第30話

〜ストワード中央 アントワーヌ自室〜


「分かったよ。ランプの封印の件は、俺とザックが責任を取ろう」

アレストがアントワーヌと握手をする。レモーネはホッと胸をなで下ろした。


「アレスさん」

ノック音。アレストが立ち上がる。ドアに耳をつけて、目を閉じた。

「......」

合言葉が聞こえる。頷いてドアを開ける。

「ゾナリス。そのままシャフマに帰っても良かったんだぜ?」

アレストが笑って言うが、ゾナリスの表情は暗い。

「あぁそれと、ザックの件はありがとう。助かったぜ」

「......旦那、」

ゾナリスが膝をつき、床に頭をつけ、土下座した。

「本当に申し訳ございません!!!ザックぼっちゃんたちが、さらわれました!!!」

「えっ......?」


「......なるほど。そんなことがあったんだな」

アレストとアントワーヌ、レモーネがゾナリスから経緯を聞いた。

「ザックが何者かに狙われたのか?」

「......誰が目的だったのかは、分からない」

「うーん、ザックが俺の息子とバレているのか?情報が足りないね」

アレストが部屋の中を歩き回る。

「まぁ、焦ったところで仕方ないさ。連れ去られてから3日経っているんだろう?ころすのが目的ならばとっくにころされているさ」

「だ、旦那......!」

「ギャハハ!!俺の息子が簡単にしぬわけがないと言ったのさ!!!しかもアイツは長男だ!一番俺の方の血が『濃い』」

「『濃い』......?」

「他のきょうだいも俺と相棒と同じ魔力量だが、ザック以外は魔力の出力方法に個性があるのさ」

アレストが口角を上げる。

「ザックは俺と同じ回路で魔力放出が出来る。だから雑に強いのさ」


「調子に乗ってアントワーヌサンの家を焼くくらいには、ね」



〜シャフマ地区 中央 王宮跡地〜


「姉さん、姉さ〜ん」

「今行くわよ」

酒場のドアを叩いていたのは、ロヴェール。腰まで伸びた金髪、真っ赤な瞳。彼は20年の時を経て、30代前半の外見になっていた。

「ねぇ、アレストのバカいる?」

「あのバカならいないわよ。ストワードに行っているわ」

「ストワード!?......アントワーヌの呼び出し?」

「そうよ。よく知っているわね」

「......姉さん、少し2人で話したい。大変なことになった」

「......?」



「ランプの封印が解けた!?」

ルイスの自室。姉と弟が向かい合って座っている。

「そう。ストワードのオーダムの魔女が守っていたランプ。あの封印が解けている」

「な、なんでそんなこと分かるのよ」

「ツザール村西のオアシスが干からびた」

「え!?」

思わず立ち上がる。

「あのオアシスが!?相当広いじゃない!」

「村では老いぼれ......長老たちが『シャフマ様の怒りだ』って恐れてる」

「シャフマ様......」

オーダムの魔女は、その神を封印するのが役目だ。

1020年前、長く続いた人間と魔族の戦争が終わり、人間が勝ったとき。ストワードの英雄、初代ストワード国王がオーダムの魔女に命じたこと、それが『魔族の代表、シャフマの封印』。

シャフマはランプに閉じ込められ、1020年もの間、魔女に監視されていた。

「シャフマの意味はストワード語で『砂漠』。シャフマ様は砂漠の魔王だったから、その名前をつけられた......」

「そうだ、姉さん。そして僕たちのもう片方の先祖である、初代シャフマ王子は」

「シャフマ様の魔力で『砂時計』を作成した」


ロヴェールが立ち上がって、ルイスの手を掴む。

「シャフマ様を完全に復活させてはいけない」

「ストワードで、何らかの原因で封印が解け、そのときにランプに触れた者がいる」

「ランプに触れた者を、僕たちは必ず守らなくちゃならない......!」

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