第34話 病室にて愛のキスを
相模原中央病院の到着寸前、ヒカリは「後は任せて」と言い出した。
「どうした、ヒカリ」
「事後処理は、私に任せて」
「いいのか?」
「うん、遙くん。君は小桜さんの元へ向かうといい」
「悪いな。今日はありがとう……ヒカリは、命の恩人だ」
「いや、私はただ当然のことをしただけ。また学校で会おう」
サッパリしているというか、謙虚だな。
どうやらヒカリは、知り合いの刑事の元へ向かったようだ。俺は頭を深く下げ、病院へ戻っていく。
病室内は、気絶する元校長奥村を逮捕して連行しているところだった。あんなテロ行為をしたんだ。もう次は絶対に出てこれないだろう。無期懲役は免れないだろうな。
俺の存在に気付いた遥パパが向かってくる。
「戻ったか、遙くん!」
「はい、なんとかダイナマイトを無人の公園で爆発させました」
「よくやった。君に感謝を」
「いや……俺は遥を守れなかった。だから――」
肩を落としかけると遥パパは、俺の肩をポンポン叩いた。……え?
「遙くん、聞いてくれ。遥は奇跡的にダメージは少なく、軽い
「えっ! あの高さで
嘘だろ。結構な段数あったし、凄い音したけどな。
「実はね、遥は子供の頃から
「マジっすか!!」
「ああ、普通は頭蓋骨骨折するらしい。だから医者も驚愕していた」
「なんという驚異的な頭……」
「私も驚いたよ。まあ、要因はそれだけではないかもしれないが」
あの時の遥はダイブするように落ちていた。そんな体勢になったのも、校長に背後から押されたからだ。もしかしたら、落ちた角度とか幸運が重なったのかもな。だけど、頭が固いおかげで軽傷で済んだのか。
「じゃあ、遥は……」
「実はもう目を覚ました。病室へ向かってやってくれ」
「えっ、本当に!? 直ぐに行きます!」
* * *
教えて貰った病室へ向かった。
直ぐに辿り着いて、扉を開けた。
「遥!」
「……あ」
ベッドの上には、意識を取り戻した遥の姿があった。
「……良かった。本当に良かった。遥、俺……すっごく心配したぞ」
「ごめんね。急に足が滑っちゃって、わたし、馬鹿だよね」
「違う、そうじゃない。遥は悪くないんだ。悪いは全部元校長だ」
俺は遥に近づく。
あれ……遥の様子がおかしい。
なぜか手が震えているような。
「ごめんね……」
「なぜそんなに謝る」
「わたし……記憶が」
ま、まさか!
頭を打った後遺症で記憶喪失に……!
「遥、俺のことを忘れてしまったのか!?」
「……なんてね」
「え」
「ごめん。記憶はあるよ。遙くんのこと忘れるわけないじゃない。絶対に忘れないもん」
「お、お前なぁ……心配させるなよぉ!」
一瞬ビビって俺は涙した。
ボロボロ涙が出て止まらなかった。
「遙くん!?」
「あれ……おかしいな。俺、なんでこんな涙が止まらないんだ」
「……遙くん、こっちおいで」
遥は、俺の頭を優しく
……本当に良かった。
あのままもう二度と目を開けないのではないかと心配で心配でたまらなかった。
「遥、俺……俺は……」
「気にしないで。わたしたち夫婦でしょ。嬉しい時も悲しい時も支え合っていくものでしょ」
「でも俺は遥かを助けられなかった……」
「うん、助けてくれた。パパから聞いたの。さっき遙くんが病院の人達を救ったって。それって、わたしの為でもあったんだよね」
「ああ、そうだ。俺は遥の為に爆弾を無人の公園まで運んで爆発させた」
「なら、多くの命を救ったと同じだよね。遙くんは、ヒーローなんだよ。誇っていい」
そう言われて俺は、胸につかえていたものが消えた。そうか、俺は遥だけではなく、たくさんの人達を助けたんだな。
「一応、名誉の為に言っておくけど会長も助けてくれたんだ」
「そっか。深海会長が……って、まさか浮気じゃないよね!?」
「ち、違うって。あの会長、突然現れて奥村にドロップキックしたんだぞ。とんでもない女だよ。しかも、俺と運命を共にする覚悟もあったし、破天荒すぎるって」
ヒカリは、なんていうか……やることなすこと大胆すぎる。カッコイイ女性って感じで俺は割と、ときめいていた。口が裂けても遥には言えないけど。
「そうなんだ。なんか嫉妬しちゃう」
「え……」
「遙くん、まさか会長に惚れちゃった?」
「そ、そんなことはない!」
即否定するけど、遥は怪しむ。
「そう。じゃあ、証明して」
「しょ、証明?」
「うん。今、病室に誰もいないし……ここでする?」
「へ」
ここでする?
それって……ま、まさか。
えっと、嘘。
でも、今日は0.01先生を忍ばせていないし、その……いろいろと問題が。ていうか、いくら個室とはいえ――誰かに見られたらマズイって。
「大丈夫。鍵掛けられるし」
「そういう問題か。遥、お前はまだ病み上がりなんだ。無茶するなって」
「別にいいのに。それに今日はとっても危険な日なんだけどね」
余計にダメだ!!
ていうか、めっちゃ誘ってくるな。本当に会長に嫉妬しているようだな。う~ん、これはしばらく会長とバチバチになりそうな予感。
でも、せっかくのご好意だ。
俺は、正面から遥の腰に手を添えた。
抱き寄せてその唇に重ね合わせていく――。
「……」
少し驚く遥は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます