第32話
「到着しました」
辿り着いた場所は巨大なタワマン。
「でかいな……」
「そうだな」
高校生ながら割と稼ぎがある俺たちも、基本はただの庶民なのでただ圧倒される以外に感想が湧いてこなかった。
「では行きましょう」
「ああ」
「そうだな」
完全に呆けていた俺たちをMIUが現実に引き戻してくれた。
「海、先に行っててくれる?鍵を車に置き忘れてきたわ」
「うん」
そして先にエントランスに居たMIUのお母さんは、鍵を忘れたらしく駐車場に戻っていった。
代わりにMIUがエントランスを開け、部屋があるらしい12階へと連れて行ってくれた。
「なあMIU。写真撮っても良いか?」
エレベーターを降りると、まるでホテルのような内廊下が広がっていた。
タワマンなんてめったに来る機会は無いので、折角だからと聞いてみた。
「構いませんが、念のためそのまま使うのは避けてくださいね」
「当然だ」
MIUと俺の関係性が読者に知られることは無いだろうが、万が一のことがあるからな。
俺は同意が取れたので、スマートフォンを取り出してカメラを起動した。
「なあMIU、結構時間かかるだろうから先に行くか?」
「いえ、待っておきます。どの道お母さんが来るまで時間かかりそうですし」
「なら良いか」
それから10分程廊下を撮影し、十分に資料が確保できたタイミングでMIUのお母さんがフロアにやってきた。
「お待たせしました」
そしてお母さんに案内されて部屋に入った。
「こんな家実在するんだな」
「ああ」
中はテレビやネットで見られるようなモデルルームみたいな部屋だった。
俺たちの家のような生活感が感じられる道具は一切存在せず、本当に住んでいるのか疑わしいと思ってしまうレベルだった。
「とりあえずそこに座ってください」
「ああ」
「はい」
MIUに言われて座ったソファは今まで味わった事が無いレベルでふかふかだった。
「なあMIU」
「なんでしょう?」
「もしかしてこの家ってMIUの稼ぎで買ったのか?」
俺たちの正面に座ったMIUに正直に思った事を聞いてみた。
「いえ、私は一銭も出していませんよ。全てお母さんの稼ぎです」
「本当なのか?」
「はい。親子で住む家なのに子供がお金を出すなんて事はあってはならないって」
「それなのにこの部屋を買ったのか。カッケえな」
美琴はキッチンでコーヒーを注いでいるお母さんを見ながら感心していた。
「私もそう思います」
「お待たせしました」
そしてコーヒーを注ぎ終わったお母さんが何も持たずに戻ってきた。
「コーヒーは?」
「あっ、忘れてた。取ってきますね」
「良い。私が取ってくるから」
そう言ってMIUが席を立ち、キッチンからコーヒーを持ってきて俺たちにくれた。
「「ありがとうございます」」
「それでは改めまして。海の母の南雲玲名です」
「こちらこそ。劇団ロマンスの椎名美琴だ」
「漫画家をやっているなみこです。本名は橋田剛と言います」
「今回はわざわざありがとうございます」
「いえ。こちらこそこんな素晴らしい家へ呼んでいただけてありがたいです」
流石に写真撮影はしないが、金持ちの住む家の良い参考資料だからな。
「今回は色々とありがとうございました。劇団の方でも無いのに熱心に練習に付き合ってくださったとか」
「元々劇団員でしたから。寧ろ劇団から離れていたのに超実力派女優の演技に間近で見る機会を得られて光栄でしたよ」
「そう言っていただけると幸いです。で、お礼の品なのですが、ちょっと待ってくださいね」
お礼は要りませんと制止しようとしたが、その前に玲名さんは席から立ちあがり、リビングから出ていった。
そして、何故かこの家から出ていく音が聞こえた。
「なあMIU、あの人は一体どこに行ったんだ?」
この家に外付けの倉庫なんて無かった気がするが。
「隣の部屋ですよ」
するとMIUがそう答えた。隣の部屋?
「まさか、この家の隣の部屋って意味か?」
そんなものあったかと記憶を巡らせていると、美琴が馬鹿げたことを言い出した。そんなわけないだろ。
「はい。荷物は大体そこに置いているので、取りに行ったんじゃないですかね」
すると、MIUはなんとそれを肯定した。
「なあ、もしかして剛が写真を撮っている時に誰も居なかったのって……」
「はい。このフロアは私達家族以外住んでいないからですね」
「「そんな馬鹿な……」」
俺たちはさも当然のように帰ってきたMIUの答えに頭を抱えた。金持ちって騒ぎじゃねえぞ……
「父が会社の社長で、母は……っと帰ってきましたね。戻ってきてから説明しましょうか」
「お待たせしました」
そう言って戻ってきた玲名さんは、段ボールが3箱乗った荷台を持ってきた。
驚きは1つずつにしてくれ。あの漫画家でも流石にこの2つはキャパオーバーだ。
「これは何でしょう……?」
どう考えても持ち帰ることが出来ない事は置いておくとして、とりあえず中身を聞いてみることにした。
「開けてみてください」
そう言って玲名さんが段ボールを一つ降ろそうとしていたので、代わりに俺が降ろした。
そしてカッターを受け取り開いてみると、
「パソコンと、これは……?」
中に入っていたのは持ち運べない方のパソコンと、謎の白い箱。
「液タブです」
「液タブとは……?」
タブってパソコンで検索するときに上にあるアレだよな……?それの液?
「液晶タブレットの略で、パソコンを使って絵を描くときに使う道具の一つです」
「ああ、ペンタブレットの事ですか」
それなら聞いたことがある。なるほど、それの1種なのか。
「剛さん、漫画家ですよね……?」
すると玲名さんは何故か呆れた表情でこちらを見てきた。
「誰がどう見ても漫画家ですよ」
何を言っているんだ。
「こいつ、重度の機械音痴なんだ。一応スマホは持っているが、カメラと電話以外の機能は殆ど使えないレベルだ」
そして何故か美琴が謝罪していた。俺は別に悪くないだろ。
「写真アプリも使えるし、メールもちゃんと使える。馬鹿にしないでくれ」
「まあ、この通りってわけだ。察してくれ」
「大体分かりました。説明ありがとうございます、美琴さん」
「別に良いよ」
「で、どうしてこんなものを私に……?」
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