【短編】【焼却炉の魔術師】と呼ばれ、バカにされながらもごみ焼却のバイトをこなしていたら、嫌がらせでバイトを首になり、何故か王子と仲良くなりパーティーに出席する事になった
【大臣視点】王は大臣とダガーを呼んで秘密会議を始める
【大臣視点】王は大臣とダガーを呼んで秘密会議を始める
「ダガーと大臣に来てもらったのは、ブラックローズ家の勢いが落ち、クラフアイスとマリーの許嫁が解消された場合の次の許嫁についてだ」
王は密室にダガーと大臣を呼び、秘密会議を開いていた。
「まだブラックローズの勢いは落ちていないぜ。話が早すぎる」
「いや、もう先を読んでいけば、ブラックローズ家の衰退は見えますな」
大臣は白髪交じりで黒と白が混ざりグレーに見える髪色で、線が細く、有能な執事のような印象の男だ。
ブラックローズ家の当主が倒れた今、ただでさえ衰退は免れない。
それに焼却炉の炎魔術師が居なくなり、王家側に雇用が流れてきている。
もし、蒸気機関計画が進み、自動機織り機が実用化され、物流までうまくいけば、ふふふ、面白くなってきましたな。
蒸気機関計画がすべてうまくいけばブラックローズ家の強みである経済力の力を一気に削ぎ取ることが出来るのだ。
「その通りだ。確かに未来は分からんが、何事もなく進めば王家の力は増し、ブラックローズ家の衰退が起き、クラフの許嫁は解消される」
「そんあもんかねえ」
「ダガー、納得できずともよいが、その前提で考え、意見を言ってくれ」
「分かったぜ」
「次の許嫁はフレイア嬢ですかな?」
「うむ、私はそうしたいと考えているが……女王がな」
「俺も賛成だが、女王が絶対にごねるぜ」
「なるほど、フレイア嬢を許嫁にしたい。しかし女王がごねると?」
「そうだ」
「そういえば大臣はまだフレイアを見てないよな?」
「そうであったか。盲点だった」
「そうです。現状賛成も反対も出来ませんな」
「それでは困る。3人がかりで女王を説得したい」
女王は気が強く、中々折れない。
総員で説得する必要があった。
「今から行ってくるか?俺が護衛するぜ」
「王よ、よろしいですかな?」
「かまわん。すぐ見てきてくれ」
◇
すぐに大臣とダガーは馬車に乗って移動を開始した。
「しかし、行動が早いものですな」
「行動が早いのはこの国の王族も大臣もだろ?俺は大臣の行動が一番早いと思っているぜ」
そう言ってダガーが笑う。
「はっはっは。これは一本取られましたな」
「タワーに着くぜ」
「しっかり拝見させていただきます」
「……って事があって大臣を連れてきたぜ」
タワーに着いた大臣とダガーはクラフアイス王子とフレイアに説明をした。
「よ、よろしくお願いします」
顔が赤くなるクラフアイスとフレイアを見て、確信した。
相思相愛であると。
「フレイア嬢の事は調べさせてもらいました。性格的に問題はないと思いますな。ただ、1つ気になる事はありますな」
「何?」
クラフアイスが少し不安そうに聞き返す。
「いえ、悪い事ではないのです。フレイア嬢の炎の魔術を見せて頂けませんかな?」
フレイア嬢はもしかしたら、伝説の、いや、まだ見てみなければ分かりませんな。
フレイアは火炎球に炎魔術を放つ。
「ハイファイア!」
火炎球が炎をまとう様に燃え、火炎球が炎の魔力を吸収し続けていた。
「おお!これが消えない炎ですな」
「時間が経てば消えますよ」
「それはどのくらいの時間で消えるのですかな?」
「う~ん、1時間以上は持つと思います」
「炎の、聖女!」
「ん?大臣、どうした?」
「いえ、まだ確信が持てません。帰りますぞ」
「大臣、もういいのか?」
「もう充分です」
クラフアイスとフレイアは不思議な顔をして大臣とダガーを見送った。
◇
フレイア嬢は聖女の可能性がありますな。
