3 ワイター侯爵夫人マリエ(1)

「マリエ様、このたびのことは本当に残念でございますわ」


 ルージュ達の右斜め前、バルコニーに面した場所に配した席に座った彼女はぐっと息を呑んだ。

 テーブルの上には、ラベンダーやジギタリスといった色鮮やかな花が、白いかすみ草を低く並べた中に立ち並んでいる。


「な、何を言うの。私が何かしたとでも……」

「調べはついていますのよ、マリエ様。

 貴女がうちの夫とずいぶんと親密な仲になっているということは。

 病院を共に経営する仲間として、そちらのお宅とはずいぶんと仲良くやってきたというのに、私、とても残念ですわ……」

「さて何のことやら」

「ではちょっと証人を呼んで来ましょうか」


 合図をすると、先ほど夫の両親兄達を呼んだ様に、奥からさっぱりとした格好をした若い女性が三人、そして温厚そうな紳士が一人やってきた。


「こちらの二人は、病院で看護の仕事をしている方々。そしてもう一人の女性は…… マリエ様、ご存じですね」

「アガタ! 一体お前、何を……!」

「すみません奥様。

 でも、いくら何でも、私、自分がお仕えしているお屋敷で、あんな破廉恥なことを、奥様が旦那様以外の男性となさっているなんてこと、見逃すことができませんでしたの」


 そう言ってちら、とワイター侯爵の方を見る。はっとしてマリエは夫の顔を見る。


「貴方! まさかアガタに手を出していたの!?」

「手を出したとはまた人聞きが悪いなマリエ。

 私は侯爵として、使用人をある程度自由にできる権利がある。

 特にこのアガタに関しては、家の借金を肩代わりしている関係もあって、何をされても構わないという証文つきだ。

 とは言え、別にこの子にお前があの男としていた様なことはしていないよ。

 出来が良い子だったから、やがてはメイド長にできる様に、しっかり仕込む様に家政婦の方には命じてあったが。

 そう、あくまで忠誠心の現れということだな。

 アガタ、マリエは一体我が屋敷でどんなことをしていたというのだ? 答えてみろ」

「はい旦那様。

 奥様はもうこの一年というもの、旦那様がお帰りにならない日、そう、週に一回はあの方を自室に迎え入れては、はしたないことをなさっていらっしゃいました」

「どうはしたないことかな? 口に出せる範囲でいいよ」


 するとまだ年若い、少女と言っていいメイド、アガタは顔を赤らめ、言い籠もった。


「あの…… 奥様はピアノの上に座ったあちらの方の前にひざまずいて…… その……」 

「性器を露出して口に含んでいたということでしょう?」


 横に居た他の女性がその言葉を引き継いだ。

 それ以上言わなくていいよ、とその女性は少女の肩を叩く。

 ルージュはその様子を見ると、切り出した女性にこう問いかけた。


「さて、それでは貴女の言い分をお願い致します。病院で、主に夜勤を担当しているのでしたね、ミゼットさん」

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