第27話

〜ザック 地下牢脱出から1日後〜

〜ストワード 中央近郊 機関車内〜


「……オジサンの熱、引かない」

ゾナリスはずっと苦しそうにしている。リュックに隠し持っていたストワード通貨で列車内販売の水や食事は与えているのに。

(やっぱり魔力の異常なんだ。でも、ウチは魔法なんて使えないし)

「ヴァレリアちゃん……俺は本当に大丈夫」

無理に作った笑顔。ヴァレリアは首を横に振った。

「このままだと命が危ない。そうだ!」

ずいっ……と、ヴァレリアがゾナリスに顔を寄せる。

「え、何……?」

「ししょーが、言ってた。魔力は唾液に含まれてるって」

「お、おい!待っ……」

「ウチが吸い出せば、楽になるかも……」

「血迷ったらダメだ!ヴァレリアちゃ……」


―グラッ……!!!


突然、車体が大きく傾いた。機関車が急ブレーキをかけたのだ。

「!? て、敵!?」

ヴァレリアが弓を構える。

「た、たすかった……しちゃったらリュウガさんにころされるよ……」


ヴァレリアがドアを開け、前の車両の客をかき分けて先頭から外を見る。

「っ……!砂の怪物!」

砂の怪物が一体、機関車の前にいた。

客たちは悲鳴を上げてパニックに陥っている。

「オジサンを狙ってる……!?」

魔力袋になったゾナリスを探している。

「もうすぐでストワード中央の駅に着くのに!」

ヴァレリアは長いスカートを脱ぎ捨て、髪を縛る。機関車の上に乗り、助走をつけて怪物の心臓の高さまで飛び上がった。

「ウチの弓は……」


「師匠直伝!百発百中!!!」


ビュンッ……!見事、怪物の胸に刺さる。

「……っ!」

しかし、効いていない。血が出ていないのだ。

(血が通ってない……!?)

怪物が右腕を振り上げ、ヴァレリアを殴った。

地面に叩きつけられる。骨が折れる音がして、小さく呻く。

「あ゛っ……!?っは……あっ……はあっ……ゾナリスを、『砂時計の王子』のところに連れて行かなきゃ……」

立ち上がろうと地面に手をつくが、力が入らない。

「ダメ……!ウチが、相手……!」

怪物はゾナリスのことしか考えていないようだ。ヴァレリアから離れて機関車に目をつける。

「嫌……!やめて!!!」


―グサッ!!!


怪物の真上に、槍の雨が降った。

「……え!?」

ヴァレリアが目を見開く。


「ごめんね。迷惑かけちゃって」


機関車の上で槍を持っていたのは


「ゾナリス!!!」


ヘラリと笑った、ゾナリスだった。



「あの様子なら手伝わなくていっか」

隣で女の声がして、顔を向ける。

「ザック!?」

外にハネた真っ黒な髪と、ツリ目を見て言ったが、すぐに違うと気づく。

「あれ……?女の人?」

「私はフィオーレ。リスおじ守ってくれてありがと」

目を細めた顔は、ラビーにそっくりで。

「うふふっ、すぐに倒しちゃったわね。リスおじ〜!ヴァレちゃんは無事よ〜!」

「おお!良かったよ〜……」

ゾナリスが駆けて来る。

「ヴァレちゃん、動ける?あら。胸の骨を何本かやってるわ」

「えっ!?痛い痛いっ……」

ゾナリスが自分の胸に手を当てて痛がる。

「なんであんたが痛がるのよ。うふふ、大丈夫よ。お姉さんが治してあげるから」

ヴァレリアの胸に手を当て、呪文を唱える。

(楽になってきた……)

「私は白魔法専門じゃないから、あくまで応急手当だけどね。中央に着いたら病院へ行きましょ」

「あ、ありがと……」

「んーん、いーのよ。私、あんたみたいな女の子だあいすきなの」

妖しく笑う。この笑みだ。ギャンブルをやっているときのラビーと同じ顔。

「で、リスおじ。サイレス効いたのね。良かったわ」

「すっかり元気だよ〜。フィオーレが偶然機関車に乗ってて助かっちゃったなぁ」

ヘラヘラと笑って頭を搔く。

「あらん、光栄。うふふっ」

「ヴァレリアちゃん、機関車には傷がつかなかったみたいだ。あと30分で中央へ着く。もう一度乗り直そう」

「うん……!」



「ザックの妹……!?」

「そうよ。ザックから聞かなかったかしら?私たちは五人きょうだいなのよ。ザックが長男で、ラビーが三男ね」

五人もいたんだ。ヴァレリアが驚く。

「そうよぉ〜。私の父さんと母さん、とっても仲が良くて毎日ラブラブなの。うふふっ」

「……そうは見えないけどなぁ」

「いやね、リスおじ。母さんだって父さんのこと大好きなのよ。あれはツンデレってやつなんだから。私分かるのよ」

ゾナリスが「そう……」と小さく言って水を飲んだ。

「……私は長女。ザックの次に生まれてるわ。次男のカルロとは双子よ。私の方が先に外に出たからカルロは弟で私がお姉ちゃんだけど。ラビーの次に次女が生まれてるの。スーザって言って、素直でかわいい子よ」

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