第16話 初日の報告

 その日、世界最強SSSランク勇者のパーティーの元に、愛する家族であり仲間からの手紙が届いた。


「はう~、シィー、毎日言葉も交わしてキスもしていたお前がいなくなるだけで心にポッカリ穴が空き、今ではお前からの文字だけでわらわは嬉しいぞぉ!」

「ひゃ~~! シィーくんからのお手紙い~! くんくん、ん~~♥ 便箋からシィーくんの匂いがするよぉぉ~♥」

「ふっ……ソワソワソワソワ……おい……落ち着いたらどうだ、大の大人が情けないが早く読めというか俺にも匂いを……クンクン」


 まるでダンジョンで宝物を見つけたかのように歓喜して頭上に手紙を掲げる一同。

 その様子にフリードは呆れながらも、ただ嬉しい気持ちだけは理解していた。

 嫌がっていたシィーリアスに対して心を鬼にして送り出したのだ。

 悲しませて嫌われてしまったかもしれないという不安もあったので、ちゃんとこうして言いつけ通り早速報告の手紙が届いたことは素直に嬉しかった。


「「「はやく♪ はやく♪ はやく♪」」」


 もはや元々の性格が崩壊して、暗黒大魔女王、聖母、孤高の剣聖は目を輝かせて手紙を取り出して読み上げる。



――先生、オルガス先輩、ミリアム先輩、ラコン先輩、お元気ですか? 僕は本日帝国に引っ越し、魔法学園の入学式を迎えました。制服ありがとうございます。これから着ていく新しい服はとても嬉しかったです。サイズもぴったりでした。


「シィーの制服姿ぁあ~~!? ぬおおお、見たいぃいい!」

「う~~~、お姉ちゃんの記録に必要な姿がぁああ!」

「俺の弟の成長を実感できる入学式に兄である俺が出席できんとは……ぐっ」



 頭の中に帝国魔法学園の制服を思い浮かべて、それをシィーリアスに重ね合わせ、デレデレになる三人。



――そして、早速ですが初日に友達ができました! 勇気を出して声をかけて了承してくれたのです。友達の名前はフォルトという女の子でヴェルティア王国のお姫様で、もう一人はクルセイナという帝国の侯爵家のお嬢様みたいで――――


「「「「ぶっぼっ!? は、……はあああ!!??」」」」



 次の瞬間、デレデレだった一同が噴出して手紙を二度見した。


「お、おい、ヴェルティア王国って……おい、ミリアムの故郷で……」

「え、ええ……確かにフォルト姫は……シィーくんと年齢は同じだったかと……」

「待つのじゃ! 姫に続いて、サラッと帝国の侯爵家とか出てきたぞ……」

「ぬぅ……しょ、初日からどういう友達を……どうしたら初日にそんな展開に……」


 シィーリアスが同年代の「友達ができた」という報告には嬉しいと思うところ、まさかの身分の者に驚かずにはいられない。

 さらに……



――早速二人とハグとキスも済ませて、真の友になりました!


「「「ちょぼぉおおおおおおおおおおおおお!!!???」」」



 そして、最大に噴いた。



「シ、シィー!? ほ、ほ、本当かこれは!? い、いきなりわらわたち以外のオナゴと、ちゅ、チュウ!? どこにキス!? 頬か? 額か!? そ、それともぉ!?」

「うわああああん、シィーくんがぁあああ!?」

「くっ、これもお前たちが間違ったことを教え……い、いや、待て! 仮にも相手は一国の姫であろう? 侯爵家の令嬢もまずいのでは?!」

「どどど、どーなってんだこれは!? バレたら退学どころか、国同士の争いにまで発展するんじゃねえか!?」


――二人とも最初はびっくりして、どうやら僕がミリアム先輩とオルガス先輩から学んだ文化とは違うようですが、二人とも受け入れてくれて、「これからも毎日友達のスキンシップしよう」とまで言ってくれるぐらい仲良くなりました!


