17 裏庭の薬草園だよ

 店といっても、最初は低級ヒーリングポーションと練り薬草、あとは適当にいくつか用意すればいいと思う。

 もちろん、色々な商品を置いたほうがいいけど、順次増やしていこうと思う。


「はいマリーちゃん。裏の薬草園を耕してきてください」

「はーい」


 マリーちゃんには畑仕事を頼む。

 メイド服でせこせことくわで耕しに行った。


 ミルルの実、モリス草などの仕入れ担当もマリーちゃんに一任している。


 とりあえずですね、練り薬草をたくさん作ろうと思う。王都では比較的珍しいと言われていたので。

 常備薬にもなるので、一家に五個くらいは置いておくといいと思うんだ。

 だから相当数の需要が見込める。


 簡易錬金釜を出してせこせこ最大容量で量産していこう。

 開店するまでは、こういう日持ちするものを先に作っておくのがベストだ。


 逆にいえば、ポーションは消費期限を考えれば、ぎりぎりの日程で生産するほうがいい。


 看板を発注してあって今、工事の人が設置してくれている。

 木の板に墨で書いただけだけど『ミレーユ錬金術調薬店』だ。

 錬金術だけだと、ちょっとおおざっぱかなと思って調薬と入れてみた。


 もし子供ができて、引き継いでいくことを考えるならバリスタット錬金術調薬店のほうがいいんだけど、苗字は結婚したら男性のものになることが多い。

 それに本人である私は苗字呼びされることがほとんどなくて、もっぱらミレーユと呼ばれているので、そのほうが通りがいいかなと思ったのだ。

 孫のさらに子供とかに『お店の名前はひいおばあちゃんの名前なんだよ』とか言われてみたいじゃない。もう死んでるかもしれないけど。


「あのミレーユさん」

「どうしたのマリーちゃん」


 マリーちゃんが戻ってきた。まだ作業し始めて十分くらい。


「裏庭が雑草ぼうぼうで、どっから手を付けたらいいか分からなくて」

「ああそうだよね」

「はい」


 都会っ子に、草むらの管理とか無理か、そうだよね。

 適当にお願いっていうのも、適当すぎるか。


「分かったわ。一緒にやろう」

「ありがとうございます。ミレーユさん」

「いいのいいの、では出発」


 裏庭に出る。


「まず真ん中やや北側にユグドラシルの木の植える場所を作ります」

「はいっ」

「あとはそれを囲うように、四角く範囲を分けて、うねをつくっていけば大丈夫」

「畝ですね」


 二人で雑草を抜いていく。


「ああ、これとこれとこの雑草。けっこう美味しいから、お茶にするから分けておいて」

「わっかりました。でもこんな雑草でお茶ねえ」

「いい匂いするんだよ」

「そうなんですね。さすが錬金術師様」


 雑草の束ができあがっていく。

 こんだけあれば、商品になるね。まあ一時的な商品でリピーターができても困るんだけど。


 なんとか午前中に雑草抜きが終わった。

 引き続きマリーちゃんには畑の畝作りをお願いしよう。


 工房に戻って、練り薬草を作った。それが終わったら、今度は錬金釜で雑草の葉っぱや種を使ったお茶を作る。


「葉っぱ、葉っぱぁ、葉っぱをると、いい匂いぃ」


 葉っぱを煎るといい匂いになるものや、種をせんじるといい匂いになるものなんかがあって、けっこう楽しい。


 とりあえず用意してある大型の瓶に詰めていく。

 これは開店のときに試飲させて、それから暫定商品だけど売ってみよう。


 便利な言葉「限定販売」。材料が無いからね。あははは。


 ただの雑草だったのに、立派な商品になった。これで少ない在庫も少しだけにぎわうというものです。


 夕方。畑区画も畝がだいたい完成してそれっぽくなった。


「ではマリーちゃん、見ててね」

「はーい」


 マリーちゃんを見学させて、鉢植えのユグドラシルを持ってくる。

 鉢植えをひっくり返して、すぽっと外して、ちょっと外側の根っこを削ったりしてから、掘った穴に、ユグドラシルを植える。


「はい、ユグドラシルの木を植えました。拍手ぅ」


 ぱちぱちぱち。


 私とマリーちゃんだけの拍手が響く。


「この子は今からここが生きる場所です。あと何百年、何千年って育つといいね」

「え、そんなに?」

「そうですよ。すごいでしょ。ユグドラシルの木だよ」

「はい。すごいですね」


 マリーちゃんはユグドラシルのことは詳しくないみたいで、あまり実感もないのだろう。

 まあいいかな。

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