クエスト18/そして部屋は開かれた(なお)



『ここでお預けは辛いんだが?? はよお前にディープキスしたりおっぱい揉みしだきたい』


『そりゃわたしもアンタに抱かれたいわよ? でもその前に意見は一致させておくべきでしょ』


『…………オレはナマでしたい!!』


『このおバカ!! 妊娠したらどーすんのよ!! 高校中退とか嫌だからね!!』


 事態は緊迫していた、避妊したい理子と欲望オンリーのアキラ。

 残念ながら平行線、セックスに至ろうとする今、欲情しつつある体で喧嘩が始まった。


『だいたいさぁ、あの天使が作った部屋よ? うっかりナマでして命中したらどーすんのよ!! まだわたしもアンタも学生なんだし責任取れるって言うの!!』


『結婚は勿論するし金稼いで出産費用も養育費も稼ぐ!! その方法はこれから考える!!』


『実質ノープランじゃない!! ナマでしたいだなんて就職して結婚してから言いなさいっ!!』


『ええ~~……ナマでさせてくれよぉ、折角の初めてなんだし安全日とかいう大丈夫な日があるって聞くぜ??』


『天使によって安全日が危険日だったらどーすんのよ!! そもそも少子化対策の部屋でしょコレっ!! アンタとはセックスしたいけど……今は妊娠する気ないっつーの!!』


 然もあらん、初めてで妊娠とかちょっと人生激動すぎる。

 正直な話、子供の少ない田舎暮らしだし、周囲にははよ結婚して子を産めという時代錯誤な風潮も一応はある。

 実際、妊娠したら双方の両親親族ともにお祭り騒ぎで祝福してくれるだろう。


『……確かに、お前の気持ちは分かる。オレにもちゃんと伝わってる、けどな……伝わってるだろ? オレの気持ちも』


『は?? いやアンタさぁ……「無理矢理にでも孕ませてオレの女にしたい、骨の髄までオレの女にしたい、オレのチンコでメロメロにしたい、孕め、絶対に孕ませる、ナマでヤったら絶対気持ち良い」って、――独占欲と性欲の固まりじゃないの!! わたしへの思いやりは何処やった!!』


『………………丁寧にクンニとかしてじっくり濡らしたら、処女を奪う時でも痛くない』


『そっちの思いやりじゃない!! このクソ童貞が!! 精子を頭に詰まらせてるんじゃないわよっ!!』


 うがーと、彼女は怒っている。

 だが言っている事は道理だ、アキラはとても反論出来そうにない。

 ならば、譲るのは誰かなんて明白だ。


『オレとしてはナマでしたい、だが……お前を傷つけたくない、妥協……すべきなんだろうな』


『当たり前でしょ、そりゃあさ、わたしの体がアンタにとって魅力的で、誰にも奪われたくないってマーキングしたいのは理解出来るけどさ。……子供はまだ、早いと思うの、だってまだまだ子供でしょアキラも、わたしも』


『スマン、ちょっと冷静じゃなかった。――嗚呼、理子は本当に良い女だな、こんな素晴らしいヤツを口説かなかったなんて部屋に来る前のオレはどうかしてた』


『ちょっ、ちょっといきなり口説かないでよ!? …………嬉しいけど、うん、あんま誉めると何でもしてあげちゃいたくなるから、その、誉めるなばーか』


 コンドームを握りしめながら恥ずかしそうに視線を反らす理子に、アキラとしては至福しかない。

 どうして彼女は、こんなにも魅力的なのか。

 宇宙の最も大いなる謎である事に、間違いないだろう。


『好きだ。愛してる。この世で最も輝いてる女はお前だ。愛おしくてたまらない、嗚呼、どうして理子はそんなに可愛いんだ……』


『だ、だからぁっ!?』


『聞いてくれ、お前のその髪は美しく思える、綺麗に見えるように日々ちょっとずつ変化を付けたり、時には切りそろえたり、そうする努力は……オレの為だったって、誤解しても良いか?』


