Bar35本目:決戦の地
「それでは皆様、ご武運をお祈りしております。この島からは少し離れた所で船は待機しておりますので、何か有ったら先程ゼンザイ様が仰った方法でお伝え下さい。わたくしも、風の力迄は使えますので」
そう言い残し、俺達を島に下した船は遠ざかって行った。
「背水の陣だな」
「そだね。ね、
ゴクリと唾を飲み込んだ七妃が俺に提案した。
この島はそんなに広くなさそうなので馬車は船に乗せた儘にする事にしたのだが、やる気満々の黒風が鼻息荒く訴えて来たので、連れて行く事にしたのだ。乗馬に必要な鞍や鐙なんかは一応買い揃えてあった物を装着済みだ。
元々は、落ち着いたら乗馬もやってみたいと七妃が言ったから揃えておいたのだが。
「あれ、七妃は乗らなくて良いのか?」
「何度も言うけど、これは勇者ゼンザイの冒険なんだからさっ! あーしは終わってからで良いよっ!」
「何度も言うけど、
何度訂正すれば良いのだろう。
「はいはい、貴方達が仲が良いのは分かったから、乗るなら乗るで早くしてね」
ヴィヴィさんに迄
「さ、
「じゃ、じゃあ、黒風、お邪魔します……」
黒風が頷いたのを確認して、その背に跨る。
視界が高くなり、島の中心地で吹き上がるどす黒い魔力の奔流がさらに良く見えた。
空は黒く染まり、その周りを雲が厚く覆っている。
地面は荒れ、草の一つも生えてはいない。
イメージとしては、『世紀末』と云う言葉がよく似合うだろうか。
「じゃあ、行きますか」
アルーズさんの言葉を合図に、全員で前進を始める。
黒風の背中に揺られていると、何だか自分が大きくなった様な気がする。
あずきボーソードを出し、片手に構えてみる。黒風の体躯的に、剣では心許無い様に思う。
長柄の朱槍などを用意すれば格好も付いた様な気はするけど、リーチは伸びても攻撃力は格段に落ちる。
俺のこのスキルは、あの世界にあずきボーとして存在した事の無い形や大きさの物は呼び出す事が出来ない。前に試してみたけど、出来なかった。例えば目の前の魔物を纏めて叩き潰せる程の大きさの物を出す事が出来れば簡単なのだが、それも出来ないのだ。
精々出来る事と言えば、通常のアイスボーのサイズ、または今手にしている
……『見せる』とは表現したけど、相手は言ってみれば魔力体なので、実際に見ているのかどうかは不明だ。
天を衝かんとする魔力の噴水が地面に落ち、その先に魔製生物が生まれ落ちた。
「行くか、黒風!」
頷いた黒風は、俺を乗せた儘で魔物に突っ込み、踏み潰した。
「ナイス、黒風ちゃんっ!」
後ろから、駆け寄って来る七妃の嬉しそうな声が聞こえた。
同様に幾つもの生物が生み出される。
黒風から降りて、あずきボーソードを構える。七妃も真剣な顔で、フライパンを構える。
アルーズさん達も、グァルドさんも、それぞれ武器を構えた。
「ダメ! ここは大地が死んでいるわ! 声が聞こえない!」
一番後方で構えたヴィヴィさんが叫んだ。
「えっ?! ……あ、ホントっ! あーしも聞こえないっ!」
それを確認したのか、不意に屈んだ七妃も同様に叫ぶ。
(……風さん、本当なのか?)
『えっと……。どういう状態なのかは僕もはっきりとは分からないけど、話が出来ないのは確かみたいだね』
(そうか……)
とすると、この間みたいなサポートをして貰うと、足元が悪い儘で却って不利になってしまう事も考えられる。
襲って来た魔物を、袈裟切りに伏す。
『それに……。僕も……。ここは、邪悪な魔力の濃度が高過ぎるから……』
(分かった。七妃とヴィヴィさんにも伝えておいてくれるか?)
