墓穴を埋める

下之森茂

1.墓地

濃い霧が、墓所へと流れ、

街のかすかな臭いを運ぶ。



ロンドン北西部の森林地帯を拓いて近年作られた、

ハイゲイト墓地に植えられた木々は朱に染まり、

墓石が落ち葉の血溜まりに埋まる。



俺は墓石を埋める落ち葉をかき集め、

今日も黙々と掃除に励む。



人間、仕事は選べない。

俺は墓守の手伝いをして、

かれこれ20年になる。



19世紀も半ばになると経済成長だかで、

景気はよくなり都市部に人が集まった。



人口が増えれば当然、死者も増える。

死者が増えると埋葬地が足りなくなる。

そんな理由でできたのがこの墓地だ。



ロンドンには仕事を求めて余所者が集まる。



俺も15歳のときに身寄りを失いここへ来たが、

年の近かった弟はすぐに死んでしまった。

こんな霧の深い日だった。



墓守の仕事は墓地の掃除だけではなく、

名前の通り、墓荒らしから墓を守ることだ。



ただ、墓守などという仕事は、

生産性がないので一生低賃金であり、

まして楽して金を稼ぐ仕事とはほど遠い。

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