5.盗掘仲間

隙間風の鳴る物置のボロ小屋で、

イタリア語の古新聞を読んでいると

扉が叩かれ、少年が覗き込む。



「連れてきたか。」



「へぇ。」



この赤髪の少年は、仲介業者の盗掘仲間だ。



スコットランド訛りの英語を使うが、

口が固いので重宝している。



道具を持って外に出ると、

少年の後ろにハゲ頭の大男が立っていた。

体臭が酷く、5歩先まで臭ってくる。



少年がつたないドイツ語で、

俺との仕事内容を説明している。



「さっさと行くぞ。」と、

俺はわざとフランス語で指示した。



仕事には決まって外国人を使う。



墓を掘り返すのは肉体労働なので、

当然ながら多くの言葉は必要ない。

違法行為なので、外国人は勝手がいい。



この外国人が他所で捕まったとしても

決して惜しむ人材ではないし、言葉の壁のお陰で

英国人の俺にまで捜査の手は伸びない。



そして失敗はありえない。



失敗は依頼主にまで、影響を及ぼすからだ。

失敗は信用を失い、仕事を失う。

すなわち俺の死に直結する。



少年時代に仲介業者エージェントから教わった。



それから賃金。

墓荒らしは決まって成果払いだ。



違法ではあるが、儲かると思われては困る。

現金は出せない。現物支給が条件だ。



報酬は『特効薬ローダナム』の小瓶。



ケシの実から採取・合成され、

鎮痛効果があるので万能薬とまで謳われ、

これさえあれば高い医療費を払わずに済む。

そんなはずはないが、信じてる者は多い。



一般に出回っている安い薬だ。

仕事にあぶれ、路上で寝ている外国人は

こんなものも買えないほど、困窮していた。

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