『うん、それは任せて。……ごめんね、こんな大事な時に』
(いや、これは仕方無いさ。それに、魔王を倒すのは俺達の仕事だ)
『頼むよ。前はこの力ももっと弱かった筈なんだけど……。この魔力に覆われたら、僕達も多分……』
(でも、そうだとするとヴィヴィさんは……)
『そうなるね……。僕も少しは大丈夫だけど、殆ど魔力を使った肉弾戦位しか出来なくなるから、守ってあげて』
風が俺の横を吹き抜けて、ヴィヴィさんの方に向かう。
七妃もそれに合わせて、ヴィヴィさんの許に向かい、その横に陣取った。
目が合い、頷き合う。――よし、任せた。
アルーズさんとその仲間のアキノさんにアキラさんと、グァルドさんに俺の5人。――と、黒風1頭。
5人と1頭で、魔物が生まれる端からその存在を消して行き、少しずつ魔力の間欠泉に近付いて行く。
七妃とヴィヴィさんも、そんなに離れ過ぎない距離を保って後を着いて来ている。
本当ならそちらにも人数を割きたい処だけど、中心に近づくにつれて激しくなる邪悪なる魔力の猛攻に、そうしている余裕は無い。前衛を削ると、途端にバランスを崩しそうだ。
幸いな事にヴィヴィさんは体術の心得も有るらしく、魔物がヴィヴィさんに向かって突っ込んでいった処を紙一重で避け、その陰で待ち構えている七妃のフライパンが火を噴いている様だ。
――と、これは俺が目の前に現れる敵と戦いながら見ている訳では無く、七妃の楽しそうな大声が2人の無事を俺に伝えてくれていた。
その七妃の声は、前衛の俺達にややもすると入りがちな無駄な力を適度に抜く役割も、担ってくれていた。
「兄ちゃんの連れ、こんな時でも楽しそうだな! ……っと!」
両刃の斧を振り下ろしながら、グァルドさんが笑った。その斧は振り下ろされる時に1体を倒し、返す刃でもう1体を倒して行く。
「本当ですね! 素晴らしいですよ!」
アルーズさんも槍で突く。これは残念ながらヒラリと躱されたが、引く時に三叉に分かれたその魔力を纏った刃が、魔物を切り裂き、そして消滅させた。
これは、俺も負けていられないな。
「ああなったあいつは最強ですからね!」
あずきボーソードを振り回し、魔物をバッサバッサと切って行く。
――いよいよ噴き出す魔力の足許に着いた時、頭に大きな2本の角を付けた魔物が佇んでいるのが確認出来た。
人を超えた存在である事が伺える。
「こいつが、魔王か?」
「そうかも知れないね。……いや、どうだろう。この勢い良く噴き出している邪悪な魔力こそ、魔王と呼ぶべきなのかも知れないな」
「分かっている事は、こいつを倒さないと、この魔力をどうとも出来ないって事だなぁ!」
叫びながら、グァルドさんが斧を振り翳す。
しかし、魔製魔王はその刃を直前で躱し、グァルドさんを蹴り飛ばした。
吹っ飛ぶ、グァルドさんの巨体。
「グァルドさぁぁぁぁぁん!!」
「俺は大丈夫だ! それより、そいつから目を離すな!」
グァルドさんの無事にホッとしながらも、改めて魔製魔王と睨み合う。
「こいつ、……いきなり強いな」
「本当、いきなりですね……」
今も倒している魔物が本当に雑魚だったんだと思える程に。
この魔製魔王は他の魔物たちとは違い、その魔力の粘度も高い様に感じられる。
若しかしたら、この島が人を寄せ付けなくなった十数年前にこの存在は生み出され、じっと育てられていたのかも知れない。
噴き出す魔力をよく見ると、地上に出て来る瞬間は細く、直ぐに膨張して空に向かって立ち上っている。
そして、その中から一筋の魔力が、常に魔製魔王に繋がっていた。
「あれを切れば、若しかしたら……」
「やっ! もうっ! 来ないでっ!」
その声に七妃を見ると、ヴィヴィさんと2人、数体の魔物に囲まれていた。
そして、前面に集中してしまっている七妃の背後をついて、魔物が――。
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