すぐに会議を再開せねば。
大臣は強引に王とダガーを呼んだ。
「で?大臣、また集まった理由を聞きたい」
時間は夜中で日付が変わろうとしていた。
「非常識な時間なのは承知しておりますぞ。ですが、フレイア嬢は聖女の可能性があります」
王の表情が変わった。
ダガー殿だけは「聖女?」と良く分からない顔で私を見た。
「古い伝承で、国を【滅ぼす者】が現れ、その者の体は大きく、剣で切っても体が再生し、矢の雨を浴びせても倒しきること敵わず、絶望しかけたその時、炎の聖女が現れます」
「炎の聖女は聖なる炎、【ホーリーファイア】を使い、消えない炎を【滅ぼす者】に放ち、7日間かけて毎日のように【ホーリーファイア】を放ち、誰も倒す事が出来なかった【滅ぼす者】を完全に燃やし尽くした。という伝承があるのです」
「大臣、話は分かったが、納得できない点はある。フレイアは【ホーリーファイア】を使えない」
「私もその点は考えました。ただ思うのです。ファイアの上位魔術にハイファイアがあり、さらにその先に【ホーリーファイア】があるのでは?と思えたのです」
「大臣お話を聞いていると、ありそうな気がしてきたぜ」
「確かに【消えない炎】という点では伝承と一致している」
「結論が遅れましたな。私はクラフアイス様の許嫁は現状フレイア嬢しかありえないと考えます。協力しますぞ」
◇
王は大臣という強力な味方をつけ、女王に対して説得工作に乗り出した。
特に大臣はやる気に溢れ、綿密な準備を進めて女王説得の日を迎えた。
「王と大臣とダガーだけ?何の会議を始めるのかしら?」
「ブラックローズ家が没落し、クラフアイス様とマリーの許嫁を解消した後のクラフアイス様の許嫁の話です」
「その話はまだ早いわよ!後でいいわ!」
「いいえ!大事な話ですぞ」
「大体まだブラックローズ家は没落していないじゃない!」
「お判りでしょう。このまま行けばどうなるか?クラフアイス様とフレイア嬢の作った蒸気機関計画が成功すれば、ブラックローズ家は衰退し、王家の力は増します」
「まだ先の話よ!」
「では、このままクラフアイス様とマリーの許嫁を解消する準備を進めないと言う事ですかな?あの腹黒いマリーとの婚約破棄を進めず!このままマリーにクラフアイス様が取られるのを黙って見ているという意見でよろしいですかな?それが正式な意見と言う事でよろしいですかな!?あのマリー相手に何も手を打たないと?早めに準備を進めねばマリーの策略によってクラフアイス様を取られますぞ!なんせマリーは没落してもどんな手を打ってくるか分からぬ恐ろしい相手!」
「婚約破棄は進めるわよ!!でも次の許嫁の話はまだ先よ!大体婚約破棄もまだじゃない!まだ婚約破棄がうまくいっていないのに進めるのはおかしいわ!」
「よろしい、では次の段階に進みます。婚約破棄を進めると言う事は蒸気機関計画がうまく進む前提で話をすると言う事になりますな」
王とダガーは大臣と女王のバトルをただ見ていた。
竜と虎の戦いに入り込む余地が無いのだ。
「でも、
「……クラフアイス様を手放したくありませんかな?」
「大臣、私は許嫁の話はまだいいと言ったのよ!」
「いいえ!女王様は生まれた時から見てきました!その尖った口、その態度!お見通しですぞ!」
「だから言ってないじゃない!」
「よろしい。では許嫁はまだいいという正式な理由をお教え願いませんかな?私としましては、クラフアイス様は学園を卒業し、結婚を考える頃合いかと思っております」
「私も同意見だ」
「俺もだぜ」
王とダガーはなんとか援護射撃を挟み込んだ。
これがギリギリ限界の援護なのだ。
「クラフは今蒸気機関に夢中よ。大事な時なのよ。恋なんてしている暇は無いはずよ」
「なるほど、確かに蒸気機関計画は重要ですな。しかし、いつまで続けるのですかな?」