「「「「しかも、チョロい!? 初日で完堕ちした!?」」」」



 オルガスとミリアムがシィーリアスを可愛がりたいがために刷り込んでしまったスキンシップ。

 それを一般的なものと勘違いしたまま、あろうことか実践、しかも相手は世間において最上位に位置する身分の者たち。

 その者たちに実践し、あろうことか相手は初めてで、しかも見事に篭絡してしまうという事態に、もはや恐怖を感じてしまった。


「い、いや、まずいぞこれ……ま、万が一……行為の果てに万が一があれば……学園長のジジイも庇いきれねえだろうし……」

「急いでこの行為は禁ずる指令をした方がよいな」


 フリードたちは「女性にむやみにハグやキスは禁止」の指令を早速返信として手紙を送ることにした。

 その結果、その指令を受けたからには「今日からスキンシップはしない」とシィーリアスはフォルトたちに宣言するのだが、フォルトたちが、耐えきれるかは……また別の話。

 いずれにせよ……



――そして、今日出会った友達のクルセイナや、小競り合いしてしまったカイという生徒から、先生と同じことを言われました。「傲慢」だと


「……ん?」


――僕の正義は「傲慢」だと言われました。その際に悪の定義や正義の定義がどうとかと、僕には難しい問題です。ならば正解は何なのかが分からないからです。今は自分が正解だと自信を持って堂々と過ごすしかありませんが……



 驚きばかりで声を上げてばかりだった一同だが、その文章を目にしたときは、流石に表情が変わった。

 それは、自分たち同様にシィーリアスのことを指摘する者たちがいたのかと。


「なるほどな……へぇ~……生徒の中で既にそれを指摘するたぁ~な。本当は力を封じられた状態の中でそういうことに気づいて貰えたらなと思っていたけど……ふっ、そうか」


 そもそも、シィーリアスに本来なら魔法学園に通わせたところで、既にSSランクの強さを持っているシィーリアスにはあまり意味がない。

 しかし、「学校」という空間は必ずしもそのためだけに存在するのではない。

 そして、それを経験して学ばせるために、フリードたちはシィーリアスを通わせることにしたのだ。



「ふん……シィーの掲げる揺るぎない未熟で視野の狭い世間知らずな正義……たいていのことはSSランク級の強さを誇るシィーなら力ずくで押し通せるからのう。それゆえ、深く考えない……世の中の複雑な構図を」


「エンダークのように分かりやすい世界じゃない……学校なんて狭い世界なようで多様な人たちがいるから、それが顕著に出る。優秀な人。家の身分が高い人。イジメる人。心優しい人。夢を持っている人。ただ目的もなく過ごしている人」


「シィーリアスはそれを知らずに成長してしまった……だからこそ『世の中には色々な人がいる』ということを知らないからな」


「ああ。そしてこれは言葉だけじゃなく、身をもって、そして日々の生活の中で学ばないとな。世の中にはシィーリアスの正義を認められない者や、しかしだからと言って間違っているとは言えない、そんな奴らや状況だっていくらでもあるんだってことをな」



 時間をかけてゆっくりと、フリードたちの望んだことをシィーリアスは学んでほしいと思っていたが、まさか初日でいきなりの展開にフリードたちは苦笑。



「シィーリアス……正解の分からない難しい問題だって言ってるけどな、実はこれこそある意味でもっとも簡単な問題なんだよ……答えは『正解なんて存在しない』……なんだよ」



 遠く後に居る家族であり、仲間であるシィーリアスが早速多くのことを学園生活で学んでくれそうだということが分かり、これからの成長を楽しみに四人は期待しながら、各々返信の手紙を書くことにしたのだった。




――いずれにせよ、明日からの授業頑張ります。友達もいっぱい作って頑張ります!  文化の違いも受け入れます! クルセイナは頬や額ではなく、僕の脚にキスをさせてほしいと言ってきたり、僕自身が受け入れなければいけない文化もあるようですが、頑張ります!


「「「「ぶっぼぉ!?」」」」




――第一章 完――




――あとがき――

ここから少し残念な主人公の無双と、残念なヒロインたちとイチャイチャだったりが幕を開けますので、引き続きよろしくお願い致します!


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