第119話 制作会議をしてみた
「――というわけで……第1回、あにめ制作会議ーっ!」
『『『――いぇええええ~~い♪』』』(ネットのフリー音源)
ローナが“あにめ”を創ると宣言した翌日――。
さっそくローナは、メルチェ&コノハと、ドールランド商館の会議室に集まっていた。
ちなみに、メルチェも『“あにめ”を創る』というローナの宣言を聞くなり、すぐにキラキラ女児オーラを取り戻し――。
「それじゃあ、まず『“あにめ”をどうやって作るか』という議題についてですが……」
「まー、やっぱ難しそうだよねー。人間にはない技術を使ってる感じもあるし……」
꙳✧˖°⌖꙳……ええ、課題は山積みね✧ でも、大丈夫……自分と仲間を信じて頑張れば、夢はきっと叶うわっ!꙳✧˖°⌖꙳
「うおっ、まぶしっ」
元気よく、ぴかーんっと発光するキラキラ女児(メルチェ)。
彼女の元気が出たのは、いいことなのだが……。
労働や賭博の日々ですり減っていたローナとコノハには、その輝きは少し眩しすぎた。
「あ、あの、メルチェちゃん? ちょっと眩しいので、光量を2段階ほど下げてもらっていいですか?」
「……下げたわ✧」
「下げられるんだ、それ!?」
「……ちなみに、光の色は7色から選べるわ✧」
「わぁっ、げーみんぐメルチェちゃんだ!」
「キラキラ女児オーラとは、いったい……」
……謎は深まるばかりだった。
それはそれとして。
「……そんなことより……まず、どうやって、“あにめ”を作るかが問題ね✧」
と、メルチェが話を戻す。
「……そもそも、神々はどんな魔法で、“あにめ”を作ってるのかしら? 幻術かなにか?」
「いえ、ちゃんと鉛筆で絵を描いてから、色を塗ってるみたいです。とくに昔は、1枚1枚、絵の具で色を塗ってたみたいでして……」
「……て、手書きで、こんなにぬるぬると?」
「うへぁ、想像するだけでも工数えぐそう……」
「ちなみに、昨日インターネットで“ぐぐる”してきたんですが……神様たちは、“あにめ”1話あたり何千枚も絵を使うみたいですね。多いときには1~2万枚も絵が必要で、“おーぷにんぐ”や魔法少女の変身シーンなんかは、それだけで数千枚の絵を――」
「……よし、絵で作るのはあきらめましょう✧」
「で、ですね」
さすが神々の娯楽といったところか。
人間になんとかできる作業量ではなかった。
「んまー、そもそも絵ができたところで、それを動かす技術がないしねー……」
「……とすると、やっぱり幻術でなんとかするしかないわね✧」
「ただ、幻術スキル持ちって、わりと貴重だからねー。“あにめ”を作れるほどの人材ってなると、あたしのデータにもないほどだし」
「あっ、それなら! 私の知り合いに幻術の専門家がいますよ! マリリリーンさんって言うんですが」
――水月の魔女マリリーン。
それは、水を使った幻術のスペシャリストだ。
以前は、幻術で海王に化けて、海底王国アトランを乗っ取ったりもしていたが……。
今はもう心を入れ替えて、海底王国アトランの“聖地”で働いており。
「マリリリリーンさんの連絡先は知ってるので、ちょっと通信水晶で幻術について聞いてみますね!」
「……頼むわ✧」
というわけで、ローナがさっそくマリリーンに連絡を入れてみると。
すぐに通信水晶から、マリリーンのきゃぴきゃぴした声が聞こえてきた。
『あっ、ザリちー? 今日はどしたの――』
「えへへ、ザリチェさんだと思いましたか? 残念、ローナでした!」
――ブツッ!! ツー……ツー……。
「…………」
「…………」
「あ、あのさ、ローナ? もしかして……嫌われてる?」
「そうかもしれません」
「……なにか思い当たることでも?」
「う、うーん。やっぱり……この前、なれなれしく『くららら~☆』って挨拶したのがいけなかったのかもしれません」
「……えっ、なに? くららら?」
「い、いやいや、急にそんな意味不明なこと言われたら、『関わっちゃいけないやつ』認定されるに決まってるって」
「……きっと、相手もすごく怖かったと思うわ……知り合いがいきなり『くららら~☆』なんて言ってきたら」
