第8話伯爵家長男side

 

 裁判の結果は散々だった。


 当事者のスタンリー公爵家の方々は誰一人出席しなかった。としてスタンリー公爵家の執事長とメイド長が出席した。


 本人達が欠席した理由は――


「我がスタンリー公爵家の直系を根絶やしにしようと考える輩がいる中で全員参加は出来ない。何しろ当主夫妻我々とであるヘスティアの前で堂々と乗っ取りを宣言できる者達なのだから。裁判所に出向いて何らかのアクシデントが起こり、私達一家だけがわないとも限らないからね。何しろ被告側には裁判所に大変詳しい人物が出席するのだ。用心に越したことはないだろう? しかも相手は法を変える御専門だ。公爵家が知らない間に『養子縁組』の書類を提出されていたらどうなる? それこそ目も当てられないよ。死人に口なし、異議を唱える者がいなくなれば公爵家は彼らの手に落ちてしまう。それを避けるための措置はさせていただくよ。勿論、構わないよね? それとも裁判所は我々に何かあった場合の責任をとって頂けるのかな?」


 スタンリー公爵の多分に含みを持った言い回しに裁判所は異例の措置を取るしかなかった。



 もっとも、代理人は只の代理ではなかった。

 彼らも訴える原告側だった。


 文字通り、公爵家の代理。


 そこで聞かされるヴィランへの非難の言葉。婿入りだというのに屋敷の主人であるかのような態度、公爵令嬢に対して誠意浮気を示さない行動の数々、飲食及び購入物の請求書が何故か公爵家に来た事、公爵一家の家族旅行にも何故か一緒に付いてきた事、公爵家の屋敷の使用人に対する横柄な態度、特に若いメイドは寝室に連れ込まれかけた、などなど。



 聞いているこちらが恥ずかしくて仕方なかった。

 ヴィランは伯爵家実家では「箱入りの甘ちゃんだが気のいいお坊ちゃま」だった。「使用人に舐められるほど優し過ぎる」と父上から叱責される程だ。そのヴィランが公爵家では正反対の態度だった事に驚きを隠せなかった。だが、証拠が多数提出されている以上「濡れ衣だ」とは言えなかった。


 ヴィランが店でのツケをしていた事も知らない。束になって提出された請求書。


「これはに過ぎません」


 公爵家の執事長の言葉が耳から離れない。


「まあ、スタンリー公爵家においてはに過ぎませんでしたが」


 との嫌味付きだった。


 極めつけは――。


「ヤルコポル伯爵家は息子の養育費も払えない程に困窮しているのかもしれない、という旦那様のお言葉もありましたので、将来は親戚になる伯爵家の恥を世間に晒さないためにも伯爵家との事業展開を持ち掛け出資なさった程です」


 スタンリー公爵家との事業提携は数年になる。殆どの資金は公爵家が出していたが……まさかヴィランの事が原因だったとは思いもしなかった。横に座っている母は静かに泣いている。事業提携の背後にそんな理由があった事を父も知らなかったのだろう。表情を取り繕う事も出来ずにいる。ウォーリが母を慰めようとしているが、僕は慰める言葉が見つからない。


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