8 ナイティア伯爵令嬢エンドローズ(2)

「その辺りをどうしようか迷っているのですよ、エンドローズ様。

 今さっきあれこれ事実が判明致しました様に、この男はあちこちの女性に声を掛けるわ手を出すわの不埒者。

 そんな男が、まだ若い貴女の様な方の将来に大丈夫かと思うのですわ」

「ティムス様とはあの、私が初めて夜会に出た時に…… 気さくに話しかけて下さいましたの」

「いや、それはまだほんの少し前じゃないか!」


 伯爵が声を荒げた。


「ルージュ殿、この子はまだ社交界に出てから一年も経っていませんのですぞ」


 社交界のデビューは大概女性では十六、七。


「先日確か、十八のお誕生日のお祝いにお招きいただきましたね」

「……ああそうだ。

 それに対し、ティムス、君は何だ、もう三十を一つ二つ越えていたはずだが!」


 ティムスは殴られた時の衝撃で腰を抜かしたまま、その場から動けない。

 伯爵の声ばかりが、広間の中に響く。

 そしてそんな彼に対し、ルージュは冷ややかに問いかける。


「そう、正直、伯爵様の方が彼の方の歳に近いのでしょう。

 そんな方に手を出すなんて、どうですの、貴方。

 他の方々も何ですが、子供まで作ってしまうとは。それに関してどう思っていらっしゃるの?」

「今まで誰も妊娠しなかったから……」

「まあ! 

 貴方はそこまで馬鹿だとは思っていませんでしたわ! 

 だって私は流産したのですよ! 

 一度妊娠したのです。

 流産したの私の受け皿としての身体はともかく、貴方が種なし、ということはありえませんのよ! 

 それとも、浮気の相手の方々だったらできないとか、皆女性の方ができない様にしているとでも考えてらしたの!? 

 それこそ筋が通りませんわ」


 そしてルージュは浮気相手達に対し、問いかける。


「皆様、この節操無しに対し、どんな避妊をしてらしたのですか?」


 言ってやりなさい、とそれぞれの夫がうながす。


「……外で出してもらう様にするとか」

「もしそうであっても、必ず行為の後は中を洗うとか、私は病院で消毒に使っている薬を脱脂綿に浸して先に中に詰めていたり……」

「そう、皆様それなりに知識がありますから、効果がどうであるかはともかく、手は打っていらしたのですね。

 エンドローズ嬢、貴女はそういったことをご存じでは?」


 黙って顔を真っ赤にして首を大きく横に振る。


「そうでしょうね。さすがに結婚直前だったら、伯爵夫人もお教えしたのかもしれませんが…… 

 まだこのお歳では、そこまで考えが及ばなかったのも仕方がありませんわね」

「いや、その、それは……」

「貴方、そんなことも気付かずになさっていたの?」


 ルージュの舌鋒はティムスに鋭く突き刺さった。


「し、知らなかったんだ」

「何をですか。

 中で出しても、種のある貴方が誰かを妊娠させる可能性は無いとか思っていたんですか? 

 それとも何ですか、先頃迷信として信じられていた、女は男によって身体が変わるから、決まった男のものしか受け付けないとかそういう俗説を信じていたとか?」

「あ、あ、ああ……」

「本当に病院の関係者となるには相応しくない人!」

「確かに。さすがにこれでは、私も愛想が尽きるってものですよ」


 そう言ったのは、ワイルド夫人アデラインだった。

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