「ですよね……」
ちなみに、それからもう一度、マリリーンと連絡を取ろうとしたが。
『――おかけになった通信水晶は、現在、お客さまのご希望によりおつなぎできません』
「…………」
「…………」
「……
「そ、そっか」
というわけで。
ローナは直接、マリリーンに会いに行くことにした。
「――マリリリーンさん、こんにちはーっ!」
「こ、こいつ、呪いのアイテムかなにかなの……?」
海底王国アトランの“聖地”。
どこまでも広がる、鏡のような水面の中――。
巨大クラゲに腰かけた深海色の魔女マリリーンが、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしながらローナを出迎えた。
「はぁ……というか、あたしの名前はマリリーンよ。何度も言ってるでしょ」
「ご、ごめんなさい、噛みまみた。マ、マりっ……マリリリリーンさん」
「“リ”の増量キャンペーン中なの?」
「マ、マりっ……マリオパ○ティさん」
「どんな噛み方よ!?」
「マ、マりゅっ……マりゅリっりゅーンさん」
「…………」
「…………」
「…………」
「……口の中から血の味がします」
「あたしの名前のせいで負傷するのやめてくれる?」
そんなこんなで。
ひとまず、マリリーンの名前については要練習ということになり。
「……で、今日はなにか用なの?」
「あっ、はい! ちょっと、マリンリンさんに相談がありまして。今、“あにめ”っていうのを作ろうとしてるんですが……」
「あにめ?」
というわけで、マリリーンに“あにめ”を見せてみた結果。
「ふーん? これ、幻術? 絵を動かすなんて新し――」
꙳✧˖°⌖꙳――るぉおおおお~っ!꙳✧˖°⌖꙳
「「「――ぷいき○あ、がんばえーッ!!」」」
マリリーンを差し置いて、めちゃくちゃ水竜族たちが釣れた。
「る? るぅうう~~っ✧」「るっ✧ うるるるるるっ✧」
いつの間にか、キラキラ女児オーラを放ちながら“あにめ”の画面にかじりつく水竜族の姫ルル×2。
さらには、その声につられて水竜族たちが『なんだなんだ?』と集まり、気づけば入れ食い状態になっており――。
「こ、この魚ども。でも、ま……たしかに、“あにめ”ってのは面白い幻術ね」
「はい、ですよね! それで相談なんですが……マディーンさんの幻術で、こういう“あにめ”みたいなのって作れますか?」
「ま、作れるんじゃない?」
「やっぱり、難し――えっ、作れるんですか!?」
「くらららら☆ 愚問ね、あたしを誰だと思ってるのかしら? あたしは世界一の幻術使い――水月の魔女マりゅんっ……マリリーンよ!」
自分でも噛んでいた。
「こ、こほん……ま、見てなさい。水天魔法――アクアスクリーン!」
マリリーンがそう魔法名を唱えながら杖を振ると。
魔法陣から現れた水が、浮かび上がって板状になり……。
その水の画面上で、ルルの絵が『る! る!』と言いながら、かくかくと動きだした。
「わぁっ、すごい! “あにめ”だ!」
マリリーンなら幻術にくわしそう、とは思っていたが……これは、思っていた以上だった。
さすが、自分で『世界一の幻術使い』と名乗るだけのことはあるだろう。
これには、ルル×2も大はしゃぎであり。
「るっ✧ ルルが“あにめ”になったぞ✧」
「る? ルルの“あにめ”だが?」
「る? なんだやるか?」
「「――うるるるるぅ~っ✧」」
「あぁっ、キラキラ女児が自分同士で争いを……」
「ま、そこの姫×2はともかく……即席の幻術だと、こんなものね。時間をかけてイメージを固めれば、もっとよくなるとは思うけど……」
「えっ、これよりもですか!? あ、あのっ! でしたら――」
「いや、言っとくけど、あんたの“あにめ”作りに協力しろって言われてもやんないわよ? なんで、あたしがそんな面倒なこと……」
と、マリリーンが言いかけたところで。
꙳✧˖°⌖꙳……るぅ? “あにめ”、作らないのか?꙳✧˖°⌖꙳
「うぐっ!?」
さっきまで、“あにめ”にはしゃいでいた
さらには、周囲の水竜族からも、期待のまなざしがマリリーンにそそがれており――。
