7.Undo
隈川が施設に入居して、だいぶ日の経った頃のことである。カンファレンス室の電子ボードにあるファイルが表示されていた。
・レポート『経過観察の為の日記』・カンジャ(隈川勝重)(校正済)
第一回レポート 三月十日
僕は【校正施設】で療養を受けています。治療の一環として先生から、自分自身を考察して文章にしなさいと言われました。なんでも僕は、ひどい事件にあったらしく、それで精神に強いダメージを受けて、記憶障害になってしまった様です。
施設のスタッフの方々は皆優しくて、僕が一日でも早く社会に復帰できるように助けてくれます。僕もそれに答えて頑張りたいと思います。依然として、文章を書くことは苦痛を伴います。なんだか、悪いことをしてしまっている気がしてならないのです。
第二回レポート 三月十一日
昨日は、久々に文章を書いたこともあり、思うように書けませんでした。先生からは、これじゃよく分からないから、もっと書きなさいと言われました。もっと多くの字数を書くために、僕の身の回りのことだったり、残っている範囲の記憶について、書こうと思います。校正師の方の先生は、治療をもっと根気強く行えば、失われた記憶も戻ると言ってくれました。ですが、僕は未だ穴抜けだらけの記憶しかないので、今現在思い出せることを書こうと思います。
僕は七月二十日生まれで、現在は三十三歳です。事件に遭うまでは道路工事の仕事をしていました。警察によると、僕は通り魔に襲われたらしいです。危機一髪で逃げられたけどひどいショックを受けてしまって、記憶を失ってしまったとのことです。今の日本は若い労働力が恒久的に足りていないので、一日でも早く社会復帰をして、道路や橋を新しくしたいと思います。
働くという行為は、人間にとって自然なことで、とても良いことです。僕はこの行為を通して、公私共々、文化的で善良なものにしたいと思っています。
第三回レポート 三月十二日
前回のレポートを見た先生がとても褒めてくれました。校正師の方の先生も順調だといってくれました。快方に向かっているようで何よりです。僕はこのことに深い感謝と喜びを感じています。記憶が失われるほどの精神的ショックを受けたにも関わらず、ここまで回復していただいた先生や施設のスタッフの方々には頭が上がりません。このことをお伝えしたところ、
「感謝の気持ちは、労働することで社会に還元すれば良い」
と、先生は仰いました。僕は先生の奉仕的精神に大変感動しました。僕も先生の様に立派な精神の宿主になりたいものです。
さて、僕の記憶のことですが、他にも思い出したことがあります。それは、僕には意中の人がいることです。彼女は警察官をしています。僕よりだいぶ若いのに仕事熱心です。彼女の笑顔はとても可愛らしく、僕はその笑顔を見ただけで、数日は労働への意欲も普段以上に漲ります。
残念なのは、いつ彼女と出会ったか思い出せないことです。とても肝心なことなので、これを思い出せれば良いのですが。恐らく、僕が働いている工事現場の近くをパトロールでもしていたのでしょう。考える限り、彼女との接点を持つ機会はその程度しか考えられません。
今度会った時彼女の名前を聞くことができればなと思います。
第四回レポート 三月二〇日
昨日までの数日間酷い頭痛に見舞われ、まともな思考さえ、はたらかなかったので、しばらくレポートをお休みさせていただいてました。一度快方に向かっていたのですが、私は再び記憶を失った様です。
こうも他人事のように、自分のことを記述するのも訳があります。なにしろ、私は多くの記憶を失ってしまいました。そのため、私は自分自身に関する記憶を何一つ持ち合わせていないのです。それに加え、なぜこのようなところにいるかも定かでないと云うのが実際のところです。
ただ、私の寝起きしている部屋が、病室らしいことや、数時間に一度、清潔そうな白い服を着た人が、私の安否を尋ねることから、どうやらここは病院らしいと判断しました。
私の過去について、看護師や医師らしき方々に尋ねたところ、
「まだその時期でない」
と一蹴されるだけで、明瞭なことは何一つ分かりませんでした。ただ、こうやって文章を書くことが、療養の手段らしいのです。
こういった顛末で、私は訳も分からず、思いついたことを書き連ねています。しかしながら、記憶が失われていると、どうにも書きようがないので、これで終いにさせてもらいたいです。
だい5階レぽト 少しさむい日
じぶんは、病気になっているらしいです。お医者さんが言ってました。
この病気はとてもたいへんな病気なので、直すのがとてもむずかしいとのことだです。
だけど文字をきいぼおどで撃つと直るらしいです。早く治りたいのでがんばって描きたいです。
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