第16話 放課後の教室で甘々なキスを

【大柳教頭視点・校長室】



 校長が逮捕されて小一時間。

 大柳教頭は事情聴取を終えて、誰も居なくなった校長室の椅子で一息ついていた。足を組み、タバコを吹かす大柳。


 その表情かおには邪悪な笑みがこぼれている。



「……ふはは。奥村め、怒りやすい性格があだとなったな。予想通り、この私をブン殴ってくれた。こうなった以上、この席は私のものとなろう」



 大柳はこうなることを予測していた。遙と遥の情報を大親友である『天満 総一郎』から聞かされていたからだ。

 あの独身の校長が二人の関係を許さず、退学に追い込むのではないかと大柳は考えていた。それは見事に的中。


 顔を殴られるという痛い目には遭ったものの、計画を前倒しに出来た。そう、大柳教頭は、いつか校長の座を奪おうと目論もくろんでいたのだ。



「天満くんの結婚は予想外だった……だが、まあいい。あとは彼と小桜さんを別れさせ、我が孫娘・あおいと結婚させる。それが葵との約束なのだ。天満くんには悪いが、小桜さんとは別れてもらう。

 ただ、校長を追い払ってくれた礼くらいはしてやろう。しばらくは幸せな一時を過ごすがいい、天満くん。ふふふ、ふははははは……!!」



 後日、教頭は校長へ昇進した。



 * * *



【遙視点・教室】



 放課後になった。

 あの校長の事件が全校に広まることはなく、落ち着いた様子だった。あの時は授業が始まっていたから、見られなくて本当に良かった。

 下手すりゃ、俺と遥が結婚している事実がバレていただろうな。


 クラスメイトは、どんどん帰宅していく。教室内には、俺と遥だけが残った。


 教室の一番隅の席に座り、スマホを弄る俺。前の席の遥が振り向いて笑った。


「綺麗な夕焼け空だね。静かになったし、二人きり……ドキドキしてきた」


 遥はてのひらかかげて指輪を示した。

 キラキラと光る銀色の円環リング

 俺が渡した結婚指輪だ。


「校長という脅威もいなくなったし、これで卒業まで一緒だな」

「うん、今すっごく幸せ」


 手を合わせ、にぎり合う。

 恋人繋ぎをしてしまった。

 なにこの青春シーン。

 陰キャの俺に相応しくない光景すぎる。


 遥は、手を離してこちらへ方へ向かってきた。それから、俺のひざの上に乗ろうとした。


「ちょ、遥!」

「ダ、ダメ? こういうの憧れだったから」

「それ、男としてはロマンすぎるよ。いいの?」

「うん、すっごく緊張するけど……思い切る」


 思い切りが良すぎるよ。でも、そういうのは嫌いではない。つまり、遥を俺のひざの上に乗せて“ぎゅっ”と抱きしめるってことだ。


 なにそのご褒美。


 心臓がバクバクしている中、遥は背中を預けてきた。……軽っ! しかも華奢きゃしゃだな。体重をほとんど感じない。いったい、何キロなんだか。



「ふわふわだな、遥」

「そう? 自分では分からないや」


 ブラウスとかスカートがヒラヒラして、くすぐったい。布越しから伝わって来る肌の感触とか……興奮する。

 遥は、スレンダーの割りにムチムチ感があるし、むしろ、モチモチしていた。素晴らしい肌質だ。


「ぎゅっとしていいか?」

「うん。いっぱい抱きしめて」


 誰もいない教室内で、俺は遥を背後から“ぎゅぅ”と抱きしめる。……幸せ。とにかく幸せだ。こんな時間が永遠に続けばいいのにな。


「こんな風に抱きしめるっていいものだな」

「わ、わたしも遙くんに“ぎゅっ”とされて嬉しい。それにね、なんだかキスしたくなっちゃった」


 突然の要求に、俺は慌てる。

 キ、キスだって?


 あの唇と唇を重ね合わせるヤツだよな。


 もちろん、俺は経験皆無の“童帝”なのだ。そんな行為は今までの人生一度もなかった。そもそも、この『背後からぎゅ~』も死ぬほど緊張しているし、今にも気絶しそうなほど心臓がバックンバックンしていた。

 だけど、そんなカッコ悪いところは遥に見せられないので、感情を押し殺してした。だが、今の『キスしたくなっちゃった』の一言で、俺の中の何かが崩壊した。



「は、遥……その、先におっぱい触りたい」

「へ……お、おっぱい!? ちょ、いきなりぃ!?」



 やべ、つい興奮してストレートに言ってしまった。だって、俺は男。化けの皮が剥がれれば――欲望に忠実な猛犬なのだ。


 さすがの遥も耳まで真っ赤にして、焦っていた。



「い、いいよな。俺たち夫婦なんだし」

「……うぅ、教室内で恥ずかしいよ。誰かに見られたらお嫁にいけなくなっちゃう!」


「いや、既に俺の嫁だが」

「……あ!」



 そう、俺の嫁。奥さん。

 まごうことなき妻である。



「いや、無理にとは言わないよ。遥にも心の準備があるだろうし」

「じゃ、じゃあ、先にキスして! それならいいよ」

「本当か!」

「うん。ただし、乱暴にしないでね。優しく愛情を込めてね」



 くるりとこちらを向く遥。

 向き合う事によって、俺の心臓は破裂寸前となった。やべえ、遥が可愛すぎて――死ぬ。死んでしまう。このまま昇天しそうだ。


 だけど、キス……したい。


 あの桜色の唇に重ね合わせたい。

 それから、あのはち切れそうな胸を俺の手で……。



 俺は、遥にキスしようと顔を近づけていった――その時だった。突然、教室の扉が開き、誰かがズカズカ入ってきた。



「そこ不純異性交遊禁止です!!」



 な、なんだあああああ!?



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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