第二章 Strikes the Klan
第12話 ローグリンド王国
――翌朝……ではなく昼。
「“転移者”様~~~! お気を付けて~~~!」
「さよ~~~なら~~~! また来てね~~~!」
「大食いのお嬢ちゃんもな~~~! あんまり食べ過ぎるなよ~~~!」
「そいじゃーねー! ヒゲもちゃんとシャンプーしなよー!」
「これからもたくさん食べまーす」
ドワーフ達に見送られ、ショーコとフェイは〈ラホーリの村〉を後にする。
夜通しドンチャン騒ぎしてた割にドワーフ達は元気だった。さすがタフで有名な種族だ。
ちなみにショーコとフェイはそこそこの時間に寝落ちしてた。
シリアルとスムージーの処遇については、朝早くに世界安全保安局に引き渡しの要請を伝書鳩で送っておいたので、局員が到着するまで村で拘留されることとなった。今度はキチンと固結びで拘束しておいたから安心だ。
本来なら局員が来るのを待ち、二人組と引き換えに賞金を受け取るものだが、ショーコの提案で賞金はドワーフ達に譲ることにした。
ルカリウス公国を発つ際に資金はたくさん用意してもらっている為、不要だからだ。局員が来るまで待ってるのもアレだし。
改めてショーコとフェイは“最初の転移者”の仲間が居るという〈ローグリンド王国〉へと向かって旅を再開したのだった――
――が、
「やばい……やばいやばいやばいやばいやばい」
ショーコは焦っていた。焦りに焦っていた。
昨夜の宴会で出されたドワーフ料理があまりにも美味しくて食べ過ぎてしまったのだ。
量もさることながら、問題はそのカロリーだ。どの料理も脂っこくてコレステロールがたっぷり含まれているのは明白だった。
トシゴロの女の子として、お腹周りに余分なお肉が付くのはダンコとして許容できないのだ。
「絶対太った……絶対やばい……胃の中がドロドロしてる気がする……身体中の血がテカテカしてるのを感じる……私これから三日間断食する」
「気にすることないですよ。ショーコさん全然太ってないじゃないですか」
「でへへ、そお? ……じゃなくて、そういうお世辞は油断させちゃうからかえってよくないんだよ」
「お世辞じゃないですよ。ほら、お腹を触ってみても別に……あっ」
「あっ!? 今わたしのお腹触って『あっ』って言ったよねキミ!?」
「いえ、言ってません」
「ゆったよ! 二秒前のことウソでごまかさないでよ!」
「正直、思っていたよりちょっと柔らかいなって思っただけです。大丈夫ですよ別に太ってるってほどじゃないですよ。普通です普通。それくらいで太ってるなんて言ったら本当に太ってることを悩んでる人に失礼ですよ全然普通ですよ気にしない気にしない」
「急に饒舌なフォローされると逆効果だよ」
「いや別に誤魔化そうとしてまくし立ててるわけじゃないですほんとほんと」
「そういうフェイさんはどーなのさっ! えいっ! ボディタッチならぬボディつまみ! ……って固ぇ! 筋肉カッチカチ!」
「鍛えてますんで」
「いくら鍛えてるったってあんなにたくさん食べてたんだからちょっとくらいお肉が付いてるハズなのに……どうして……」
「純粋なエルフは体型が生後から不気味に変化したりしないんですよ」
「ほぉーそうかいっ! そいつぁようござんしたねェーッ!」
「!?」
ショーコの鬼のような形相にフェイは恐怖を覚えるのだった。
――……
〈ラホーリの村〉を発って丸一日。ショーコはこの世界で三度目の夜を越え、三度目の朝を迎えた。
彼女にとって野宿……それも馬車の中で一夜を過ごしたのは初めての経験だった。
今まではふかふかのベッドで爆睡するのが当たり前だったが、堅い木板の上で眠れば今までの“当たり前”がどれほどありがたいものだったのかがわかる。
目的地へ向け、馬車が再び動き出す。石を蹴り、砂を舞い上げながら車輪が回る。
ショーコは揺れる荷台の中で、痛みに背中をさすりながら、朝食にドワーフ達にもらったベーコンとウィンナーの燻製を食す。朝から元気に働けるガッツリ飯だ。
「食べ過ぎを気にする割にはしっかり食べるんですね」
手綱を引くフェイが振り向きながら言う。
「いや朝はちゃんと食べないと一日ダメになるからむしろ朝食抜くと太りやすいっていう研究結果が出てるんだよだから朝はキチンと食べないとダメなんだよ」
早口でまくし立てるショーコにフェイはちょっと引いた。
「だいたいなんでエルフは食べても太らないの? そんなのズルいよ。神様采配偏ってない?」
「ちなみにエルフは不老長寿なので老けませんし身体能力は高く基本的に人間よりもあらゆる面で優れています」
「え、なんなん、急に煽ってくるのやめて」
「ですが、エルフからすればそういう“不完全”な人間という種族にある種美しさを感じているのですよ。生き様によって姿形を変え、短い
「で、でへへへ。そうかなぁ。そう言われるとなんだかテレちゃいますなあ」
「例えるなら人間が小鳥をカワイイと感じるような感覚ですかね」
「褒めてんのかコケにしてんのかはっきりしてくんないかな」
――馬車に揺られること一時間半。
ひときわ大きな欠伸をするショーコ。昨夜は野宿とあって熟睡できなかったのだろう。
「ねえフェイ、なんとか王国ってまだ遠いの? 今夜は暖かい布団で眠りたいよ。もう羽虫の飛行音で夜中に起こされるのゴメンなんだけど」
「もうすぐですよ」
「子供の頃、遊園地に行く道中のお母ちゃんも同じこと言ってたな……」
「嘘じゃありません。ほら、見てください」
フェイが前方を指さす。
ショーコは馬車の窓から身体を乗り出して前方を見た。
「……! あれは――」
「あれが〈ローグリンド王国〉です」
――ローグリンド王国。
世界で最も栄えている国の一つであり、広大な領地と人口を誇る巨大国家だ。
王都を構成する大都市は段差状に区画が形成され、階層が下に行くにつれ面積が広くなっており、さながらウェディングケーキのような形状になっている。
王都の最上階層には、国王が座する〈王城〉が位置する。
第二階層は〈観光都市〉となり、蔵書豊富な巨大図書館もある。
第三階層〈商業区画〉は世界のあらゆる物品が集まる賑やかな区画だ。
第四階層〈居住区画〉は多種多様な種族が混在しつつ、平等に暮らす区画。
第五階層は〈工業区画〉となり、国内外に輸出する様々な物品を製造している。
また、広大な王都内の移動手段として、各階層には【魔動車】と呼ばれる乗り物が走っている。
ショーコの世界の路面電車のようなもので、魔法を動力として稼働している。馬が轢いていない無人の馬車のようなものといったところだろうか。
さらに、上の階層と下の階層を繋げる交通手段としてゴンドラ――もちろん動力は魔法――が稼働しており、王都においては“横の移動”も“縦の移動”も不自由しない。
これら五つの階層で構成される巨大都市が、〈ローグリンド王国〉の王都と呼ばれているのだ。
「ほえ~……でっかいなぁ」
王都の入り口で馬車を預け、第五階層から巨大都市を見上げたショーコは思わず目を丸くした。
遥か上階の王城を見上げながら、中学校の修学旅行で東京スカイツリーを見学に行ったのを思い出す。
「ドデカい街で人捜しってRPGでよくある展開だけど、実際自分がやるってなったらめちゃくちゃめんどくさいね」
「案外早く見つかるかもしれませんよ。なんせ探しているのは世界で一番有名な人間の一人ですからね」
「その割にはフェイはその人の名前も知らなかったみたいだけど」
「多くの人にとって“最初の転移者”様の御一行はまさに雲の上のような存在ですので、顔はおろか名前も知らずその存在しか聞いたことがないという人は多いのです。本当にこの街にその方が居るのなら、認知している人は少なくないはずですが」
「架空の英雄みたいな感じなんだね」
「このローグリンドの王都もかつては魔族の脅威に晒されてひどく荒れていたのですが、“最初の転移者”様とそのお仲間が国を救い、民と国王の尽力によって復興したのです。今は【魔法陣】が活用されているので、荒廃する以前よりずっと暮らしが豊かになったくらいです」
「まほーじん? グルグル?」
「魔法陣とは“魔法が込められた印”です。魔法が使えない普通の人でも、その印に触れれば魔法の恩恵を受けれるのですよ。薪を使わなくても火を起こせる、井戸まで汲みに行かずとも水を得られる、そして魔動車の車輪を回すといった、あらゆることに利用されており、生活基盤として欠かせないものですね」
ショーコにはよく理解できなかったが、彼女の世界で例えるなら電気やガスといった日々の暮らしに欠かせないエネルギーの代わりが魔法であり、電源スイッチやガスコンロといったエネルギーを呼び出す装置が【魔法陣】ということだろうか。
「よくわかんないけど、なんとなくわかった」
「ローグリンド王国は工学と魔法を巧く扱い、大きく発展してきました。経済成長率は右肩上がりで、世界の経済の中心を担う重要な国家の一角であり、我々エルフやドワーフ等様々な種族も大勢雇われ、世界全体で見ても非常に重要な国家でありながら――」
まくしたてるようにペラペラと語りだすフェイ。いつもの冷静な彼女らしくない言動にショーコがたじろぐ。
「どうしたフェイなんかテンション高いぞフェイどうしたどうした」
「ハッ、初めて訪れた王都につい興奮してしまいました。失礼しました」
「意外だね。外交官って言うからには色んな国にお呼ばれされてるのかと思った」
「ええ、こちらから出向いたことはなかったのでとても楽しみです」
目を輝かせ、鼻息が荒くなるフェイ。初めての大都会にテンション上がりっぱなしの田舎娘のようだ。
「さあさ、いきましょうショーコさん。観光区においしいスイーツがあるって有名なんですよ。土産話ウケ抜群の大盛り料理もたくさんあります。まずは若者に人気の甘味を食べに行きましょう」
「キミちゃんと当初の目的覚えてる?」
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