【未来092】異世界転生しないと出られない部屋必勝法


「おお、勇者よ。よくぞここまで来た! 我はこの世界を統べる神である!」


勇者?


「勇者とは、まさにそなたのことである。

我が術式により召喚された選ばれし者である」


……。


「さあ、勇者よ。立ち上がるのだ!

そして悪しき魔王を倒すのじゃ!」


あのさー……マジで意味分からないんだけど。


「戸惑うのも仕方があるまい。

ならば、ここは我らの世界について語ってやろうぞ」


ゆめならば~どれほど~よかったでしょう~。


「残念ながら現実じゃよ。 流行りの歌を歌っても何にもならん」


そうかよ。で、何?

俺がユウシャでマオウを倒せって?


「左様!  そなたは世界を救うため、勇者として召喚されたのである!」


何言ってんだコイツ。

ていうか、何で俺こんなところにいるの。

俺、こんなことしてる場合じゃないんだけど。


「ここは未来を描く場所じゃ。

今から2139字以内に世界を収めねばならん」


2139?


「要するに、尺が足りんっちゅーことじゃの」


そんなの知るかよ。

俺を巻き込むんじゃない。


「いーじゃろ別に。 我に呼ばれただけありがたいと思え」


ありがたくねえよ。俺を早く出してくれ。

アンタに付き合ってる暇はないんだよ。


「ちなみに、そなたが勇者にならんとここから永遠に出られんぞ?」


なにその面倒な設定。


「ほれ、これやるから。好きなようにせい」


何これ、ペン? とノート?


「そなたは未来を自由に描く能力を得た!

これで好きなようにしてみるがいい!」


んなこと言われてもな……。


「さ、勇者として旅立つのも良し、ラブコメっちゃうのも良し、好きにするがいい」


そんなの別にどうでもいいんだけどなあ。

どうしたもんかな。


「そなた、何か望みはないんか?」


今一番の望みは元の世界に戻ることだよ。


「なんだ、おもしろくないのう……」


おもしろさを求められても……。

そういえば、アンタ、このお話の作者なんだっけ?


「そうじゃが」


俺を召喚できたってことは、俺を生み出したのも、俺のいる世界も作ったのはアンタってこと?


「鋭いな、まさにその通りよ」


神様みたいなやつってことか。なるほどな?

で、そいつから未来を描く能力を得たと。


「じゃあ、これでどうだ?」


俺はノートを開き、ペンを走らせる。

書き終えた途端、何かが落ちる音がした。

前を向くと、少年がしりもちをついて倒れていた。


「ずるいぞ!  我を召喚するなど……卑怯だと何度言えば分かる!」


片手を上げて、大声で喚く。


「こんなん渡してくるアンタの方が悪いんだよ。俺だって元の世界に戻りたいんだ」


俺はノートを広げる。

『神さまを目の前に呼ぶ』と書いたのだ。

未来の影響は神様にも与えるらしい。


「……これだからお主のような勘のいい奴は嫌いなんじゃ」


神さまはため息をついた。

まあ、これで世界に戻る方法は得た。

ここに長居する理由もあるまい。


俺は再びペンを走らせる。

俺を中心に風が渦を巻き始め、ふわりと体が浮かび上がった。


「それじゃ、俺は帰るから。 じゃあな」


俺は肩を落とす少年を見下ろしながら、空高く飛んで行った。




竜巻が発生し、勇者候補は風に運ばれた。

ノートを拾い、ページをぱらぱらとめくる。

そこには『竜巻で元の世界に戻る』と書かれていた。


我はまたこの世界に取り残されたのだ。

たった一人しかいない世界に、何の意味があるのだろうか。


「結局、我が書くしかないのかの」


この物語の未来を描くため、ペンを走らせた。


D.C.

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