印象を受けた。
直後、その
一見弱々しい程の炎を認識したその刹那、囲いの中の風景が歪む。
元々歪んではいたがそれは更に歪みを増し、そして目を開けて居られぬ程の白い光が発生した。
そして、目を瞑っていると、何だか焦げ臭い、肉の焼ける様な臭いが俺の鼻腔を擽る。
熱い
そう思った瞬間に理解した。
この臭いは俺の肉が焼けているのだと。
「がぁぁぁッ!!??」
俺はその場で転げ回った。
目が開けられなかったので俺の身体が燃えているかどうかは視認出来なかったが、身体中が焼け爛れる様に感じた。
「・・・・・・オネガイ!」
ユーリーの声がふと聞こえた気がした。
それは近くでもあり遠くからでもある。そんな距離感の掴めない儚い様で力強い言葉に感じた。
ユーリーの言葉が聞こえたと同時くらいに身体に変化が訪れる。
それまで身体の焼ける様な感覚であったが、何故だかそれが和らぎ、そして幾許も無く心地良さに変わる。
恐る恐る目を開けると、まだスーパーコボルトの方は眩しく感じるが、自分の身体を確認する位は出来そうであった為、俺は自身の身体の具合を確認する。
そこには特に火傷等もしていない肌な見えたがきっと瞬時に修復された後なのだろうと思った。
そして俺はユーリーの方を振り返る。
仲間達は皆、腕や手で目を覆い隠し、アリシエーゼの魔法が放つ光を直接見ない様にしていたが、ユーリーも手で目を覆いながら光は直視せずに俺を見て頷いた。
きっとユーリーが精霊で俺を護ったんだ
そう思い、同時に激しく感謝する。
もっと離れておけば良かった・・・
俺は後悔するが知らなかったのでそれは仕方が無いと気持ちを切り替えた。
暫くして光が弱まるのを感じ、そして完全に光が収まると辺りは静寂に包まれた。
終わったのか・・・?
俺はゆっくりとアリシエーゼの方を見る。
そこには魔法を放った時と同じ格好で佇むアリシエーゼが居た。
「・・・アリシエーゼ?」
俺が声を掛けるとアリシエーゼがゆっくりと動いたのを確認出来た。
左の肩口から袈裟斬りにされた身体がドサリと音を立てて地面に落ちるのを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます