仲の良い幼馴染の後輩が人気Vチューバーだった!?ASMRで鍛えたテクニックで迫ってくるんだが??

D@11月1日、『人生逆転』発売中!

第1話 可愛い後輩が教室で俺に迫ってくるASMR

『ごめんなさい、センパイっ……部活の前に時間を作ってもらって』

 俺は後輩のみすずに呼び出されて、

 カワイイ後輩は、消えそうな声でささやいた。

 夕焼けが美しく教室を照らしている。


『やっぱり、こうして改まって二人きりになると……なんだか、緊張しちゃいますね。センパイはどうですか? やっぱり、緊張しちゃいますよね。よかった、一緒だ』


 みすずは、長く美しい黒髪を揺らす。


『センパイと一緒にいると、とても幸せな気分になるんです。でも、一緒にドキドキしちゃって……聞いてみますか、私の心音?』


 彼女にうながされるまま、俺は左耳を彼女の胸元に押し付けた。

 トクン、トクンと一定のリズムで彼女の優しい音が聞こえてくる。そして、制服ごしに感じる女性特有の柔らかい肌の感触が伝わってくることで、感情が爆発して溶けてしまいそうになる。


『ふふ、こうしているとセンパイが赤ちゃんみたいですね。センパイはいつも頑張っているから、今日くらいは私に甘えてもいいんですよ?』


『私はいつも優しくしてくれるセンパイがなんですよ』

 それが彼女の失言だったようだ。恥ずかしがって顔を真っ赤にした。


『その、違うんですよ。好きっていうのはその……人として尊敬するっていうか。リスペクトというか……』


『そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ。尊敬しているんだから、いいじゃないですか?』


『えっ、異性として見られていないのが悲しいんですか? もう……私の気持ちになんて、わかってるくせに……』


『言葉にしないと伝わらない? んっ、それはいくらなんでも恥ずかしいですよぉ。わかった、言いますよ。言いますから、泣かないでくださいっ。でも、一回だけですからね。ホントにですよ』


『私、有栖川みすずは、センパイのことが大好きです。よかったら、私と付き合ってくださいっ』

 

『もうっ。私が一生懸命、頑張ったんだから、ちゃんと答えてくれないと嫌ですよ』


『ありがとうございます。これからもずっと一緒ですね』


『ねぇ、センパイっ?』


『私達、付き合っているんですよね?』

 頭を少しだけ傾けて、彼女は笑った。


『一つだけお願いがあるんですよ、キスしてくれませんか? ううん、違いますね。キス、してみよ、私達?』


 彼女のくちびるが俺に迫る。温かくやわらかなくちびるが、重なる。優しいリップ音が教室に響いた。


『お互いに、ファーストキスですよね?』

 彼女はゆっくりと俺とハグをする。そして、少し背伸びをして俺の左耳に口を近づけた。彼女の甘い呼吸が、聴覚を刺激し続ける。


『センパイ、だいすきっ』

 言葉が俺の脳を溶かしてしまう。吐息が耳元をくすぐり、感情が崩壊する。


『大サービスですよ』

 みすずは、俺の耳にキスをした。なめるようなリップ音が俺を支配した。


 ※


「うわああああぁぁぁぁぁああああああ」


 部屋に絶叫がとどろく。俺は、衣笠一樹きぬがたいつき。高校2年生だ。部屋と言ってもここは教室ではなく、自分の部屋だ。


 さっきまでのセリフはすべてイヤホン越しで聞いていたVチューバーのASMR配信だ。


『やっぱり、ASMRは楽しいけど恥ずかしいね。今日はね、台本も自分で頑張ったんだよ!!』


 画面の中のVチューバー有栖川みすずは、顔を赤く染めていた。


 長い黒髪。

 着崩すことなくしっかりと着用しているブレザー。

 キラキラで美しく大きな眼。


 清楚系後輩Vチューバー有栖川みすず。

 大手Vチューバー事務所クリエイト・クリスタル所属の大人気Vチューバーだ。


『名前もないただの太郎さん。今日もマスチャありがとう! 名前がないはずなのに太郎って矛盾してない?』


「おっ、俺のマスチャ読んでもらえた!!」


 マスチャとは、マスターチャットの略称で簡単に言えば投げ銭だ。おひねりのように、自分が応援したい配信者に直接お金を配信中に投げ銭するんだ。俺は学生なので、アルバイトで稼いだ小遣いの中から、推し活している。Vチューバートップ層は年間数億円のマスチャを稼いでいると言われている。俺は、学生だから数百円くらいしか投げることができないが、石油王のようなリスナーは1万円以上の赤マスを毎回投げている。


 みすずは、とても記憶力が良いらしく、リスナーの名前を憶えてくれるんだ。俺みたいな目立たないリスナーのことも記憶してくれている。


『いつも少額でごめんなさい? 全然だよっ!! 私もバイトしていたことあるからわかるもん。1時間アルバイトするのがどんなに大変か!! だから、みんなも無理しないでね』


 こんな感じで性格も良い。


『じゃあ、今日はこれくらいで。みんな、明日はゲーム配信するよ。ではでは、乙すがわ~』


 恒例の挨拶で配信はエンディング画面に切り……変わらなかった。


 アニメ調だった画面は、なぜか女の子の部屋を映していた。

 それは絶対に移ってはいけない配信者のリアルな部屋。


 これって、まさか……放送事故!? それとも演出??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る