ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
第1話 結婚しているんです
「結婚しています!」
全てはその一言で始まった。
――さかのぼること五時間前。
七月前半、地獄の猛暑日の中で走高跳をやっていた。なんで、こんなクソ暑い日に外で授業なんだ。
唯一の救いといえば、今日から『
彼女は、運動神経抜群で日本記録を塗り替えるレベルで二メートル付近を飛び続けていた。すごい
――しかし、同じクラスの男子はそんな記録級ジャンプよりも、小桜の肉体に釘付けだった。どいつもこいつも!
確かに、彼女は無駄が一切ないスリムな
とはいえ、俺も興味がないわけじゃなかった。小桜の体というよりも、あのひとつひとつの鮮烈で、可憐な動きや仕草が綺麗だなって感じた。
本当に無駄がない。
清らかで美しい。
「――次、
「へ? あ、俺の番か」
元プロレスラーである体育教師の
しかし、ジャンプ力が足りず棒ごとマットへ落下。失敗した。……だめかぁ、やっぱり小桜のように上手くいかない。
それから、十分後。
体育の授業が終わって、小渕先生がなぜか俺に用具を片付けるように指示してきた。なぜだ。聞き返すと、どうやら走高跳を失敗したのが唯一俺だけだったらしいことが判明した。俺だけかよっ。
くっそ……飛べなかったからって、雑用係を押し付けられるとは。これが敗北者の末路か。しかし、逆らえば元プロレスラー小淵から容赦ない“アルゼンチン・バックブリーカー”をお見舞いされるだろう。俺ではないが、以前、別の誰かが食らっていたのを覚えていた。
渋々、ひとりでバーとかマットを片付けていると、転校生の小桜が駆け寄ってきた。春のような穏やかな表情でこう言ったんだ。
「手伝おうか」
そんな女神のような一言を発する小桜。俺は、てっきり指をさされて馬鹿にされるかと思ったんだがな。いや、転校生がそんなことするわけないか。というか、この美少女がそんな性悪なわけない。
「いや、いきなり転校生に手伝ってもらうわけには……」
「そんなの関係ないよ。それに、倉庫の事とか知っておきたいから」
「倉庫を? なんのメリットがあるんだ」
「うん、わたしは陸上部に入る予定だからね」
そうか、陸上部か。
それで走高跳が得意なんだな。それにあの健脚にも納得した。ジロジロ観察していると、小桜はソワソワして居心地悪そうにしていた。
「す、すまん。つい……」
「あはは。よく男子から見られるから、多少は慣れているけどね。でも、転校してきたばかりだから、恥ずかしいや」
小桜は走高跳用のバーを持ち上げて運んでいく。仕方ない、ここはご好意に甘えよう。俺はスタンドを体育倉庫へ引き摺っていく。……ちくしょう、重いな。
ズリズリ引いて、なんとか倉庫へ。
「そこが倉庫。カギが開いてるから、中へ入れていこう」
「うん。バーを置いていくね」
用具を元の場所へ戻し、あとはマットを入れるだけ。あれが三十キロ前後もあって重いんだよな。俺ひとりではキツイ。けど、今なら手伝って貰える。しかも、美少女転校生に。
よくよく考えたら、こんな可愛い子と
立ち尽くしていると、小桜はバーを降ろし終え振り向いた。だけど、足を挫いて俺の方へ倒れ込んでくる。
……なッ!
いきなり!!
「きゃっ……!!」
「うわッ、小桜!」
小桜を抱えるように俺はマットへ倒れた。
ま、まさか俺が小桜に押し倒される状況になるとはな……。マットのおかげで怪我はないけど、少し脳が揺れた。あと小桜の胸も。
……あ。
これ、密着しているよな。
柔らかいし、良い匂いもする。
小桜のシャンプーの匂いとか、体操着の洗剤に匂いとか……思わず興奮してしまった。
「んっ、いったあぁ……ごめんね、天満くん」
「……ぁ。あぁ、こっちこそ、すまない。小桜、その……いろいろと柔らかい」
「え……ちょ! 天満くん!」
顔を真っ赤にして驚く小桜は立ち上がろうとするけど、動揺が勝ってなかなか脱出できないでいた。おいおい、慌てすぎだ。
落ち着かせようとするけど、バタバタ暴れて――その度に俺は究極の天国を味わった。……もうこのまま死んでもいいっ。
などとやっている場合ではない。
こんなところを誰かに見られたら大変だぞ。男女がマットで絡みあっているとか、絶対に誤解される。
そんな時だった。
部活の人たちがやってきて――倉庫をピシャリと閉めた。
……え?
外から女子の声が聞こえた。
『今日は部活お休みだってさ~。倉庫閉めとかないとなんだって』
『えー、マジ! なんでよぉ』
恐らく友達同士の女子は、倉庫の鍵を閉めて立ち去って行った。……おい。おいおい! まさか、まさかあぁぁぁ……!!
嫌な予感がしてきた。
「小桜、ちょっとどいてくれ」
「ちょ、どこ触ってるの!」
「悪いって」
小桜の体を持ち上げ、マットへ寝かせた。触れたのが気に障ったらしい小桜は涙目で俺に抗議してきたが、耳に入れている余裕はなかった。
扉の方へ向かうと――あぁぁッ!
