第4話 「誕生日」

 

 ホテルのパブにはたくさんのお客が入っている喧騒の中で、メモ用紙を広げて書き物している姿は不思議な光景である。ただ、この光景を変に思っているのはこの空間の中でも私ぐらいだろう。



「私にも、気になっているページを見せてもらってもいいかな?」

「ええ、たぶんこのページとこのページ…この辺かしら。あ、手袋はこれを使ってください。」

そういえば、ウエストミンスター寺院に書かれていたダーウィンの墓石にはこう書かれていた。自分もアリスのようにメモをとる。





born 12 february 1809





この羅列を見ながら、アリスに話しかける。

「アリスさん、この羅列だったら、足りない文字のところにこのいずれかの文字を入れてみると何か変わるんじゃないでしょうか?」

「そうだと思ったいるんだけど、文字を消すのと違ってどこに入れればいいのかわからないのよ」

その通りだ。今回はかなり自然な文やメモが多い。そこに文字を足してもあまり変化がない。そして、見当をつけているページが複数ある。これは、前回より難易度が高い。

「私は後ろのページから見ていきますね。」

「ありがとう。ジェームズ」




夜も更けてきた。霧の雨が降り、街灯がいつも以上にキラキラと輝いている。パブのお客も客室に戻り、静かになってきた。

「アリスさん、そろそろ戻りましょうか」

「そうですね。頭を使いすぎて疲れましたね」

そういうと私たちも客室に戻ることにした。





 明け方、未だに外は雨が降っている。どんよりとした雰囲気だ。身支度を済ませて降りると、すでにアリスがいた。

「おはようございます。ジェームズさん、よく眠れましたか?」

「ええ、私も頭をかなり使っていたようで、それか飲みすぎていたのかもしれませんね」

そういうと少し和やかな雰囲気になった。

 


 あたたかいベーグルにコーヒーを飲みながら、ホッとした気持ちになる。一息ついてこう切り出した。

「思ったんだが、やはりあのページが怪しいと思うんだ」

私はアリスに、ノートを出すように催促し、あるページを指摘した。他のページとも対して遜色はないが、確かに文字が入りやすい自然に入りやすい気がする。



 しばらくすると、不要な単語を意識しないで見たり、文字を足したりした。そして数字の羅列になった。この数字の羅列は、図書分類法に基づく数字であることは、明らかであった。本を探すときにはこの数字を目印に探すことができるのである。

「ジェームズさん。これは当たりですよ」

「やはりそうか。さすがアリスだ…」

「ありがとう。ジェームズさん。早速レン図書館に行きましょう」




 レン図書館に着くと、配架されている順番に気をつけながら指定された数字の場所を探すことにした。何度も行き来するが、見当たらない。

「やはり勘違いだったのでしょうか」

「必ずあるはずです」

 私もアリスも必死に探す。しかし、なぜこんなにも見つからないんだ。誰かが借りているのか。本が元の場所に戻されていないのか。焦りが込み上がってくる。




 思わずため息をつきながら、顔を上げるとそこには胸像が置かれていた。その胸像をよく見てみると少し違和感があった。なぜなら、他の胸像は真っ直ぐなのに少し斜めになっており、さらにいうと目線も不自然である。視線の先をよく思い出してみた。

「アリスさん、これだけ探してもないんなら…」

「そうですね。もう一度文章を読み解いて…」

「いえ、その、受付で問い合わせて確認してみてもよいのではと…」

アリスの目は大きく見開き、口は塞がらなくなっていた。確かに私もそんな気分だ。しかし、私の表情といえば、どこかニヤついた怪しい顔であっただろう。







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