第7話 入籍と苗字が変わった日

「まずいな、どうする小桜」

「どうするって……どうしよう」


 だよなぁ。小桜も焦っている。俺たちがこのまま役所へ行けば完全に疑われる。どうにか出来ないものかと思考を巡らせていると――。



「婆ちゃんに任せな!!」



 車のドアが開くと、中から婆ちゃんが現れた。いつもながら着物を着ている。この周辺では名の知れた有名人でもあった。



「――って、婆ちゃん!? なぜ、ここいるんだ!」

「なぜって、遙のピンチに駆けつけたのさ。爺ちゃんから聞いてるよ、その子と結婚するんだって?」


「ああ、だけど校長がこっちを見ている。このままでは退学になっちまう」

「へえ、奥村校長かい。じゃあ、婆ちゃんが足止めしてやるさ」


 どうやら、婆ちゃんは校長と知り合いのようだな。なら、好都合。婆ちゃんの力を借りて校長をあの場から動けなくしてもらう。


「頼む」

「行ってくるから、遙とお嬢ちゃんは今の内に役所へ向かうんだ」

「ありがとう!」


 俺と小桜は車の後部座席へ乗り込む。親父は運転席へ。爺ちゃんは助手席へ座った。それから、一応外の様子を伺った。


 婆ちゃんは……校長はどうなった?


 注視していると、婆ちゃんは物凄いスピードで走り出し――校長の肩を掴んでいた。



「奥村校長先生、奇遇だねぇ!!」

「……ひッ! 天満さん! どうしてここに!!」

「校長、アンタこそ学校はどうしたんだい。そんなことはいいから、アタシの話に付き合いな!!」


「ひ、ひぃぃぃぃいいい~~~ッ!!!」


 首根っこを掴まれ、校長は連行されていった。婆ちゃんつええ……。こうなれば、今の内だ。



「親父、校長は婆ちゃんが足止めしている!」

「分かった。任せろ!!」



 車は発進していく。

 役所へ向かって――!



 * * *



 相模原市役所へ到着。

 すぐに車を降りて、四人で役所へ入っていく。時間的にもう役所も始まっている。まずは、窓口へ向かい――婚姻届を入手する。


 中へ入ると、もうそこそこ人がいた。でも混んではいない。さすが、平日だな。


 窓口へ入り、俺は婚姻届を貰った。

 こ、これが……。


「わたし、婚姻届を初めてみたよ」

「俺もだよ。この用紙に記入すればいいらしい。向こうでやってしまおう」

「うん」


 記入スペースを借り、さっそく記入していく。……名前、住所、本籍、届出人を記入。それから証人の名前を書いてもらう。

 ハンコを押して……完了っと。


 あとは本人確認書類だ。

 これはマイナンバーで対応した。

 最後に保護者の同意書。

 未成年の場合は必要になるようだった。



「……よし、終わったぞ。残るは中々決まらなかった苗字だが……『天満』でいいのか?」


 そう、まだどちらの苗字にするか決まっていなかった。小桜は最後まで悩んでいたが……今は腹が決まったらしいな。



「天満にする。うん、それがいい」

「分かった。姓を記入すれば全てが完了する」


 天満の方を選択肢。

 記入を終えた。


 ……ふぅ、これほど大変だとは思わなかった。



「提出しよっか」

「あ、ああ……これで俺と小桜は本当の夫婦になる。親父、爺ちゃん、俺たちは行ってくるよ」



「おう、あとは二人で行ってこい」

「ワシたちはここで見守っておる」



 二人に見届けてもらい、俺と小桜は歩き出す。


 再び窓口へ到着し『婚姻届』を提出した。これで……終わった。この瞬間、俺と小桜――いや、は夫婦となった。入籍したんだ。


 つまり、俺は『天満てんま よう』のままだけど、旧姓小桜は『天満てんま はるか』となった。


 ぜんぜん実感がない。だけど、名前が変わって初めて俺は、遥が俺の妻となったとそれだけは理解できた。


 俺が夫ねぇ……信じられんな。

 まだ覚めぬ夢でも見ているのか。

 頬を引っ張っても痛い。

 現実だった。



「結婚しちゃったね」

「そ、そうだな。その……『遥』って呼んだ方がいいよな」

「名前呼びとかドキドキするね……。じゃあ、わたしも苗字で呼べないね。ようくんの方がいいよね?」


 名前を呼ばれ、ドキッとした。

 おかしいな、俺たち夫婦のはずなのにな。まだカップルが誕生したばかりの初々しい気分だ。そんな人生もなかったけど。


 ――そうか、俺は結婚から始まっているから変なんだ。変だけど、恋だ。……想いを伝えるよりも先に結婚しちゃうなんて。変な恋だ。ああ、本当に変だ。


 けど、俺は遥が好きだ。


 この気持ちを直ぐに伝えたい。

 そうだ、伝えてしまおう。

 だって夫婦なんだから。



「遥、大切な話があるんだ」

「う、うん、なに?」


 見つめ合っていると――役所の奥から怒声が響いた。あれ、この声は婆ちゃんか?



「奥村校長、奥村校長、役所へ入ってはいかあああああああああああん!!!」



 ちょ、ええッ!!

 まさか校長のヤツ、婆ちゃんを振り切って……なんてしつこい!! だけど、たった今、婚約届は提出した、これでもう退学はないはずだ。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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