第4話 歴代最高ランクの新入生
――セブンライトさん、身の程知らずの平民に貴族の力を思い知らせてやってくださいよぉ!
と、貴族の取り巻き生徒たちも最初こそは盛り上がっていたが、その表情が秒で青ざめた。
「やれやれ……」
「が、がはっ、が……」
黒髪の生徒は無表情のまま呆れ顔。
一方で、貴族のセブンライトは激しく息を切らせて片膝付き、その顔面を腫らしていた。
「気は済んだか?」
黒髪生徒は虚無の瞳でセブンライトを見下ろす。
そう、争いは一瞬だった。
貴族の力を思い知らせてやる……と、決闘的な流れで始まったものだが、戦いにすらならない歴然とした差が一瞬で明らかになった。
「だ、黙れぇええ! っ、少しはやるようだが……ついに僕を本気で怒らせたようだな!」
しかし、セブンライトは負けを認めない。
貴族が平民に負けるなどあってはならないというプライドからか、再び立ち上がる。
「我が一族に伝わりし、魔剣技! 高潔なる炎を纏い、お前をブッ殺して――――」
全身に魔力を漲らせ、放出した炎の魔法を剣に纏わせる。
もはや、生徒同士の争いの枠を超え、相手を殺傷しても構わないというほど、セブンライトは激しく猛った。
「炎……それが?」
一方で黒髪生徒はその力を前にしても一切揺らがない。
それどころか、斬りかかってくるセブンライトの剣に対して……
「お粗末すぎる。炎も荒く、火力もない」
「ッ!?」
素手でその剣を掴み、その炎を剣の刀身事砕き……
「それと、人を本気で殺す覚悟もないくせに、軽々しくその言葉を口にするな」
「ぶべぱっ!?」
その拳でセブンライトの顔面を殴った。
「な、なにいい!? セブンライトさんの炎の剣を!?」
「うそ、な、なんなの、あの人は!?」
「こ、こんな人……見たことない……」
「なんで平民がこんな力を!?」
もはや、辺り一帯が騒然としていた。
「ほ~ん。これまた化物が居たものですわね。……あれは……飼いならせそうになさそうですわね……」
同じくフォルトもまた感心したように呟く。
名門学校において、己の力に自信のあった貴族の子息の力を真っ向から圧倒的な力で砕く、謎の黒髪生徒。
すると、その状況に……
「やはり……間違いない! 彼だ!」
その場に居たクルセイナは冷たい汗をかきながらも、黒髪生徒の正体を確信した。
「その男は、『カイ・パトナ』! 先月行われた入学試験で歴代最高魔力……歴代最高身体能力値を叩き出し、入学前より異例のAランクの称号を得た生徒!」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
クルセイナの言葉に、更に辺り一帯が驚愕する。
本来、この学園において卒業生ですらCランク。
天才と呼ばれる生徒や、学年主席などのトップの生徒ですらBランク。
それが入学前でAランクという正に規格外のランク。
「く、クルセイナ令嬢……っ、い、今の……」
そして、今になって自分より貴族としても格上なクルセイナの存在に気づいたセブンライト。
だが、鼻血にまみれて、鼻が折れたのか曲がった状態でありながら、痛みよりも、今のクルセイナの言葉の方に驚いている。
「く、そ、そういえば、先生たちがそんな噂を……パパたちも……う、嘘だ! 嘘だぁ! 平民が僕たち貴族より優れ、し、しかも、Aランクなど、嘘だぁ!」
セブンライトは絶望したように、しかしそれでも認めないと叫ぶ。
そんなことがあってたまるかと受け入れない。
そんなセブンライトの姿に黒髪生徒、カイは……
「やれやれ……自分は目立ちたくないのだが……」
その虚無の瞳は唯一「くだらない」という感情だけが見え、溜息を吐いた。
「き、貴様ぁああああ! ど、どうせ何かインチキを使っているのだろう! そうに決まっている!」
そんなカイの態度にセブンライトはキレ……
「卑怯な奴め! しかも僕に恥をかかせ……許さん! コロシテヤルぅうううう!」
砕けた剣の柄だけでカイに襲い掛かる。
すると、その時だった。
「……殺す? 言ったはずだ……殺すということをどういうことか分かっていない者が、その言葉を軽々しく口にするな」
カイは襲い掛かるセブンライトに殺気を飛ばす。
そして、掌を突き出してセブンライトに向ける。
「教えてやる。本物の炎というものを……」
「へっ……?」
瞬間、辺り一帯に熱風が吹き荒れる。
カイの掌に悍ましいほど巨大な業火の球体が出現。
「なっ、なに!?」
「な、う、うそ、あれ……炎の魔法!?」
「も、もしかして……うそ……最上級の……」
この場にいる者たちはすべて魔法の知識を持っている。
だからこそ、カイの掌に集まった炎の球体の凄まじさと、ありえなさに恐怖した。
「最上級ではない……これはただのファイヤーボールだ」
「「「「「ッッッ!!!???」」」」」
「ただし……『本物』のファイヤーボールだ」
そして、更なる衝撃。ファイヤーボールとは、火の攻撃魔法において基礎中の基礎の初級魔法の一つでもあった。
それをまるで太陽のような熱量を放つ巨大な質量で出現させたのだ。
「あ、ありえん……あ、あれがファイヤーボールだと!? ふ、ふざけるな!」
クルセイナも顔面を蒼白させて叫び、そして同時に身動きが取れなかった。
カイの圧倒的な魔力とプレッシャーの前に、体が動かなかった。
「う、そだ……ば、ばけ、もの……」
もはや、セブンライトに戦意はない。
完全に腰を抜かし恐怖に怯えている。
そんなセブンライトにカイは……
「そして、教えてやる。殺すということは、こういう―――」
巨大な火球を放ち―――
「やりすぎだああああああああああああ!!」
「ッッ!?」
「
その火球を、突如割って入ったシィーリアスが脚で上空へ蹴り飛ばしたのだった。
「なん……だと……?」
「「「「「ッッッッ!!!???」」」」」
それは、流石にカイにとっても予想外の事態だった。
無論、クルセイナやセブンライト、この場に居たすべての者たちにとってもそうであった。
「自分のファイヤーボールを……蹴り飛ばした……だと?」
カイはその虚無の瞳をパチクリさせながら、顔をシィーリアスに向けた。
対してシィーリアスは……
「彼の顔を見てみろ! 鼻が……折れているではないか! つまり、これ以上はやりすぎだ!」
「……?」
ちょっとズレていた。
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