『っ!? ぁ、ぅ……』


『お前は胸が大きいから、だから少しでも太って見えないように体重に気をつけたり、可愛い下着を買う金を為に家の手伝いを頑張ってるの、凄く立派だと思う。――そんな、お前の努力の結晶である体に触れても良いなんてさ……お前に好かれてるって、自惚れてもいいか?』


 ばすばすと理子は枕を掴んでアキラを殴る、彼はそれを甘んじて受けながら真剣な目をした。

 まだ言い足りない、もっと彼女に伝えたい。


『前に化粧の濃さを聞いてきた事があったよな、それってオレの好みに合わせてくれてるって、そうなんだろ? 嗚呼、綺麗だ、いつも手入れを欠かさないその肌は何より綺麗だ』


『う゛~~っ…………ばか、ばかばかばかぁ』


『お前の瞳を気に入ってる、いつもオレを見て、喜びも悲しみも全部全部、まっすぐに伝えてくるその目が』


『言葉に……しすぎ、ね、もう恥ずかしくて死にそうだから止めよ? 嬉しくて死んじゃうから、もうこの世で最高の女なんだって勘違いしちゃうから、ね?』


 潤んだ目で懇願する理子の手を握り、アキラは首を横に振った。

 まだだ、まだ色々言いたいことがある。


『声も好きだ、実はさ……今まで言わなかったけど、オレはもう目覚ましで起きれないんだ、お前の元気な声で起こされないとダメなんだ、嗚呼、お前がオレの名前を呼ぶその声色が好きなんだ、時に甘く、時にとげとげしく、でも、親しみある温もりで呼んでくれる声が、……愛してる』


『…………新手の羞恥プレイよこれ、へんたい、アキラのへんたい』


『何より……お前の心が好きだ、いつも前向きでオレを励ましてくれるお前の心が、オレを受け止めてくれるお前の心が、オレの側にいてくれる理子を何より嬉しく思う。――――オレは、お前に愛される資格があるのか?』


 嗚呼、とため息が漏れた、だってそうだ。

 アキラが理子にしてやれたのは、どれだけの事だっただろうか。

 ただ漫然と側にいて、側に居てくれる事に甘んじて。

 何もしてこなかった、そう彼は認識していて。


『…………ばかね、アキラは。本当にばかよ、資格なんて必要ないの、アンタがアンタだから、わたしは側にいるし好きなのよ』


『理子……』


『だからさ、もっと胸を張りなさいよ。アキラが隣に居るから、今のわたしが居るの、アンタを好きになった、愛してるわたしが居るの』


 アキラに微笑み、繋いだ手に軽くキスをする。

 こんなに愛の言葉を受けて、自分も言わないのは嘘だと。

 どうしようもなく、手遅れな程に己を愛する彼に少しでも答えるように。


『ありがとう、あの事故のお陰でわたしは生きているの、こうして今、笑ってアンタの側に居られるのよ』


 それだけじゃない。


『いつも喧嘩してくれて嬉しかった、ありのままのアキラをわたしに見せてくれて、突然押し掛けて徹夜で遊んでもアンタは一緒に楽しんでくれた……』


 依存していた訳じゃない、けれどアキラに理子は。


『甘えてたの、アキラは何でもわたしと一緒にしてくれたから、夜中に何キロも離れたコンビニにアイスを買いに行った時もさ、自転車の後ろに乗っけてくれて。学校でも他の男子の視線から守ってくれてるの……実は知ってた、気づかないフリをしてただけよ』


『…………嬉しい、ああ、嬉しい、幸せだって言葉しか出てこねぇ』


『アンタが好きになるのは、わたしだけって。……違う可能性だってあったかもしれないのに、そう思いこんで、今に甘えてたの、アンタの気持ちに甘えてたの』


 だから。


『これからは、わたしに甘えなさい、ううん、甘えてよアキラ。アンタがダメな時は一緒に考えたい、アンタが望むならさ、それはわたしの望みなの』


『――――ッ、理子!!』


『ふふっ、ちょっと苦しい……強く抱きしめすぎよ。でも……嬉しい、こうやってアンタに抱きしめられると安心する、ドキドキする、アンタを感じたい、何処までも行けるってそう思うの。――だから、愛される資格だなんて言わないで、そんなもの何処にも無いんだから、わたしはアンタを愛してる、アンタもわたしを愛してる……それだけで良いのよ、きっとさ』