「あ……あぁ~っ、もぉ~っ! 作ればいいんでしょ、作れば!?」
結局、マリリーンはあっさりと折れた。
「こうなったら、“あにめ”でもなんでも作ってやるわよ! どうせ最近は、“聖地”の開拓も落ち着いてきて暇だし……そう、あくまで暇つぶしにね!」
「わぁっ! ありがとうございます、ミャリリーンさん!」
「「るぅぅ~♪」」(抱きっ)
「ちょっ……抱きついてくるなぁっ! べ、べつに、あんたたちのために作るんじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!」
というわけで、作画担当マリリーンが仲間になったのだった。
◇
それから、数日後――。
ふたたび、ドールランド商館の会議室にて。
王都まで来てくれたマリリーンも加えて、第2回目の“あにめ”制作会議が開かれた。
「というわけで、こちらが幻術の専門家のマリリリーンさんです!」
「はぁ……マリリーンよ。なんだか知らないけど、あんたたちの“あにめ”作りを手伝うことになったわ」
「……協力感謝するわ、マリュリっ……マリリリーンさん✧」
「もうそれでいいわ」
こうして、簡単な自己紹介を済ませたあと。
さっそく、作画担当マリリーンを入れて話し合いが始まり……。
「それじゃあ、まずはどんな“あにめ”を作るかですが――」
꙳✧˖°⌖꙳――わたしは魔法少女がいいと思う✧ この世界には子供向けのストーリーコンテンツが少ないし、子供が魔法少女を見れば大人も一緒に見るわ✧ そして、子供が大人になったときに、その子供に魔法少女を見せるようになる……こうして、魔法少女は永遠となるの✧ まるで、円環のように――꙳✧˖°⌖꙳
「あ、はい」
すごい早口だなぁ、とローナは思った。
「でも、私も魔法少女いいと思います!」
「まー、異議なしかなー」
「あたしはなんでもいいわ」
というわけで、制作する“あにめ”の題材は、『魔法少女』に決まり――。
「あっ、でも……マリモッチさん? 幻術で“あにめ”を作るにあたって、なにか制約や誓約ってありますか?」
「制約や誓約? まあ、そうね……幻術はあたしのイメージで作られるから、『よく知ってるもの』じゃないと作るのが難しいわね」
そう言って、マリリーンが先ほどのように幻術で水の画面を作る。
その画面の中には、メルチェの絵が動いていたが……。
とくにマリリーンから見えていない背中側は、ふにゃふにゃとぼやけており。
『……わたし……は……魔法少女……よ……』
声も切り貼りしたような、ちぐはぐさがあった。
「とまあ、こんな感じだから……どんな“あにめ”を作るにしても、
「なるほど、“中の人”が必要ってことですね!」
「中の人? ま、言い得て妙ね」
「んー、それだとキャスティングも重要になりそうだねー。できれば、人気があって魔法も使える人がいいけど……」
「……それと、女の子たちが憧れるような“かっこよさ”も欲しいわ✧」
「ほぇー」
「なら、ローナはダメかぁ」
と、ローナたちが、うーんと悩んでいたところで。
ふいに、商館の外から――。
「「「――わぁああああああああ……ッッ!!」
と、歓声がとどろいてきた。
「? なんだろう?」
「……騒がしいわね?」
と、ローナたちが窓の外を見ると。
ドールランド商館前の大通りで、凱旋パレードがおこなわれている真っ最中だった。
「うおおおっ! 人類の英雄エリミナ様が、魔族の“首”を持って凱旋したぞ!」
「エリミナ様、すげぇええっ!」「エリートすぎるぅっ!」
「人類にエリミナあり!」
「「「――エリミナ! エリミナ! エリミナ!」」」
と、大歓声を上げている群衆の先には。
凱旋馬車の上でなぜか困惑したようにおろおろしているエリミナの姿があり――。
「「「――こ、これだっ!」」」
と、ローナたちに電流が走るのだった。
……エリミナが大観衆の前でアイドルライブをするまで、あと6話。
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