第40話 女の子の汗だく体操着

 ――翌朝。

 ソファから目覚めると遥の姿がなかった。


 ぼうっとする頭で起床。

 俺は洗面所へ向かった。


 顔を洗っているとバスルームから音がして、裸の遥が登場――って、ええッ!?



「……え、ちょ!」

「よ、遙くん……!」



 遥は驚いて固まっていた。俺もどうしていいか分からず頭が真っ白に。ま、まさかこのタイミングで鉢合わせるとは。

 誤魔化したりしたら、よくないだろうし……ここは素直に。



「ご、ごめん! 覗くつもりはなかったんだが」

「ううん、顔を洗っていたんだよね。わたしは、シャワー浴びていたんだ」

「そ、そうだったのか。あはは……」


「その、一緒に入る?」

「なッ! それはちょっと……また今度にしよう」

「うん。じゃあ、着替えるね」


「お、おう」


 びっくりしたぁ……。

 朝っぱらから凄いモノを拝んでしまった。



 * * *



 仕度を終えて学校へ向かう。

 今日も晴天、猛暑となりそうな予感を漂わせている。油断すると熱中症になりそうだな。


 学校に到着し、教室へ向かう。

 遥は職員室へ行ってしまった。


 嫌な予感がする。

 大丈夫かな。


 俺は、これといってトラブルにも見舞われることなく、席へつけた。ふぅ、最近の動向からして何かあるのではないかと、ついつい警戒しちゃうのだが大丈夫のようだな。


 少しすると遥が戻ってきた。

 良かった、今日は普通だな。



「遙くん、なんか挙動不審だね」

「そ、そりゃな。元校長の奥村はともかく、教頭はまだ残っているからな」

「あんな爆発事件があったんだし、もう大丈夫じゃない? 教頭先生だって、あのニュースで衝撃を受けていたみたいだし」


「詳しく」


「うん。さっき職員室へ寄った時なんだけどね、教頭先生が頭を抱えていた」

「え?」


「なんかよく分からないけどね」



 う~ん……なんか怪しい。

 とりあえず、遥は教頭に呼び出されたわけではないらしい。



 * * *



 久しぶりに体育の授業となった。

 なんだかデジャヴを感じるな。


 スポーツ万能の遥は、圧倒的な走りっぷりを見せて周囲をざわつかせた。おいおい、グラウンドをもう三十周は走ってるぞ。


 なのに息を切らしていないし、まだまだ余裕顔。どこまで走る気だ!?


 一方、俺は一周半でギブアップ。

 担任からありがたくもない呆れた視線をいただいた。


 体育座りで見守っていると、同じクラスの男子が遥を見つめていた。



「遥さんって可愛いよなあ」「ああ、転校生な。走る姿が美しい」「元陸上部なんだってさ」「県大会で優勝もしているとか」「へえ~、肉付きいいもんなあ、あのフトモモ」「撫でまわしてえ……」「いや、乳だろ。あの巨乳で陸上部は凄すぎるって」「誰かと付き合っているのかなあ」



 付き合っているどころか、俺と結婚しています・・・・・・・けど何か。と、心の中で優越感に浸る。


 そう、あのクラスメイトにとっての憧れの“小桜 遥”は、俺の嫁なんだ。それも自慢の超可愛い嫁。


 一緒に暮らしてラブラブなんだぜと、なにも知らないクラスメイトを背後で笑う。これぞ、まさに高みの見物。


 それにしても、男たちの視線がどんどんイヤらしくなっていくな。くそう、遥を見ていいのは俺だけだぞ。けどまあ、見るだけならいいか。

 俺なんて抱き合って、触れ合ってキスだってしている。



 そんな中、チャイムが鳴り体育の授業が終了。ようやく遥の足が止まった。



 俺は、いつものごとく担任から備品整理を押し付けられた。またかよ! いつもいつも俺ばかり。最下位なので仕方ないけどさ。


 ひとりぼっちでカラーコーンを体育倉庫へ戻していく。


 虚無の時間が流れていると、汗を流す遥が現れた。



「遙くん、わたしも手伝うから」

「え、遥……でも」

「この体育倉庫、懐かしいよね。ここから全てが始まった」


「そうだな。閉じ込められて――それで、遥と結婚したんだ」

「うん。今では良い思い出。ねえ、ちょっと入ってみない?」


 手を引っ張られ、体育倉庫に連れられていく。


「ま、まて! また閉じ込められるぞ」

「大丈夫だよ。周囲に誰もいないって確認したもん。それより……遙くん」


「ん?」


「わ、わたし……汗臭いかもだけど……。し、してもいいよ?」


「え……? ええッ!?」



 ま、まさかの“汗だく”ですか。まずいまずいまずい。さすがに誰かに見られたら、一生お天道様の下で暮らせなくなる。


 だが、遥はマットに寝そべって――少々大胆に誘ってくる。


 ……やっば。


 そんな風に“おいで”とかされたら……俺は狼になっちまう。


 しかも、体操着が汗が染みて下着が薄っすら見えそうだった。やばい、やばいって。自然と汗と汗がぶつかり合うような光景が目に浮かんだ。


 瞬間、俺のマグナムが暴発しかけた。



「遙くん、わたしもう我慢できない」

「……遥、俺もだよ」



 そのまま覆いかぶさって、汗だくの遥に食いついていく。


 俺は理性を失った獣となった。




 だが!!




『あっれ~、体育倉庫なんで開いてるんだろー? 閉めておこっと!』




 ――ガシャッ。



 扉が閉まった。

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