「意味が分からないわ」
「これは失礼。いつまでクラフアイス様を結婚させず、手元に置いておくつもりですかな?クラフアイス様が40才になるまでですかな?それとも50才になるまでですかな?そうやっていつまでも結婚できぬまま、手元に置いておくつもりですかな?」
「そ、それは、もうちょっとよ」
「ですから、もうちょっととは何才までですかな?クラフアイス様の子を見たくはないのですか?」
「そ!それは……」
「さらに言いますが、クラフアイス様とフレイア様の様子を見に行かせていただきましたが、あの2人は相思相愛ですぞ。フレイア様は優しく、器量良しの逸材!このまま女王が邪魔をすればフレイア嬢が他の男に取られかねませんぞ!クラフアイス様の失恋を見届ける趣味がおありですかな?悲しむ顔を見たいのですかな!?」
「く!」
「もし今後、女王がお二人の仲を邪魔するようなら、私がクラフアイス様に告げ口いたします」
「お、俺も言うぜ。俺はクラフアイスの側近で裏切ることは出来ないからな」
「私も言おう。お前に嫌われようがこの件だけは関与させてもらうつもりだ」
「3対1はずるいわよ!それにやる事が陰湿だわ!」
「何を言っているのですかな?私はただクラフアイス様とフレイア嬢の仲を微力ながら応援したいという良心から来る善意で申し上げております。陰湿なことはせず、ありのままをクラフアイス王子に伝えると申したまでですぞ!まさか!女王は裏で妨害工作をするおつもりですかな?」
女王は大臣を睨みつける。
「1つ言い忘れておりました。クラフアイス様の子と、女王の子が産まれましたら、そのお2人が結婚する可能性もございます。クラフアイス様の子と我が子を可愛がり、成長したお子が互いに結婚し、子を産めば、愛でる対象が増えますなあ」
大臣は女王の顔をじっくりと観察する。
次のプランに移りますかな。
「少し休憩して、今から紙芝居を行いたいのです。喧嘩になってはいけません」
「そ、そうね、休憩は必要だわ。紙芝居というのが唐突すぎるけど、休憩よ」
しかしその紙芝居こそが大臣の必殺技である。
大臣の紙芝居の途中で気づく。
この紙芝居の主人公はフレイアだ。
女王はフレイアの経歴には目を通していた。
しかし、それはあくまでただの情報。
大臣はフレイアの苦悩を紙芝居にして女王に見せたのだ。
感情を載せた情報を届け、女王に訴えかける!
幼い頃帰ってこなかった両親。
隣に住むおばあちゃんに拾われ、愛を与えられながら貧しく過ごす。
必死で勉強しつつ焼却炉でバイトする苦労。
そしてその後学園に受かり、いじめられ、学園を追われ、バイトを首になりおばあちゃんと抱き合って号泣する所で絵本は終わる。
「大臣の言いたいことは分かったわ。……認めましょう。今日は疲れたわ。休みます」
女王は自室に戻る。
扉を閉めるとそこから叫び声が聞こえる。
「なんていい子なのーーーーーーーー!かわいそうすぎるわよおおおお!!!」
兵士が女王の部屋に集まるが、王が「いつもの発作だ」と言って戻らせる。
「大臣、お疲れ様だったぜ」
「その大臣、お疲れ様だったが、あまりにも容赦が無かった」
「相手は女王。このくらいは必要ですな。さ、今日は皆休みますぞ」
大臣はやりきったような顔をして去っていった。
「大臣、強すぎるだろ」
「うむ、大臣だけで言い負かすことが出来たかもしれん」
「しかも、聖女の件を言ってなかった」
「切り札を残したまま、大臣の圧勝か。頼もしい限りだ。大臣が居る限り内政は安泰だな」
こうして、クラフアイスとフレイアの知らぬ間に、強敵が膝を折っていた。
残す障害はマリーのみである。
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