「ど、どうしたの? さっきから無言で立ち尽くして怖いよ、天満くん」
「やべえ……閉じ込められた」
「え? 閉じ込められた?」
「俺たち、体育倉庫に閉じ込められちゃったぞ!!」
「え、ええッ!?」
開かない。
鍵がまったく開かない。
何度も引いたり押したりしたけど、虚しくガチャガチャ言うだけで開く気配はなかった。……これはまずいぞ。
出られないし、しかも真夏日で倉庫内は暑い。
今も尚、汗を掻き始めていた。
叫んで助けを呼んでみたが反応なし。
そうか、試験も近いから……帰りが早いんだった。完全に失念していた。
「どうしよう……」
「えっ、天満くん、嘘だよね」
「本当だ。試してみ」
「……本当だ。扉が開かない」
開かない以上、どうしようもない。
小桜はマットの方へ戻り、へたりこんだ。くそっ、いちいちフトモモがまぶしいな。
「どうする、小桜。スマホは教室の鞄の中だ」
「わ、わたしもだよ……。転校してきたばかりなのに、どうして……」
「俺に付き合ったのが運の尽きだ」
「だ、だって……放っておけなかったんだもん」
小桜は優しいな。
こんなダメ男の俺を構ってくれるとか。
他の女子は氷かよと思いたくなるほど無反応だし、無関心だ。なのに、この小桜だけは唯一、俺に優しくしてくれた。
もしかして、小桜は天使なのかも。
――そうして、時間はゆっくりと進みだしていったのだが、暑い。
「……時間も分からないし、暑いし」
「う、うん。水もないし、喉乾いた」
そう、水分補給をするには外にある蛇口を捻るか、教室にある水筒を取りに行くしかない。でも、どっちもこの状況では無理だ。
小桜は倉庫内の暑さに耐えかね、ウロウロしていた。俺もだけど。
そんな小桜の体を気晴らしに観察していると、体操着が汗で滲み……下着が薄っすら見えていた。ほんのわずだにだけど。
「…………まじか」
「え?」
「い、いや……なんでもないんだ」
「なんか、胸とか見てない?」
「み、見るわけないだろ」
「嘘。だって天満くんの視線――あっ!」
俺の視線を追って自身の胸に気づく小桜は、耳まで真っ赤にした。腕で隠し、背を向けた。
「すまん、わざとじゃないぞ」
「天満くんのえっち!」
「悪いって。……って、あれ、なんか急に寒くなってきた」
「うん。日が沈み始めているみたい」
「マジかよ。夜になっちゃうじゃん。誰も助けに来ないのか……」
普通、俺と小桜がいなくなって気づくと思うんだが、担任もクラスメイトも何しているんだよ。俺たちがいないって事に気づいて探せよっ。
けれど、待てど暮らせど気配はなかった。
だめか。
もう夜になったぞ。
周囲はすっかり真っ暗になってしまった。おかげで少しは涼しくなったが、視界が悪くなった。幸いにも周囲にある街灯と月明かりが照らしてくれたが。
「もう夜だよ……疲れた」
小桜の顔は疲労感でいっぱいだった、俺もさ。いつもなら、とっくに帰宅して自室のベッドでゴロゴロしてゲームをしているところなのにな。
俺は、小桜の隣に座った。
「すまない。俺のせいだ」
「ううん、手伝ったのはわたしの意思だもん」
「だけど……」
「いいの。それに、転校早々でこんな経験は滅多にないよね」
「相手が俺で悪かったな。学年には、イケメンも多いし」
「顔とか関係ないよ。わたしは性格とか内面重視だし。それに今、天満くんと色々話したけど、面白かったよ。趣味はゲームで、動画とかも見てるんだね」
「ああ、アニメも見るよ。異世界モノだけど」
「えっ! 本当に! わたしもよく見るんだ。共通の趣味があるとは思わなかったなぁ」
おぉ、小桜ってアニメを見るんだな。これは意外というか。気づけば、アニメの話題で盛り上がっていた。……あれ、小桜と話すの楽しい。女子と話すのって難易度クソほど高いと思ったけど、アニメ好きの小桜相手なら、こんなにも幸せな時間を過ごせるのか。知らなかった。
そんな中、良い雰囲気になって――見つめ合った。
大きくて神秘的に輝く瞳が俺の姿を映し出す。揺れ動く中で、俺の鼓動が激しさを増す。……この気持ちはなんだ。
これが恋って、ヤツなのか。
分からない、分からないけれど人生で初めて感じた感覚だ。
「……小桜」
「天満くん、いいよ」
いいよ――そう言って、小桜は
おいおい、俺はまだ心の準備すら出来ていなかった。というか、こんな展開になるとは、まったくの想定外だ。
どうする、ここで男になるしかないのか。それとも獣か。いや、そっちはダメだな。確実に嫌われる。
なら、俺は……
俺は……
小桜の肩に手を置き、俺はゆっくりと顔を近づけていく。慎重に、壊れないように、そっと……そっと……。
『――ガラガラガラ!』
突然、扉が開き――振り向くと、そこには親父と校長先生の姿があった。
「おい、遙! 探したぞ!!」
「お、親父!! どうして!!」
「お前の帰りが遅かったからな。この警備員のおっさんに鍵を借りた」
「お、親父……その人は警備員のおっさんじゃねぇよ」
「は? じゃあ……」
壊れた人形のようにガタガタ震える親父は、その自称・警備員のおっさん――もとい校長先生を凝視する。
「校長です」
「「「あああああああああああああああああ……!!!」」」
最悪だあ!!
***おねがい***
続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。
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