愚図な上に地味で役立たずだと言われた長女は魔術の師匠に溺愛されている

gacchi

第1話 食事も一苦労

伯爵令嬢ではあるが、9歳になったレティシアの生活は令嬢とは程遠いものだった。

毎日、自分のことは後回しにし、双子の妹の面倒や家の仕事を優先していたから。


今日もまた我慢することを知らないアリスとセシルに振り回され、

空腹をこらえながら動き回っていた。



「これ、やだ。」


「ありすもやだ。」


食べさせようとしたニンジンのマリネをセシルが手でつかんで床へと捨てた。

それを見て、もう一人の妹アリスも皿にあったマリネを投げ捨てる。

あきらめたレティシアはため息をつきながらも、他の物を食べさせようとする。

だが、一度食事に飽きてしまった二人は、もういらないと椅子から下りてしまった。


目の前の料理は食べ散らかされ、半分も減っていない。

これで満足したのであればいいのだが、

二人とも後でお腹が空いたと言って騒ぎだすのがいつものことだった。


4歳の双子の妹たちは、小さく産まれたためかどちらも成長が遅かった。

双子を産んだ義母は出産時の傷が治らず、しばらくは寝たきりの生活になった。


そのため、双子を育てたのは侍女だったのだが、

年老いた侍女が一人で双子の面倒を見るのは無理なことだった。


本当ならレティシア付きの乳母や侍女たちもいたのだが、

実母の嫁入りと同時に辺境伯爵家からついてきた使用人たちを、

義母が嫁いできて早々に追い出してしまっていた。


領地経営がうまくいっていないこともあって、伯爵家は生活が苦しかった。

だから新しい侍女を雇うお金も無かった。


仕方なくまだ5歳だった長女のレティシアも双子の世話を手伝い始めたのだが、

そのままの状態でもう4年もこんな生活をしている。


義母は起き上がって普通の生活ができるようになった後も、

全くと言っていいほど双子の面倒を見なかった。


後妻で嫁いできた元伯爵令嬢の義母が言うには、

子育てなど使用人の仕事であって伯爵夫人の自分がする仕事ではないという。


その言葉は嘘ではないが、ここバルンディ伯爵家は貧乏で使用人の数が少ない。

長女のレティシアが双子の面倒を見なければ、

成長の遅い双子はここまで育つことなく亡くなっていたかもしれない。


だが、夫人はそのことには全く気が付いていなかった。



今日もわがままばかり言う双子になんとか食事をさせ、

侍女が散らかった床を片付けている間に、ようやく自分の食事をとっていた。


そのころ食事が終わった双子は部屋を飛び出して、

とっくに食事を終わらせてお茶を楽しんでいた夫人のところにいた。


「あら、アリス、セシル。レティシアはどうしたの?」


「れてぃはしょくじしてる。」


「うん、まだたべてた。」


「まぁ…あなたたちが食べ終わっているのに、まだ食べているの?

 本当にあの子はのろまなのねぇ。」


いつでも双子を優先させているために、自分を後回しにしているレティシアは、

夫人から見たらぐずぐずしているようにしか見えなかった。


先妻の娘ということであまり近づきたくなかったのだろうが、

愚図でどうしようもない長女、それが夫人から見たレティシアだ。



「本当に…あの子は困ったものねぇ。」


「れてぃはこまったこ?」


「そうよ、あんな風にダメな子にならないでね。」


「せしるはだめなこにならないよ!」


「ありすもならないよ!」


元気よくそう言った娘たちに安心して夫人は刺繍を始めた。

それを見ていた双子はすぐにあきてしまい、庭へと走っていった。


双子がドロドロになって遊んだ後、そのままの格好で部屋に戻ってきたため、

廊下が泥まみれになってしまったのだが…。


それを掃除していたレティシアを見た夫人が思ったのは、

またレティシアがドジをして廊下を汚したのね、だった。





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