第2話

 ただ、美琴の標的が幸村に移ってしまったらしい。良いぞ。


「えっと、僕男だよ?ね?」


 今美琴が王子キャラであることを理由に上手く切り抜けようとする幸村。素晴らしい受けだ。


「丁度いいじゃないか。私は女だ。性別学上は真っ当な関係だと言えないかい?もっとも、精神的には逆かもしれないけれど」


 それでも構わないと言わんばかりに距離を詰める美琴。なるほど、女という設定のまま王子様を演じさせているのか。ただシンプルな王子だと思っていたが、これは良いな。


 来週あたりに登場させてみるか。


 とメモしている間に二人の距離がキスをしそうな所まで肉薄していた。


「へ、あ、その、」


 やっぱり駄目だったか。あまりのイケメンさに幸村はショートしてしまったらしい。


 耐性が無いのに止めに行くからこうなるんだ。


「美琴、それまでにしてやれ」


 俺は席を立ち、今にもキスしようとしている二人の元へ向かい、引き離した。


「もしかして嫉妬かい、剛君?大丈夫だよ。安心して、君は私の幼馴染であり、一番大事な人だからさ」


「うん、そうか。俺もお前の事は一番大事にしているぞ。これからも仲良くしてくれると助かる」


 いくら美琴がイケメンだからといって、俺にダメージが入るわけがない。


 なにせ俺は恋愛系に特化した漫画家だからな。こういった事柄を誰よりも経験してきている。そんじょそこらの人間とは場数が違う。


「そ、そうか。嬉しいよ、うん」


 俺のカウンターのお陰で本来の性格が半分だけ戻ってきたらしく、口調は王子様のまま恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


 流石にクラスの女子にあんなムーブをかましたら恥ずかしいよな。


「とりあえず席に着け。授業が始まるぞ」


「ああ、そうするよ」


 だが完全に元に戻ることは無かったようで、何事も無かったかのように席に戻っていった。



 そして、3時間目、バレーの授業にて。


「はっ!」


「「「キャー!!!!」」」


「ありがとう、皆。君達の声援のお陰で私は頑張れているよ」


 背後から一人の女子の声と、数人の女子の歓声が聞こえてくる。


「相変わらず授業になってないね」


「だな」


 ネットを遮った反対側で女子がバレーをしているのだが、美琴がカッコいいプレーをするたびに女子は完成を上げている。プレー中であっても。


 ダイビングレシーブをしたら全員が止まり、アタックをしても全員が止まる。絶対に次が無いのだ。


 せめてダイビングレシーブをした後の味方は相手コートに返すために動けと思う。


 だが一応脳内にメモをしておこう。もしかしたらバレーをさせるかもしれないからな。


「ただそのお陰でこっちは健全なバレーが出来ているんだけどね」


「俺としては不健全なままでいてくれた方がやりやすいんだがな」


 女子側があんな有様なのでアタックで胸が揺れるとかレシーブがエロいとかいうあるあるなイベントが発生しないことが確定していないため、男子は女子の方に見向きもせずにバレーをしている。


 そのためプレーのレベルが高すぎる。体のデカさだけで頑張ってきた俺には割ときつい。


「トスこっちに!」


「あいよ!」


「ふんっ!!」


「「「あっ……」」」


「よっしゃあ!」


 いや、こっちもこっちで駄目みたいだ。


「やるな、幸村。もっと高く飛ぶと良いぞ。ブロックが綺麗を上から抜いてみてくれ。目指すは小さな巨○だ。何ならブロックも挑戦してみると良い」


「そうだね。体もあったまってきたしやってみようかな」


「それっ!」


「「「あっ……」」」


「はあっ!!」


「「「あっ……」」」


 どうやら幸村が可愛すぎて、男子達は腹チラに動揺を隠せないみたいだ。


 男なんだがな。




 それからも美琴は1日中イケメンイベントを起こしていた。


「いやあ、良い1日だった。これで新キャラもばっちりだな。お陰で今月の原稿は早めに完成しそうだ」


「それは何よりだね……」


「疲れているけどどうしたんだ?」


「今回の椎名さんは僕にとって火力が高すぎるよ……」


 いつもの役と違ってちゃんと設定で女だったため、男である幸村はいつも以上に標的にされていた。



 今月分の原稿は1週間以内に全て完成し、編集に感謝された。





 原稿完成から2週間後、休み時間にて。


「飽きたな」


「急にどうしたのさ」


「いや、美琴のあのキャラは変わり映えが無くてな」


 3週間前のキャラ変以降、一切キャラに変化が生まれることは無かった。今回は台本を読み進めてもキャラがぶれるタイプでは無かったらしい。


「キャラがぶれないのが普通だと思うんだけど」


「師匠の作ったキャラだぞ?普通何かギミックが仕込まれていると思うんだが。例えばどこかの国のお姫様でしたみたいな」


「それって劇としてどうなの?」


「師匠だからそれでも面白くしてくるぞ」


「女性なのにイケメンだっていうのを売りにしていたのに実は可愛らしいお姫様でしたって流石に幻滅すると思うけど。女性人気の方が高いんでしょ?」


「そんなことは無い。顔が良いからな」


 美形はどれだけキャラがぶれようと素晴らしい。


「確かにそうだけどさ……」


「とりあえず美琴のキャラを掘っていくぞ」


「僕も?」


「当然だろ。付き合え」


「えー……」


「今月の給料2割増しでどうだ」


「乗った」


「じゃあ昼休み、行くぞ」


 味方も一人増えた所で、新たな一面を見つけるべく、昼休みを待った。


「美琴、飯食いに行くぞ」


「珍しいね、剛君。昼休みにご飯に誘うなんて」


「たまにはな。さっさと屋上に行くぞ」


「良いよ。行こうか。子猫ちゃん達、またね」


「「美琴様~!!」」


「ほら、幸村も」


「オッケー」


 俺たちはあっさりと美琴を屋上に誘い出すことが出来た。

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