【No. 061】忍術ありきの再会なんて私は絶対に認めない
「せんせー! 進捗どうですか!」
少女が窓から顔を覗かせた。
私は窓に鍵をかけ、カーテンを閉め切った。
ここは3階だ。どうやってここまで来たのだろうか。
今度はインターホンが響いた。
渋々ドアを開ける。
「シュシュッと参上〜♪ シュシュッと忍者じゃ〜ん〜♪
巻き起こせ勇気の〜ハ〜リ〜ケ〜ン〜♪ 古賀いろはただいま参上っス!」
「アンタ匿名の意味分かってる⁉︎」
中の人とか言いたくないけど、特定されたらどうするつもりだ。
「えー、忍者戦隊って定期的に作られてますし。
大丈夫じゃないですか?」
「年代が! ピンポイントすぎるんだよ!」
大きめのパーカを着ている少女、古賀いろは口を尖らせた。
彼女を忘れろという方が無理だ。忘れられるわけがない。
この前のイベントで別の里から派遣された忍者から助けてくれた。
ただのコスプレイヤーだと思っていたから、クナイを投げて来た時は本当に驚いた。
彼女曰く、「彼らは同業者に雇われた忍者」であり、「ファンである自分が守るのは当然のこと」らしい。
同業者ということは、犯人はどこぞの同人作家である。
理由は何であれ、私を殺すために忍者を雇った。
古賀いろはは私を守った。それは私のファンであり、読者だからだ。
彼女にとっては里の長よりも大事な存在らしい。
どこにも共感できないし、意味が分からない。
どこぞの誰かさんから妬まれたり恨まれたり、誹謗中傷されるだけならともかく、なぜ忍者なのだろう。そこまでして私を消したいのか。
そして、私の作品を楽しみにしているファンの中に忍者がいるとは誰が思うだろうか。
同人誌を読む忍者なんて想像もしたくないよ。
「……で、何でここが分かったの」
「忍者ですからね! 密偵は得意なんです!」
にんにんとお決まりのセリフを吐いた。
「申し訳ないんだけど、帰ってくれない? 今忙しいから」
「えー、ようやく運命の再会を果たしたのに」
「そんな運命の再会なんて誰が認めるか!」
忍術を使って会いに来るのは再会とは言わない。
ただのストーカーだ。
「で、何しに来たの」
「いえ、あれから何かあったら大変だなーと思いまして。様子を見に来ました」
「……特に何もないけど」
「本当ですか? 玄関にこんなの刺さってましたけど」
彼女は紙が結びつけられた矢を手渡した。
基本的に外に出ないから、今の今までまったく気がつかなかった。
矢文とかいうヤツだよなあ、これ。
令和にもなってこんなことをするヤツがいるんだ。
「自分が読みましょうか? せんせーに何かあったら大変ですし」
「それくらい自分で読むよ」
彼女から矢をひったくり、手紙をほどいた。
流れるような文字はおそろしいほど達筆で、解読できそうになかった。
「だから言ったじゃないですか。忍者って頭硬い人多いんですよ」
「頭硬いってレベルなのかな、これ」
弓矢で手紙を届けるくらいだし、機械音痴な人が多いのかな。
手紙の解読を彼女に任せることにした。
うねるような文字に眉をひそめている。
「えーとですね、前回のイベントではよくも邪魔しやがったなコノヤロー。
近いうちに殺すから首洗って待ってろ底辺作家。
脅迫ですね、これ」
「そうだね、今すぐ警察呼ぼうね」
スマホを取り出した瞬間、画面が割れた。
クナイが突き刺さっている。
「……え?」
「うーわっ、容赦ないですね!
扉閉めて! せんせーは隠れてください!」
言われるがままに玄関を閉め、机の下に隠れた。
玄関の扉から豪雨のような音が聞こえた。
「奇襲とは卑怯ですね! 自分、外見てきます!」
いろはは窓をつたって外へ出た。
私は机の下に隠れ、様子を見ていた。
黒装束が上へ登っていくのが見えた。
あの黒いのが私を狙っている忍者だろうか。
ゴキブリかよ、アイツら。
しばらくして、野太い悲鳴が聞こえた。
「今日はこの辺にしておいてやらぁ! 覚えてろよ!」
そんなセリフを言うんだ、令和の忍者って。
情けない叫びをあげながら、黒装束が降りて行った。
「いやあ、なかなかの雑魚敵でした! せんせーは大丈夫ですか?
あ、自分は大丈夫です! 準備運動のうちにも入りません!」
いろはが降りてきて、額をぬぐった。
それはまあ、頼もしいことだ。
「せんせー、せっかくなので見学してもいいですか!
神の仕事が見たいです!」
再会という名のストーカー行為をしてきたうえに、職場見学をしたいときたか。
なんとずうずうしい忍者だ。もっと慎んで行動してほしい。
「とりあえず、警察に相談してもいい?」
「なんと、私が信用できないですか⁉︎」
「忍術で解決できると思うな!」
巷で流行っている忍者万能説を私は否定したい。
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