第10話伯爵家長男side 

 

 傍聴席から心無い言葉が聞こえてくる。


「信じられない。伯爵家にどのような教育をしているんだ?」


「親が子供の行動を許していたということか?」


「幾ら婚約者の家だからといっても他家だぞ?」


「元々、伯爵は宰相閣下のお気に入りだ。上手く取り入って自分の息子をヘスティア嬢の婚約者に出来たものだから欲を掻いたんだろう」


「おぞましい」


「自分達が公爵家に取って代わろうとしていたとは」


「よくもまぁ、恩を仇で返すマネが出来たものだ」


「息子が4人もいる中であえて凡庸な三男を婚約者にしたのも乗っ取りの布石だったのではないか? 見るからに人畜無害そうな外見だ」


「ええ、伯爵夫妻に全く似ていない三男ですものね。他者が同情するのに打ってつけの息子、ですもの。クスクスッ」


 父は羞恥心と怒りで顔を真っ赤にしている。

 母はというと、卒倒してしまった。無理もない。母を支えているウォーリを見ると首を横に振られた。気を失っているのか……。気持ちは分かる。僕も気を失いたいよ。だが気を失っている場合ではない。その後も聞こえてくる言葉の暴力。


「伯爵夫人は気を失っているようだわ」


「みっともない」


「演技ではないの? 御自分達が不利な状況を脱するための」


「あらあら、同情を誘おうという事かしら?」


「あれだけの余罪があるんだ。叩けば更に埃が出るだろうよ」


「まともな貴族なら関わりたくない部類ですものね」


「外面が恐ろしく良いからな。我らも騙された」


「劣等生の三男様様だな。奴が本性を表してくれなければ今でも騙され続けていたんだからな」


「まったくだ」


 この場所にフェリィーを連れて来なくて正解だった。

 まだ15歳の子供という事と「何時もの発作が起こった」という理由で裁判所に連行されるのを防げた。日頃の仮病がこんな処で活かされるとはな。皮肉な話だ。勝気で母親っ子のフェリィーなら傍聴席に食って掛かっていただろうから本当に連れて来なくて良かった。


 それと同時にヴィランに『声が発する事が出来ない薬』と『体を自由に動かせられない薬』を飲ませたのは正解だった。



 裁判の結果が出た。



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