第45話 海底を歩いてみた


「えっと、『月のマークが刻まれた岩』……あった! 海底王国アトランへは、ここから行けるみたいですね」


 海底王国アトランへ行くことを決めたあと。

 ローナたちはインターネットに書いてある地点へとやって来ていた。


 目の前にあるのは海に面した崖。

 道などはどこにも見えないが……インターネットによると、この先に海底王国アトランまでつながる道があるらしい。


「……本当にここから行けるのか、げぼく?」

「ルルをだましてないか? 道なんてどこにもないぞ?」


「うーん……やっぱり、人間が海底王国アトランに行くには、特別なアイテムが必要なんじゃないかしら? もし本当に道があったとしても、生身で海底に行けるとは思えないし……」


 と、疑いの声がルル×2とアリエスから上がるが。


「あっ、その辺りは大丈夫です」


 ローナは確信を持って答える。

 そう、インターネットに書いてあることに、今まで嘘はなかったのだ。

 だから、今回も信じるだけである。

 というわけで――。


「あっ、危険なので3人とも離れていてくださいね」


「え、ローナちゃん?」


 ローナはそう言うが早いか。

 アイテムボックスから取り出した爆弾を、ぽいっと足元に置き――。


「ろ、ローナちゃん……なにを? ローナちゃ……ローナちゃんんんん――ッ!?」


「「げぼくぅううっ!?」」



 ずがぁあああああんッ!! と、大爆発するローナ。


 そのまま、ぴゅーんっと海に吹き飛ばされたローナは、海面へと叩きつけられ……ることはなく、すかっと海面をすり抜け――。


 ――――ごッ!! と。


 に頭を打ちつけた。


「うぅ、痛――くはないけど、けっこう怖いね……とりあえず、成功したのかな?」


 海に入ったはずなのに、普通に呼吸もできるし、普通にしゃべることもできるし、濡れている感覚もない。


 もしかして、海とは別方向に飛ばされたかとも思ったが。

 ローナが起き上がって、辺りを見回すと――。


「お、おおぉ……っ!? す、すごい、本当に海の中にいるっ!」


 ローナの視界に飛びこんできたのは、幻想的な海底の景色だった。

 海面からゆらゆらと降りそそぐやわらかな光。

 ちらちらと鱗を光らせる魚の群れ。そして、色とりどりのサンゴの並木の合間には、青い光でできた道がどこまでも伸びている。


「よし、成功……したっぽいね!」


 ローナが海底でほっと息を吐きながら、手元のインターネット画面を改めて確認した。



――――――――――――――――――――

■マップ/【海蛍の散歩道】

 地上と【海底王国アトラン】をつなぐ海底の道。

 かつては、生贄に捧げられた巫女がこの道を通ったとされる。

 数多くのお使いクエストをこなして、【水竜の竪琴】と【水竜の唄】を入手することで、海が割れて通れるようになるが……。


 海を割らずとも、『爆弾などで後ろ向きに大きく吹き飛ばされる』という状態でこの道に入ると、水面の当たり判定がなくなり、そのまま水中歩行できるというバグがある。

 運営いわく、「それは仕様です」。

――――――――――――――――――――



 なんか、今回もいろいろショートカットしてしまった気もするが、ともかく――。


「うん、インターネットに書いてある通り♪」


 ローナは試しにその場で体を動かしてみるが、水の抵抗などもまったく感じなかった。あきらかに水中なのに、地上と同じように歩くこともジャンプすることもできる。


(……う、うん。インターネット通りだけど……どういう原理なんだろう、これ?)


 一応、地上と同じように行動できる範囲は、『この光っている道の中だけ』という条件があるらしいし……この道自体になにか特別な魔法がかけられているのだろうか。

 と、水中でいろいろ検証していたところで。



「「――げぼくっ! 無事かっ!」」



 ルル×2が慌てたように泳いできた。

 どうやら、ローナを心配して追いかけてきたらしい。


「あ、ルルちゃん! こっちです!」


 と、ローナが元気よく手を振ってみせると、ルル×2はぽかんとした顔をする。


「「え……平気なのか?」」


「はい。なんか水中でも普通に呼吸もできるみたいです」



「「…………げぼくって、本当に人間なのか?」」



「人間ですよ!?」


 と、変な目で見られてしまったが。

 そんなこんなで、水中歩行の検証も済んだところで。

 いったんローナだけ陸に上がって、アリエスに無事を伝えることにした。


「よかった、ローナちゃん! 無事だったのね!」


 アリエスにぎゅっと抱きしめられる。ちょっと酒臭かった。


「それにしても……まさか、『爆弾で吹き飛ばされることで道が開かれる』だなんて思わなかったわ。もしかして、その爆音と悲鳴こそが――“水竜の音色”と“水竜の唄”ということ……?」


「そ、そうなんですかね?」


 ローナは適当にはぐらかした。思いっきり抜け道を使ったとは言いづらかった。


「あっ、そうだ。アリエスさんもアトランに行きますか? たしか、アリエスさんの神殿の聖地なんですよね?」


「い、いいの? うーん……爆弾で吹き飛ばされるのは怖いけど、やっぱり水竜神殿の神官としては聖地であるアトランに一度は行ってみたいし……よし、決めたわ!」


 アリエスが決意を固めた顔をする。


「ローナちゃん、わたしを爆弾で吹き飛ばして! それで、みんなで海底王国へ行きま――」


 と、アリエスが言いかけたところで。

 その肩にぽんっと誰かの手が置かれた。



「――アリエス・ティア・ブルームーンさんですね?」



「へ?」


 ふり返ったアリエスが、ぴしりと固まる。

 その視線の先にいたのは、2人組の衛兵だった。


「え、衛兵さんがわたしになんの用――」


「あなたには、『往来で未成年者に飲酒をすすめた疑い』がかけられています」


「……………………」


「ご同行いただけますね?」


「………………はい」


 というわけで、衛兵に連行されていくアリエスを、ローナはぽかんとしたように見送ったあと。


(うん、また今度つれて行ってあげよう……)


 と、ひとりで海底に戻った。


「「……る? あの人間はどうした?」」


「衛兵さんに連行されました」


「「そっかー」」


 そんなこんなで、ローナはルル×2とともに、海底にある光の道を進んでいくのだった。

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