 なんて嬉しいのだろうか、アキラは語彙力を喪っていた。

 この喜びをどう言い表せばいい、この感謝をどう伝えれればいい。

 この愛を、どうやったら伝えられる。


『…………わたしも同じ、アンタに伝えたい』


 今のアキラには、理子の気持ちも伝わってくる。

 彼と同じく、でも強いから、しっかり言葉で伝えてくれる。

 その事実が、とても愛おしい。


『これ……付けてよ、…………違う、わたしが付けるから…………もう今は言葉は要らないから、ね? めいっぱい愛してよアキラ――――』


 その言葉を切っ掛けに、彼は愛欲で動く獣になった。

 余す所なく理子という存在を丁寧に丹念に貪り、愛する獣になった。

 やがて、部屋に蜜のような甘く粘った空気が満ちた時。


『――――これで、いいわ』


『なら、行くぞ…………ッ!』


 アキラと理子は、本当の意味で初めてを交換した。

 何度も何度も、時の進みを忘れて。

 どちらも、愛欲のみが支配する野獣のように。


 そして、いつの間にか泥のように二人は眠りに落ちた。

 理子はその瞬間、ガチャリと何かの音を聞いて。


(起きたら……ふふっ、一緒に家に帰ろアキラ……)


 タブレットには、二人に配慮して通知だけが来ていた。


『クリアおめでとうございます、何時でも自由にこの部屋から出られます。


 余ったポイントを使い切ってからでもよし、そうそう自己目標の達成時の【お願い】も忘れずに。


 では、これよりは甘い恋人の時間をお過ごしください、


 貴方達二人に、幸せな未来を。天使達はいつもそう願って見守っています』


「…………そっか、オレらはクリアしたのか。ははッ、そうだよな。あー……セックスしちまったな、とうとう」


 そのメッセージを、アキラは一人で見ていた。

 彼も疲れて眠っていたが、喉の渇きを覚えて途中で起きていて。

 恋人になった、愛を交わし合った、両想いになった。

 その充実感が、彼にはとても嬉しい。


「帰ったらどうしようか、うーん、そういや学校行かなきゃなぁ……」


 幸せな未来予想図を描きながら、すやすやと寝息をたてる理子の顔を見つめる。


(愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる)


 何度言っても満足できない、セックスする前より強く強固に愛してるという感情が強まっている。

 心の声を伝える薬の効果はとうに切れている、もっと、もっとあの薬が欲しくなる。


「――でも、それじゃダメだ。これからはちゃんと言葉にして、行動して伝えないとな」


 どうやってそれを伝えるのか、考えるだけで楽しくなってくる。

 彼女もまた、同じ気持ちだと嬉しい。

 見れば見る程に、理子の姿が美しく感じて。


(…………待て、こんなに綺麗すぎると他のヤツが視線を向けるんじゃねぇのか??)


 気づいてしまった、こんなに魅力的な女の子を放っておく男が存在するのだろうか。

 守らなければ、独占しなければ、危機感がアキラを襲う。

 今すぐ行動しなければと、心を突き動かす。


「――――――理子は、誰にも渡さない、触れさせない、コイツの声を聞いて良いのはオレだけだ、コイツを見るのはオレだけだ、コイツの目に写るのも、コイツが触れるのも、コイツが聞くのも、…………全部、オレだけだ、嗚呼、オレだけにしなきゃ」


 彼はぶつぶつと呟きながら、タブレットから交換ページやルールを読み込んでいく。

 独占するにはどうしたら良いか、考えを練り上げていく。

 ――セックスしないと出られない部屋・九日目。


「……………………え?」


 朝起きた理子は、あくびをしつつ扉が開くかどうか確かめて。

 開くはずである、タブレットのメッセージも見た。

 だが、ガチャガチャと動かしてもドアノブは動かず。


「何でまだ開かないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 理子は思わず、大声で叫んでしまったのであった。


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